「ひとり時間」がキャリアを変える。池田千恵さんの朝活術
「カウネットモニカ」の会員に対して行った調査をもとに、働く人の悩みと向き合う本連載。第1回は、朝活の第一人者の池田千恵さんに、キャリアアップにつながる「ひとり時間」の作り方や活用法を聞きました。
- photo: Masashi Ura
- edit: Tomoka Moriki, Maki Funabashi
- interview & text: Maki Funabashi
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INDEX
Profile
池田 千恵 さん
株式会社朝6時
代表取締役社長
福島県生まれ。二度の大学受験失敗を機に早起きに目覚め、半年の早朝勉強で慶應義塾大学総合政策学部に入学。以来、就職活動30社落選、20代で窓際社員の危機などの挫折のたびに、早起きの成功体験を思い出し逆境を乗り越える。外食企業、外資系コンサルティング会社を経て、2009年に『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』(マガジンハウス)を刊行し、ベストセラーに。2015年、株式会社朝6時を起業。朝を戦略的に活用する方法を指南している。
9割が「大切」と答えた「ひとり時間」。 それでも確保できない理由とは?
日々の暮らしや仕事のなかで大切にしたい、自分と向き合う「ひとりの時間」。その価値は広く認識されつつも、実際には思うように確保できていない人も少なくありません。今回は、「カウネットモニカ」会員を対象に行った「ひとりの時間」に関する意識調査に着目。「自分だけのための時間」をめぐる現状と向き合い方を検証し、その解決方法を探っていきます。
【調査】
カウネットが運営するコミュニティサイト「カウネットモニカ」。健康・精神・社会的にも良好な状態を指す「Well-being(ウェルビーイング)」の視点から、会員1,489名を対象に「ひとりの時間について」の調査を実施しました。
2024年9月4日(水)~9月10日(火)、「カウネットモニカ」の男女の会員、合計1,489名に意識調査を実施 ※出典:カウネットモニカ
【結果】
「ひとりの時間は大切ですか」という問いに対して、実に9割以上もの人が「ひとり時間が大切」と回答。多くの人が、自分自身と向き合う時間の必要性を感じていることが明らかになりました。
【背景】
一方で、「家族の世話や家事に時間がかかる」「仕事や学業が忙しい」などの理由から、実際にひとり時間を確保できている人は限られています。
【課題】
「ひとり時間を持ちたい気持ちはあるのに、実現できていない」という声が多く寄せられ、理想と現実のギャップが浮かび上がりました。 ※出典:カウネットモニカ
【検証】
仕事に家事に追われる毎日の中で、どうすればひとり時間をつくることができるのでしょうか。今回は、長年にわたって「朝のひとり時間」を提案してきた池田千恵さんに、実践の工夫や考え方を伺いながら、そのヒントを探ります。
【考察①】人生を大きく動かした「朝のひとり時間」
受験の失敗、就職活動の挫折、そして社会人としての苦い経験……。何度も壁にぶつかりながらも、「朝のひとり時間」を手に入れたことで、自分の人生を再び前に進める力を得たという池田さん。朝時間に目覚めたきっかけは、大学受験に二度失敗したことでした。
「それまで夜型で、夜中まで勉強していたんですが、2回も落ちたことで、今までの延長線上に未来はないと感じました。180度生活を変えようと決めて、朝型に切り替えたんです」
その結果、限られた半年間の中で志望校に合格。朝時間の力を実感した池田さんですが、その後の大学生活では再び夜型に戻り、就職活動にも苦戦します。
「1社だけ受かった会社で働き始めたものの、20代で窓際社員に。会議に出ることも許されず、悔しい気持ちでいっぱいでした」
そんなとき、ふと「人生を変えられたのは朝時間だった」と思い出し、再び朝型の生活に戻ります。
「転職に関する勉強や、趣味のワインやチーズの資格取得の勉強も、出社前の朝の時間でこなしていました。朝にやりたいことをすませると、『できている私って、かっこいい』って自己効力感が高まるんですよね。元々ネガティブなタイプだったんですが、朝にひとり時間をつくってからは気持ちが前向きに変わって、どんなことでも『まぁいっか』と思えるようになって。あとは、朝の時間は限られているからこそ、集中力が格段に高まります。ダラダラと時間を消費することがなくなって、優先順位を決める能力が朝の時間で養われたと思います」
実際、池田さんは自身の朝時間メソッドを本にまとめ、ベストセラーに。人生の転機は、いつも「朝のひとり時間」から生まれたといいます。
