コクヨデザインアワード2026
レポート
コクヨデザインアワード2026
最終審査レポート
3月14日、コクヨデザインアワード2026の最終審査が行われ、グランプリ1点、優秀賞3点が決定しました。応募作品1,344点(国内785点、海外559点)の中からグランプリに輝いたのは、神成 紘樹さんによる作品「ノートの素」です。
グランプリを受賞した神成 紘樹さん(右)とプレゼンターを務めた黒田英邦(コクヨ 株式会社 代表執行役社長)
23回目となるコクヨデザインアワード2026のテーマは、「波紋/HAMON Design that Resonates」。2015年から約10年ぶりに日本語のテーマを採用し、応募者1人1人のリアルな体験から生まれたアイデアが“一石”を投じ、波紋のように社会に広がっていくようなデザインを求めました。


本アワード審査委員で、グラフィックデザイナー木住野 彰悟氏のディレクションによる今年のメインビジュアルとトロフィー。形の異なるトロフィーには一石を投じて生まれる「波紋」が閉じ込められ、持った人の視点からだけ見ることができる。
グランプリ「ノートの素」
最終審査会は、東京品川オフィス「THE CAMPUS」内のホール「CORE」で行われました。ファイナリスト10組が会場でプレゼンテーションを行い、審査員は質疑をしながら、プロトタイプを手に取って審査を進めました。その後別室で審議を行い、審査員による投票を実施。その結果、満票を獲得した作品「ノートの素」(神成 紘樹さん)がグランプリを受賞しました。

グランプリ「ノートの素」
「ノートの素」は、背の部分を糊付けして固めた紙の束を、ノートの“半製品”として流通させる提案です。「なかなか1冊を使い切れない」「表紙と中紙の組み合わせが気に入らない」といった悩みに対して、使い手にとっての適量を製本し、持ち運べるという自由度を提供します。プロトタイプは、背の糊付け部分にミシン目を入れることで分割しやすく工夫し、キャンパスノートを踏襲したパッケージやカラーバリエーションにより商品の信頼性を担保しました。

作者の神成 紘樹さん
審査では、余白のある半製品を世に出して使い手に委ねるというコンセプトのスケール感がグランプリにふさわしく、テーマ「波紋」にも強くリンクしていること。またノートを使用した後の「保存」というニーズにも着目した点などが評価されました。審査に初参加したファッションデザイナーの森永 邦彦氏からは「分厚い紙の存在感が、人間が石に文字を描いていた時代を思わせ、書くという行為を見つめ直すきっかけになった」という感想も。受賞した神成さんは、「まだ頭の整理がついていないが本当に嬉しい。キャンパスはノートの耐久性が重視されるブランドで、その点は心配したが、考え方を評価してもらえてよかった」と喜びを語りました。
優秀賞3点
優秀賞は以下の3作品に決定しました。

優秀賞「g(グラム)」
「g(グラム)」(東出 和士さん)は、最終審議でグランプリ「ノートの素」と票を争うほど評価の高かった作品です。「ペンの重さに違和感を覚えた」という自身の体験から、数グラムの違いで書く体験が変化する金属(アルミ)製のシャープペンシリーズを考案。人間の感覚の変化は、受ける刺激の強さに比例するという「ウェーバー・フェヒナーの法則」に基づく独自の実験を経て、中央値の13グラムから上下20%間隔で重さを設定しました。

作者の東出 和士さん
審査員はプロトタイプのクオリティの高さに感心すると同時に、わずか数グラムの違いを認識する人間の感覚に向き合うというコンセプトも評価。一方で、重さに着目した点は新しいが、だからこそ「重さという体感的な要素が、使い手の気持ちや書く行為にどう作用するのか、その心理的な深まりをさらに追究してほしい」(吉泉 聡氏)といった期待感も寄せられました。

優秀賞「縁で見分けるノート」
「縁で見分けるノート」(塚本 裕仁さん)は、表紙の縁(ふち)に小口染めを施したノートシリーズです。一見シンプルな白いノートですが、最小限の色で識別できます。ロゴもエンボス加工し、着色範囲を99.3%削減することで環境負荷に対しても新たな選択肢となります。

