学びの変革期に、
先生・子どもたちとの対話を重ねて生まれたスクール家具
開発者の言葉を通して、コクヨが大切にする
“体験デザイン”を紐解く本企画。
「Puzzme」は一年にわたる小学校での
フィールドテストで徹底的に現場に寄り添い、
学びの変革に挑みました。
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INDEX
Profile
齋田 清隆(さいた・きよたか)
グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部
小川 真季(おがわ・まき)
グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部
佐藤 芽生(さとう・めい)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター プロダクトデザイングループ
松崎 克弥(まつざき・かつや)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 ストレージ開発部 大阪グループ
高嶋 茂行(たかしま・しげゆき)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 ストレージ開発部 大阪グループ
やりたい学びに応じて自由に使える家具が、学びを加速する
齋田 清隆(グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部)
―「Puzzme」は、どんな体験価値を目指して開発されたのでしょうか?
齋田:パズミーは、子どもたちが主役の“学び”をよりよくしていくために生まれた製品です。コクヨは50年ほど前からずっと学校向けの家具に取り組んできましたが、いままでの製品は「学習環境を整える備品」の枠を超えていませんでした。“座るための椅子”や“書くための机”であり、“学び自体を支えるアイテム”にまではなりきれていなかったんです。
ところが、学習指導要領の改訂によって学校教育にも「個別最適化」という視点が生まれ、学びは変革期にあります。いまこそオフィスや働き方と同じように、学校にも人の動きを変えていくような家具や環境が必要です。ここで現場の変化や声に寄り添いながら、学びをよりよくするものづくりに取り組むのがコクヨの役割だと考えました。
―「学び自体をよりよくするスクール家具」というテーマに、どんなステップで取り組んでいったのでしょうか。
齋田:まずは、積極的に先進的な学びに取り組んでいる小学校の現場をいくつも観察し、本質的な課題を抽出することからはじめました。最初の気づきは、教室以外で授業をする場面が増えていること。学習内容に合わせて環境を変える、オフィスでいえばABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)のようなやり方がよく見られたんです。ここから、「やりたい学びに応じて場をつくれる家具があれば、子どもたちの意欲をもっと引き出せるのではないか」という着想を得ていきました。
高嶋:斎田さんからそんなテーマを伝えられ、鉛筆スケッチでいくつかの商品アイディアを提案したのが2022年4月ごろ。3つのプロトタイプをつくって、さっそく小学校に持って行きましたよね。
松崎 克弥(グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 ストレージ開発部 大阪グループ)
松崎:それぞれのプロトタイプに「柔軟性/可動性・デザイン性・メンテナンス性」の3点で評価をしていただき、いいところを集めていくかたちで、次のアイディアを考えていきました。それで生まれたのが「Puzzme」の原型。置き方を変えることで機能が変わり、状況に応じて自由に組み合わせられるテーブルとスツールのセットだったんです。
かわいいデザインと安定性、重さのバランス
佐藤 芽生(グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター プロダクトデザイングループ)
―開発を進めていくうえで、とくに苦労したのはどんな部分ですか?
松崎:子ども向けのスクール家具ということで、デザインと安定性の兼ね合いには苦労しました。たとえばスツールは、かわいらしさを出すために形を丸くすると、重心をかけたときにバランスを崩して転びやすくなってしまいます。
佐藤:スツールのパイプの角は、たくさん検討をしましたね。安定性を保ちながら、できるだけ大きく曲がったアール状にしたくて、ギリギリのところを攻めました。金属のパイプを曲げるのは難しいので、角は樹脂素材を採用。でも、パーツとしては一体に見えるよう、色や質感を丁寧に調整しました。
松崎:樹脂成型品でつなぐだけの構造にしたことが、コストダウンにも寄与しました。もうひとつ大きなポイントだったのは、重さ。子どもが一人一脚ずつを問題なく運べる軽さにしなくてはいけないため、さまざまな素材で迷った末、最終的には軽くて加工しやすい合板を採用しています。
高嶋:安定性については、テーブル側にも配慮が必要でした。「Puzzme」はテーブルと椅子の両方において、コクヨの厳しい品質規格をクリアすることが求められます。結果として、当初の想定より天板を厚くする設計となりましたが、これにより子どもたちが安心して使える強度と安定性を実現できました。
小川:おっしゃるように、開発チームは「子どもたちの安全」にこだわってくださいました。また、デザイン性も担保しながら、動かしやすく、且つ安全というとても難しい要望に応えたモノづくりはさすがコクヨ!と改めて実感しました。
なにも決めつけず、ユーザーの近くで素直な声を聞く
―Puzzmeを開発するうえで、とくに大切にしていた価値観や考え方の軸は何ですか?
