コクヨが賃貸住宅、
シェアオフィスまで!
場づくりの今を追う
コクヨが提案する、街の魅力と「働く」を掛け合わせた新しいシェアオフィス。今回は、既存ビルの不動産バリューアップに挑んだメンバーの想いに迫ります。
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INDEX
コクヨといえば、キャンパスノートやオフィス家具や空間づくり。そんなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
でも実は、私たちの事業はそれだけではありません。
「シェアオフィス」の運営や、社員寮をリノベーションした「賃貸住宅」まで手がけていることをご存知ですか?
変化する時代に合わせて、モノだけでなく「場」そのものを作り出す。
「MOV SHIBUYA」から「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」、そして2026年春、新たな舞台「MOV KURAMAE」をオープンしました。
Profile
竹本 佳嗣(たけもと・よしつぐ)
グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部
齋藤 丈寛(さいとう・たけひろ)
グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部
伊藤 大樹(いとう・たいき)
グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部
「働く場」から「暮らす場」まで。コクヨが空間事業を広げる理由
竹本 佳嗣(グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部)
―「コクヨが住宅もやっている」というのは、一般の方には少し意外かもしれません。まずは、コクヨの「場づくり」の変遷について教えてください。
竹本:実は私たちの「場づくり」への挑戦は、2012年の渋谷から始まっています。当時、渋谷ヒカリエの8階に「Creative Lounge MOV」を作ったのが原点です。 今の渋谷は東京のオフィス街のひとつですが、当時はまだカルチャーやファッションを中心とした若者の街という印象が強く、企業がオフィスを構える場所としては一般的ではありませんでした。
しかし、多くの再開発ビルが計画されていて、渋谷らしく働く場を作りたいと思いました。そこで私たちは、ロンドンや西海岸で芽生え始めていた「コワーキング」というスタイルを持ち込みました。会社という枠を超えて個人が繋がり、協業が生まれる場所。約300坪ある空間のうち、あえて100坪を壁のないオープンなラウンジにしました。さまざまな人が集まって交わる「街の広場」のような役割を持たせ、そこでの出会いや刺激こそが価値になると考えたからです。
―当時コクヨとしては初めてのシェアオフィス運営だったと思いますが、苦労も多かったのでは?
竹本:当時は社内でも「ショールームとして運営していくのが良いのではないか」という声がありましたが、私たちはしっかりと事業として成り立たせることにこだわりました。最初は集客などにも苦労しましたが、転機となったのは海外メンバーのつながりでアメリカ大使館のイベントを開催したことです。それをきっかけに多様な国籍や業種の人が集まるようになり、メンバー自身が企画するイベントも生まれました。それぞれのビジネスや作品をブース出展し、子どもから大人まで楽しめる“はたらく大人の文化祭”「MOV市」や新たな繋がりや協業のきっかけを生む交流イベント「MOV members' Party」などです。スタッフが間に入って人と人をつなぐ「コミュニティの力」を、この時確信しましたね。
伊藤 大樹(グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部)
―そこから、なぜ「住宅」へ?
伊藤:コロナ禍が大きなきっかけでした。オフィスへの出社が制限され、働き方が多様化する中で、コクヨの価値を「住まい」にも提供できるのではないかと考えたんです。
そこで2023年にオープンしたのが「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」です。コクヨの社員寮をリノベーションした賃貸住宅で、コンセプトは「プロトタイプする暮らし」。
齋藤:普通の一人暮らしのワンルームでは実現できないことを、共用部で叶えようという実験ですね 。かつての大食堂や大浴場を、あえて居室にするのではなく「8つのスタジオ」へ作り変えました。ヨガスタジオやスナック、フィットネスなど、「やってみたかったこと」に挑戦できる場所を用意したんです。
―運営は順調だったのでしょうか?
齋藤:入居は順調だったのですが、運営面は色々改善しています。
当初、スタジオ利用を有料・予約制にしたところ、心理的なハードルが高かったのか、せっかくのスタジオが使われない状態になりかけてしまって…。そこで思い切って「入居者は無料」にルールを変更したんです。
すると風景が一変しました。例えば、スポーツ業界のマーケティングに関わる入居者さんが、共用部の「スナック」にプロジェクターを持ち込んで定期的にラグビーバーを開いたり。あるいは、デザイナーの入居者さんが中心となって、ここでの暮らしをまとめた小冊子を自主的に制作したり。その際はコクヨも製本機を貸し出すなどして活動を後押ししました。
運営側も「プロトタイプ」を繰り返すことで、住人が自分たちで空間をカスタマイズし、コミュニティが育つ土壌ができたと感じています。
なぜ今、オフィス街ではない「蔵前」なのか?
齋藤 丈寛(グローバルワークプレイス事業本部 アセット バリューアップ本部)
―MOV SHIBUYAでの「働く場」、THE CAMPUS FLATS TOGOSHIでの「暮らす場」。この2つの経験を経て、今回の舞台は「蔵前」です。なぜこの街を選ばれたのでしょうか?