作者の塚本 裕仁さん
審査では、家電と同じように空間とプロダクトの関係性に着目した視点と、テーマ「波紋」との接続性が評価されました。マットな質感の表紙は繊細な美しさがある反面、「日常の使用においては汚れや耐久性などがネガティブな要素となるので、素材選びや表面の仕上げにおけるさらなる工夫をしてほしい」(田村 奈穂氏)といった意見もありました。

優秀賞「うつろう手帳」
そして「うつろう手帳」(五十嵐 瑞希さん、瀧澤 樂々さん)は、均一的に区切られたスケジュール帳の罫線(マス)に対する違和感をもとに、日時の境界をぼかし、使い手が自由に予定の“広さ”を決めることができます。あえて年代や性別によるターゲット層を定めず、また「予定が詰まっている=充実」ではなく1人1人の時間の流れ方を尊重したいという、学生ユニットによる等身大のピュアなコンセプトが、審査員の好感を引き寄せました。

作者の五十嵐 瑞希さん(右)、瀧澤 樂々さん(左)
ファイナリストの傾向
このほか、惜しくも受賞には至りませんでしたが、2年前にグランプリを受賞した伝野 輔さんによる「紅白守紙」は、包装紙・緩衝材を伝統的な贈り物の風習とかけ合わせた巧みなコンセプトが注目されました。また小口染めを施したルーズリーフ「Edge Index」(鳥越 廉樹さん)は、商品提案としてのクオリティが高いと好評でした。

ファイナリスト10組では、ノート・手帳が6作品、そのうち半数が新しい罫線の提案となりました。全体を通して、それぞれの個人的な体験をもとに、人間にとって「書く」という行為を問い直し、その応答としてのデザインからどのような波紋が生じ、どのように社会に変化を与えていくのか、というストーリーのリアリティと客観性が評価のポイントとなりました。
一方で、結果としてファイナリスト全員が日本人となったことは、日本語の『波紋』が持つ繊細な情緒や精神性を、より深く咀嚼した結果とも言えます。審査員からは、この日本独自の美意識を起点とした問いかけを、いかに言語の壁を越えて世界へ広げていくかという、グローバルアワードとしての次なる進化への期待が寄せられました。
審査員によるトークショーと今年の総括
結果発表と授賞式の後、審査員によるトークショーが行われ、今回のテーマやファイナリスト作品について振り返りました。

「自らの体験から得た気づきは、デザインにとって重要であり醍醐味でもある。それが客観性をまとって、波紋を生みそうな期待感、心地よい驚きがたくさんあった」(吉泉 聡氏)

「インパクトやわかりやすさよりも、実際のシーンを想像ができ、じっくり世の中に広がっていくようすがイメージできる作品が評価された」(柳原 照弘氏)

「プロダクトの機能性や常識が覆る提案が多かった。それぞれが心に抱く思いを信じて、それを形にしてくれたと思う」(森永 邦彦氏)

「ビジュアルを担当した僕自身もテーマについて深く考えた。審査を通して、皆さんがどんな思いをもって生きているかを見せてもらった」(木住野 彰悟氏)

「デザインとは小さな発想やアイデアを日々生み出していくこと。多くの人がそれに共感し、自然に環が広がっていくのが良いデザインなのだろう」(田村 奈穂氏)
トークに同席したファイナリストからも、受賞のコメントや審査員への質問が寄せられ、審査を終えてリラックスした雰囲気の中で対話する場面もありました。

最後に、主催者として1年間のプロセスを見守ってきたコクヨ社長の黒田 英邦が次のように語り、コクヨデザインアワード2026を締めくくりました。「応募者の皆さんにとっての渾身の“一石”はどれもすばらしく、それが世界に広がっていくようすを想像できる、刺激的なアワードだった。皆さんには引き続き、自身のアイデアをブラッシュアップしてもらい、我々もまた国内外のデザイナーが参加したいと思えるようなテーマを考えて、今後のコクヨデザインアワードも盛りあげていきたい」。

コクヨデザインアワード2026のファイナリストと審査員
※審査員の肩書は審査当時のものを掲載しております。