【考察②】ひとり時間を「先取り」するための習慣と工夫
「カウネットモニカ」の調査からも、「ひとり時間を大切にしたい」と考える人は多い一方で、実際に確保できている人は決して多くありません。その要因になっているのは、「自分のことは後回しにしてしまう現実にある」と池田さん。
「『余暇』という言葉って『余った暇』と書くじゃないですか。だから、『余っていなければ自分の時間を持ってはいけない』と思い込んでいる方が多い気がするんです。でも、暇は待っていても生まれません。おすすめは、始業前に
“Me
Time”として自分の時間を確保すること。こうして朝の時間を先取りしないと、ひとり時間はなかなか生み出せません」
もう1つのポイントは、1日の時間が有限であることを知ること。まずは睡眠と仕事の時間、そして準備や移動などのルーティンに必要な時間を引き算し、自分に残された自由な時間を把握することが大切なのだそう。
「時間は無限にあるわけじゃありません。だから私は『自分の時間は、1日4時間しかない』と思って行動しています。限られた時間の中で何をするか、意識するだけで過ごし方は変わります。例えば、服選びに時間がからないようワードローブを決めたり、朝食もシンプルなものを用意したり。朝に生まれがちな余計な選択肢をできるだけなくし、自分にとって本当に必要な行動に集中します。その仕組みを整えるだけで、ひとり時間はちゃんと生まれると思います」
とはいえ、忙しない朝に自分の時間をつくるのは簡単なことではありません。朝寝坊、二度寝、3日坊主といった挫折は、言葉のラベルをポジティブに変えることで無理なく継続していけるといいます。
「例えば、二度寝は『戦略的二度寝』と言って、あたかも1日を快適に過ごすために選び抜いた行動かのように(笑)。三日坊主だとしても、3日続くこと自体がすごいじゃないですか。だから、『三日坊主を何度でも繰り返せばいい』と言い換えて、『朝のひとり時間』を前向きに捉えるようにしています」
【考察③】未来を切り開くのは、自分を見つめ直す「棚卸し」
朝のひとり時間を確保できたら、それを未来に投資するという選択肢も。池田さん自身は、出社前の勉強や資格取得を通じて転職や独立のチャンスをつかんできました。
キャリアを見つめ直したい。そんなときに役立つのが、自分自身の「棚卸し」の習慣です。池田さんは毎朝、ToDoリストとマインドマップを活用して、頭の中の思考を「見える化」しているそうです。
「1日のタスクをすべて書き出して、終わったら1つずつ消していく。それだけで気持ちがスッキリしますし、自分が何を大切にしたいかも見えてきます。一方、時間をかけて取り組むプロジェクトや自分の将来像は、マインドマップを描いて思考を整理します。大きな目標を真ん中に置いて、そこから枝葉のようにアイデアを広げていくと、未来の解像度が高まっていくんです」
池田さんが毎朝書き出しているToDoリスト
マインドマップは実現したものには花丸をつけて、達成感ややる気を創出するのもポイントだそう
こうした「棚卸し」を定期的に行うことが、「自分の価値」を再確認することにもつながります。
「過去を振り返ったり、自分の思いを外に出すことで、これまで気づかなかった自分の成長や強みに気づけるんです。もし、ひとりで続けるのが難しければ、友人や仲間と一緒にやってみるのもおすすめ。四半期ごとや週ごとの棚卸しをイベント化して、みんなで声をかけ合いながら振り返ると、意外と達成できていたことが見えて自信につながりますよ」
しかし、未来の目標を描いたり、キャリア戦略を立てたりするのはハードルが高いもの。そこで池田さんが最後に教えてくれたのは、自分の“好き”なことを起点にした朝時間の使い方です。
「朝のひとり時間を無理なく継続していくには、“やりたいこと(want)”と“やらなきゃいけないこと(have
to)”をセットにして取り入れるのが大切です。仕事や勉強など“やらなきゃいけないこと”は自ずと見えてきますが、「ライブ映像を観たい」「散歩したい」といった自分がやりたい、楽しい、好きと思えることを合わせて取り入れる。そうすると、朝の時間はもちろん、その後の1日がぐっと豊かになります」
やりたいことが見つかりにくい場合は、どんなに小さなことでも自分の「好き」を100個書き出してみるのがおすすめ
【結論】
・朝のひとり時間は、自分を整え、振り返り、未来の可能性を広げるための大切な時間である。
・「ひとり時間を持ちたい」思いつつ、なかなか実現できない背景には、「時間は余ったときに確保するもの」という思い込みがある。
・実際には「ひとり時間」は、先に確保することでしか生まれない。
・自分のための朝の時間を少しでも先取りできれば、キャリアや日々の充実にもつながっていく。