最後の1本まで
心地よく。仕事に
余白を生む乾電池
開発者の言葉を通して、コクヨが大切にする“体験デザイン”を紐解く本企画。必要な瞬間に迷わず手に取れ、使い切るまでストレスがない。「取り出しやすいアルカリ乾電池」が目指したのは、そんな仕事の流れを止めない体験です。
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INDEX
Profile
宮川 由紀(みやがわ・ゆき)
カウネット MD本部 MD1部 2グループ
阿部 桃吾(あべ・とうご)
カウネット MD本部 商品開発部 開発推進グループ
使い始めの一瞬を気持ちよくするために
リニューアル版「取り出しやすいアルカリ乾電池」の企画を担当した宮川 由紀
―「取り出しやすいアルカリ乾電池」は既存品をリニューアルした商品だと伺いました。どのような体験価値を目指したのでしょうか?
宮川:この商品は以前から、カウネットのプライベートブランド(以下、PB)のなかでもとくに売れているシリーズでした。だからこそ前提として、「取り出しやすい」シリーズとして支持されているポイントは崩さないよう意識しました。箱のまま置けて、必要な分だけ取り出せて、在庫も把握しやすい。職場で使うからこそ管理しやすい体験が、長く選ばれてきた理由だと思っています。そのうえで、誰もが「開けやすい」箱にしたい。そこが今回のリニューアルの狙いでした。
リニューアル後の「取り出しやすいアルカリ乾電池」。電池の取り出しやすさに加えて、箱の開けやすさ、電池サイズの分かりやすさにもこだわりました
リニューアル版「取り出しやすいアルカリ乾電池」の開発を担当した阿部 桃吾
―「取り出す」の手前にある「開ける」体験から整えていく、と?
阿部:そうですね。商品名にも入っている「中身の取り出しやすさ」を満たしながら、もう一歩踏み込んで「箱の開けやすさ」を見直しました。電池サイズの分かりやすさも含めて、迷わず使える体験を目指しました。
宮川:私自身も以前から、「たしかに取り出しやすいけれど、箱が開けにくい(途中で破れる)」ということは感じていて。今回のリニューアルをきっかけに改めて調査やヒアリングを行い、改善に踏み切りました。
―売れている商品ほど、変えるのが難しいはずです。なぜ今、この電池だったのでしょう?
宮川:カウネットPBで「HOWS DESIGN(※)」の商品を作る・リニューアルしていく流れができ始めていたなかで、商品全体のHOWSDESIGN比率を上げるなら、売上規模が大きい商品をリニューアルしないとインパクトが出ない。そこで、「『取り出しやすいアルカリ乾電池』をやってみよう」となりました。既存品からの切り替えは、2025年8月から10月にかけて順次行っていきました。
※コクヨのインクルーシブデザインプロセス。多様な使い方・感じ方を起点に、さまざまな背景をもつ人との対話を繰り返しながらデザインを考える仕組み。
既存顧客×リードユーザーの声で課題を可視化
―開発はまず何から着手したのでしょうか?
阿部:最初に着手したのが、旧品をメンバー全員でもう一度実際に開けてみることでした。たしかに中身は取り出しやすいのですが、箱が開けづらい。ミシン目がきれいに切れず、途中で破れてしまうケースが何人かあって、「これでは本末転倒では」と感じました。便利さが評価されている商品だからこそ、入口の“開ける”でつまずくのはもったいない。また、「取り出しやすい」と言いつつ、最初の数本はスムーズでも、奥にいくほど取り出しにくくなる面もありました。
リニューアル前のパッケージ。手前の電池は取り出しやすい一方、奥にいくほど取り出しにくい課題がありました
宮川:「開けやすさ」に着目すると決めてからは、既存のお客様の声とリードユーザー(※)の声を改めて聞くことから始めました。すでに多くのお客様に選ばれている商品だからこそ、これからも使い続けていただきたいのはもちろん、さらに好きになってもらえるものにしたかったんです。そこでレビュー分析をして、変えてはいけないところ・変えた方が良いところの洗い出しを実施。さらにリードユーザーの方とのワークショップを通じて、開けやすさの改善ポイントを明確にしていきました。
※障がいがある方をはじめとした社会のバリアに阻まれている方々の中で、製品をより良い状態にするため導いてくれる対象・開発の参加者
―既存のお客様の声から、何を守るべき価値だと捉えましたか?
宮川:レビューを分析すると、「シンプル」「可愛い」という言葉が多く見られたので、「その良さは絶対に変えない」と決めました。一方で今回のリニューアルでは「より分かりやすいデザインにする」という方向性はすでに決めていて、しかも旧デザインの評価も高かった。だからこそ、どこをどう変えるかには本当に気を遣いました。
また、「シンプル」「可愛い」は人によって捉え方が違うので、社内アンケートでも意見が割れ、本当に悩みました。何パターンも案を制作しながら検討を重ね、最終的に2案に絞って決選投票したものの、結果は半々。最後は自分たちの意思を通して決めました。
金色に着色されている電池が旧デザイン。今回のリニューアルでサイズ表示をさらに見やすくしました
箱に入っている状態でも電池のサイズ表示がひと目で分かるデザインに
―自分たちの意思を通す際、最終的に判断の軸となったのは何だったのでしょうか?