齋田:メーカー都合でつくったものを押し付けるのではなく、ユーザーと一緒につくりあげていくことです。そのために一年間にわたる実証実験を通して、どんな機能があればどんな活動が生まれるかをじっくりと観察しながら、製品に求められている答えを探っていきました。
たとえば、プロトタイプをお渡しするとき、我々は細かい使い方の説明はしません。自由な発想で使ってみてもらいたいからです。そうしたら、子どもたちが2つのスツールを互い違いに組み合わせる「おこもりスタイル」をつくっていて……自分のテリトリーができることで学習に集中しやすくなると好評でした。
実際にさまざまなレイアウトで活用されるPuzzme
ベンチとテーブルを組み合わせてひな壇をつくったり、現場からはほかにも面白い活用アイディアがたくさん生まれていましたね。いまは、私たちがイメージしていた使い方と現場の自由な使い方を、どんどん答え合わせしているような状態です。
―このプロジェクトを通じて、どのような学びがありましたか?
また、ものづくりに対する考え方や姿勢に変化はありましたか。
佐藤:自分の考えをすぐプロトタイプにして子どもたちに使ってもらい、フィードバックを受けてまた作り直す……というスピード感あふれる制作過程は、かなり面白かったです。子どもたちがうれしそうに「いままで見たことない!」などと言いながら座ってくれる姿は大きな刺激になったし、ユーザーとの距離が近いものづくりの大切さを学べました。
齋田:今回の商品はリアルな意見をもらわないとちゃんとしたアウトプットがつくれない。だから、長い期間しっかり並走してもらうことにはこだわっていましたね。幸い、コクヨの教育の企画部門は学校現場との情報交換にずっと力を入れてきたため、よいパートナーに恵まれ、プロジェクトをやり遂げることができました。
高嶋:齋田さんと学校の先生方は深い信頼関係が築かれていて、最初から「いっしょによいものをつくるぞ」という熱意を強く感じました。そうしたものづくりのための環境が整い、素直な子どもたちがいてくれたからこそ、有意義な検証ができたと思います。
高嶋 茂行(グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 ストレージ開発部 大阪グループ)
コクヨには、家具には、まだまだやれることがある
小川 真季(グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部)
―この取り組みを通じて、ユーザーや世の中の人々にどのような「好奇心」をもたらせると思いますか?
小川:場を変えることで学びを変える。「学校だからこうしなきゃ」「みんなと同じやり方でやらなきゃ」といった線引きもあいまいにして、子どもたちの好奇心を伸ばしていけたらいいですよね。そんな場づくりに、Puzzmeが貢献してくれると思っています。
松崎:Puzzmeを使い、自分たちに必要な場を自分たちが工夫して生み出すことが、きっと新たな好奇心にもつながるでしょうね。
私は入社以来ずっとオフィス家具を担当してきたため、教育に関わる製品は今回が初めて。でも、合板の素材がむきだしになったシンプルな試作品を持ち込んだとき、子どもたちがはしゃいで寄ってきてくれたんですよね。いろんな娯楽を知っているいまの子どもたちにとっても、ものにはちゃんと力があるんだな、と感じられる場面でした。
高嶋:わかります。家具というローテク製品に対して、まだ愛着を持ってもらえるんだなというか……家具には、やれることがまだまだいっぱいあると思えるプロジェクトでした。
―最後に、Puzzmeや教育家具開発についての今後の展望を教えてください。
齋田:学校施設って、この50年ほとんど変わっていないんです。教室や職員室のイメージは、私たちが子どものころのまま。でも、50年前の住宅やオフィスがいまとは全然違うように、現代に合った学校施設のスタイルがきっとあると思っています。お客さまと一緒にその“当たり前”に切り込んで、ベストな家具や空間の在り方を探っていきたいですね。
小川:一年間みっちり現場と並走するものづくりができたのは、多様な仲間と対話を通じてものづくりをしていく「HOWS DESIGN」など、圧倒的現場視点を大切にしてきたコクヨならではだと思っています。今後もこのプロセスを変えず、むしろもっと強化して、ユーザーに寄り添う製品をつくっていきたいです。