竹本:最近蔵前は、「東京のブルックリン」とも呼ばれています。かつて工業地帯だったニューヨークのブルックリンが、アーティストやクリエイターの街へと変貌したように、蔵前にも同じような「ものづくり」や「職人」の空気感があります。
実は台東区は、昭和35年には30万人以上の人口がいたものの、2000年頃には15万人ほどに減ってしまった時期がありました。そこで蔵前では廃校になった小学校をデザイナーやクリエイターの創業支援施設として再生するなど、街全体でモノづくりを支援する土壌を作ってきたんです。現在では古くから続く商店や飲食店と共に、新しいクラフトグッズの店やカフェも多く出来て、居住者も増えています。成長期の日本ではオフィス街、商業地、郊外の住宅街と地域に同じ用途を集めて開発してきましたが、成熟社会では街の歴史や特徴を活かした暮らして楽しい街に、働く場も混在させることで地域の価値も広げることができると考えました。
齋藤:大手デベロッパーによる大規模な再開発ではなく、個人や小規模な事業者が集まり、古い建物をリノベーションしながら自律的に街を面白くしている。そのカルチャーが、私たちが目指す新しい働き方の拠点にぴったりだと感じました。丸の内や渋谷といった都心のオフィス街ではなく、歴史や文化があり、暮らして楽しいこの街にこそ、事業を拡張させる余地があると考えたのです。
一棟リノベーションで実現する、街とつながるシェアオフィス
―「MOV KURAMAE」ならではの特徴や、こだわったポイントを教えてください。
齊藤:今回はコクヨとして初の、自社でビル一棟を取得し、投資・リノベーション・運営までを一貫して行うプロジェクトです。
MOV SHIBUYAはビル内のワンフロアで、広いラウンジが特徴でしたが、蔵前は8階建てのビル全体を使い、5席から10席程度の個室を中心として、1名~数名でご利用頂けるデスク席やブースを多く用意しています。
共用部では、メインとなる2階のラウンジに加え、上層階にはテラス付きの会議室や畳の部屋など、その日の気分や仕事の内容に合わせて「シーン」を選べる設計にしました。
伊藤:THE CAMPUS FLATS TOGOSHIでの「暮らし」の運営経験から、オフィスでありながらも「リラックスできる居心地の良さ」を取り入れています。
例えば1階には、地域で人気のあるカフェに新業態として入居していただく予定です。通常、オフィスビルの1階は外からしか入れませんが、今回は入居者が内側から直接カフェに行ける動線を作りました。サンドイッチやスープをテイクアウトして、ラウンジで仕事をしたり、会議室で少しリラックスしながら打ち合わせをしたり。そんな「街の日常」が入り込むような場所を目指しています。
MOV KURAMAE外観
竹本:「ただかっこいい空間を作る」だけでなく、それをどう活かすかという「運営力」も私たちの強みです。コクヨには企業の受付や総務などを請け負うBPO事業のノウハウを持つ「コクヨアンドパートナーズ」という会社があり、MOV SHIBUYAも彼らが現場の運営を担っています。利用者さんの声を聞きながら、ルールやシステムを日々地道に改善し、人と人が関わる「余白」を作っていく。空間づくりと運営の両輪があるからこそ、こうした新しい場づくりが実現できるんです。
MOV KURAMAEロゴ
—ロゴデザインにも、特別な想いが込められているそうですね。
伊藤:はい。今回のロゴはよく見ると、「MOV」の文字が枠から少しはみ出しているんです。これは、MOVで行われる活動がその地域の上で広がり、そして、はみ出していくことを表現したものになっています。
デザインは建築デザインと共にコクヨのYOHAK DESIGN STUDIOが担当しています。
MOV KURAMAE近隣のイラスト
―具体的に、どのような方に使ってほしいと考えていますか?
竹本: 大きく3つのタイプの方をイメージしています。
1つ目は、渋谷や青山など西側エリアの混雑やお洒落化に少し違和感を感じ始めている方。もっと落ち着いた環境で、小さな拠点を持ちたいという方ですね。スタートアップや小規模事業者が多いですが、大企業のサテライトオフィスとしての要望も頂いています。
2つ目は、地方企業や海外企業の「東京・アジア拠点」としての利用です。蔵前は東京駅や空港へのアクセスも良く、ここを足がかりにビジネスを広げたい企業様に最適です。
そして3つ目は、地域住民や地元の事業者です。すでに蔵前に拠点を持っている方が、共用部が豊かなスモールオフィスとして利用してくだされば嬉しいですね。
蔵前から広がる、街と人の新しい関係性
―最後に、この場所からどのような未来を描いていきたいか、展望をお聞かせください。
竹本:日本はこれまでスクラップ&ビルドが主流でしたが、建築費が高騰する中、既存の建物を活用したいというニーズが増えています。そこで私たちは、ビルをリノベーションして価値を高める「アセットバリューアップ推進室」という部署を立ち上げました。
MOV KURAMAEを一つのきっかけとして、今後は企業様がお持ちの既存の不動産を一緒にバリューアップしていくような、コクヨらしい不動産再生事業の事例を増やしていきたいと思っています。
齊藤:蔵前や浅草橋のエリアは非常に魅力的な文化を持っていますが、働く場所としてはまだ広げる余地があると感じています。
コクヨが得意とする「働く」という視点を掛け合わせることで、この街の拡張性とうまく合致していくといいなと思っています。街の価値がさらに広がるような、新しい一面を引き出せる場所にしていきたいですね。
伊藤:「好奇心」を大切にしたいですね。
先ほどお話しした「枠からはみ出す」というテーマの通り、「働く」と「暮らす」の境界が曖昧になる中で、MOV蔵前という場所が、利用者の皆さんにとって新しい自分に出会うきっかけになればと思います。
ここで出会った人や文化に触発されて、新しい趣味を始めたり、ビジネスのアイデアが生まれたり。自分の可能性を広げられるような場所に育てていきたいです。