宮川:企画担当としての判断軸は、常に「お客様が買いたくなるか」「オフィスに違和感なく馴染むか」の2つです。BtoBのWeb通販では、デザインの印象が購買に大きく影響します。最後は「棚に置くならどちらを置きたいか」という感覚も含めて決めました。
―リードユーザーとのワークショップでとくに印象に残っている気付きは何ですか?
阿部:今回は、上肢障がいのあるリードユーザーの方へヒアリングを行いました。ヒアリングを通じて、既存商品のバリアを見つけ、より開けやすい箱を目指してサンプルを作り、検証を重ねました。実際に触っていただいて分かったのは、旧品は真ん中を押し込んでから引っ張り出す必要があり、押すのに力が要るうえ、つまんで引っ張る動作も難しいということです。上肢障がいのある方にとっては、とくに負担が大きいと感じました。また、開ける際に紙がちぎれてゴミが出やすい点も課題だったので、できる限りゴミが出ない設計にしたいという思いもありました。
旧パッケージは、中央の黒い部分を押し込んでから引っ張る必要があり、力が必要なうえ、つまんで引っ張り出しにくいことがありました
新パッケージでは、開け始めの位置を分かりやすくし、指を引っかけて矢印に沿って開けるだけで軽い力でも開けられるよう改善しました
新パッケージを開けている様子
―もう一つの課題であった「奥にいくほど取り出しにくい」点は、どのように改善したのでしょうか?
阿部:「最後の電池まで取り出しやすいこと」に加え、「天面からみてもサイズが見やすいこと」も満たすために、フラップ(※)形状を何度も見直しました。ただ、引き出しに入れたときにフラップが引っかからないように、浮きを極限まで抑えようとしても結果的に解決が難しく、最終的には、ふた部分が不要な場合は「切り取って外せる」設計にしました。
※箱の天面にあるふた部分
引き出しを開けて上から見たときもサイズが分かるよう天面にもサイズを表示。さらに、ふたの浮きが引っかからないよう、切り取って外せる設計にしました
インクルーシブな視点がみんなの使いやすさに
―リニューアル後、こだわった点はどのような反響として返ってきましたか?
宮川:デザインも変更したので、「前の方が可愛かった」といった声が出るのではと不安もありましたが、好意的な反響を多くいただくことができました。旧品の良さを損なわず、新しい価値を届けられたのではないかと感じているのと同時に、こだわって作れば作るほど、その思いはきちんとお客様に伝わるのだと実感しています。今回の取り組みを通して、お客様のお役に立てている手応えも得られ、改めてものづくりの醍醐味を感じることができました。
―その反響を受けて、HOWS DESIGNの価値をどのように捉えていますか?
阿部:HOWS DESIGNは障がいのある特定の方だけに向けたものではありません。これまでものづくりから排除されていた方へのヒアリングを通じて、バリアを見つけて解決していく。そうすることで、結果的にマイノリティだけでなくマジョリティの方にとっても使いやすいものになるのが、インクルーシブデザインの良さだと思っています。
「開けやすい」を超えて「開けたくなる」へ
―この取り組みは、お客様にどんな「好奇心」をもたらせると思いますか?
宮川:好奇心は「ワクワク」と言い換えられると思っています。電池がなくなって保管庫に取りに行ったとき、カラフルな見た目で気分が少し上がる。箱がスムーズに開いて気持ちが良い。サイズ表示が大きいから迷わず選べる。どれも小さなことですが、そうした心地よさが積み重なると、働く時間の質も変わっていくと思います。
阿部:社内ではよく「開けやすい」を超えて、「開けたくなる」ところまで進化させたいと話しています。「使う」という行為そのものが、ちょっと前向きになる。道具の気持ちよさが、好奇心を刺激するきっかけになれたらいいですね。
―最後に、ものづくりの仕事を通してどんな世の中を実現したいですか?
宮川:お客様の仕事の役に立ち、「こんな便利なものがあるんだ!」という驚きや感動を世の中に届けられたらと思っています。カウコレ(※)がそうした体験を生むブランドとして広く認知され、「カウコレを買うためにカウネットに登録する」というお客様がもっと増えていく未来につながれば嬉しいです。今回の電池も、その未来につながる大切な商品になったと感じています。
阿部:僕はこれからも、生活に寄り添った“なくてはならない存在”を生み出し続けていきたいです。作り手がいいと思うものを一方的に作るのではなく、お客様にとって「必要だ」と思っていただけるものやサービスをつくる。これからもお客様目線を大切にしたものづくりを続けていきたいです。
※オフィス通販カウネットで取り扱うカウネットオリジナル商品