持ち運びやすく、ページをしっかり挟むペン型のブッククリップ

持ち運びやすく、ページをしっかり挟むペン型のブッククリップ

開発者の言葉を通して、コクヨが大切にする“体験デザイン”を紐解く本企画。「ペンのように持ち運べるブッククリップ」は学生のインサイトを丁寧に汲んだものづくりで「勉強への意識」を変えていきました。

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岡野 颯太(おかの・はやた)

岡野 颯太(おかの・はやた)

GSTグローバルプロダクト開発本部 開発第2部 第3グループ

学生のリアルな声から見えた「携帯性」「ホールド力」のニーズ

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―「キャンパス ペンのように持ち運べるブッククリップ」は、どんな体験価値を目指して開発されたのでしょうか?

岡野:このブッククリップは、ペンと同じサイズ感で持ち運びがしやすく、左右で厚みの違うページでもがっちりとホールドしてくれる商品です。学生さんの生の声を丁寧に拾い上げ、リアルな「使いやすさ」を目指して開発されました。まなびを支える「まなびかたブランド」に生まれ変わったキャンパスから発売しています。

―「ペンのように持ち運べる」というコンセプトは、どのようにして生まれたのでしょうか。

岡野:いくつもの他社製品を試しながら競合調査をしていくなかで、本のページをしっかり固定できて持ち運びやすい製品はまだないことに気づいたんです。だいたいの製品がかさばったり重かったりして、外に持って行きづらい。学習する場所は塾や図書館、カフェなどと多様化しているのに、ブッククリップは家でしか使わないアイテムになってしまっていました。

数十人の学生さんに実施したヒアリングからも「持ち運びのわずらわしさが大きくて、使いたいとき気軽に使えない」「勝手にクリップがはずれて本が閉じると、集中が途切れる」といったインサイトが見えてきて……新製品に必要な要素は“持ち運びやすいコンパクトさ”と“ページのホールドの仕方”だということが明確になりました。ハサミやホチキスなど、文具自体にコンパクト化の波が広がってきていたことも、コンセプトの後押しになったと思います。

岡野 颯太(おかの・はやた)

ユーザーのストレスを減らすため。 高速PDCAから生まれた工夫

岡野 颯太(おかの・はやた)

――製品をつくりあげていくなかで、こだわったのはどんなポイントですか?

岡野:ユーザーのストレスを減らし、楽しく使ってもらうための細かな工夫を凝らしています。まず、形状は、学生さんが筆箱に入れて持ち運べやすいペン型がベスト。一般的なペンと同じ15cmほどの長さにしようと決めました。

それでいて厚みが異なる左右のページを固定するには、当初考えていた文鎮タイプやコンパス型では難しいことがわかり、両ページをしっかり挟めるクリップ型を採用。H型のクリップにしてページを留め、使い終わったらクリップ部分を回してペン型に戻します。

その際、使うたびに回転させるクリップ部分には、なめらかな動きと強度が必要です。引っ掛かりがあるとペン型へ戻すときにいちいちクリップを開閉しなければならず、ユーザーの手間が増えてしまいます。そこで、クリップを開閉しなくてもスムーズに回転させられるよう、微妙な傾斜をつけました。

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――ぱっと見ではわからないほど細やかな加工によって、操作感を向上しているんですね。

岡野:また、ペン型にしたとき筆箱に収まりやすいように、余計な凹凸や装飾は極力減らし、シンプルな形に仕上げました。最初は角ばったフォルムだったため、やや堅苦しい印象だったのですが、親しみやすさを演出したくて丸みのあるデザインに変更しています。試してみないとものの良し悪しは判断できないので、プロトタイプもたくさんつくりましたね。

――試作では、どのような苦労がありましたか?

岡野:何度も試して最適な落としどころを探ったのは、開口値と本体サイズのバランスです。厚い本を挟めるように開口値を大きくすると本体サイズも大きくなり、ペン型に収まらないため、ちょうどいい塩梅を探さなければなりませんでした。そこで、学生さんが日ごろ使っている参考書を買いあさり、何冊も厚みを検証。「一般的な本は問題なく挟めて、サイズ的にも許容できる」というラインを見つけるのに、ちょっと時間がかかりましたね。

新たな商材には、決まったレールがない

岡野 颯太(おかの・はやた)

――製品の形がある程度見えてきたら、次は品質試験や検証のフェーズです。ブッククリップはコクヨにとって初めての商材だったため、ここにも苦労があったのではと思います。

岡野:そうなんです。新たなジャンルの製品だったため既存の試験項目がなく、いちから試験内容を考えていかなければなりませんでした。50前後の試作品をつくり、造形が確定してからは品質保証部や試験担当の方々と相談しながら、徹底的に検証を行っていきましたね。

カチャカチャと回すだけですぐペン状に戻る

カチャカチャと回すだけですぐペン状に戻る

――試験では、どんな部分に目を配っていたんでしょうか。

岡野:クリップには強いバネを使っているため、何かの拍子にケガをしないように、バネの力や安全性を試す項目は必須。そのほか、クリップのスライドをロックする機構なども大きなチェックポイントでした。

そうした試験と真摯に向き合ってくださる方がいて、きちんとアウトプットを磨いていけたのは、品質の高さで信頼を培ってきたコクヨだからこそ。紙製品の開発とはまた違って、今回は新規開発でとても大変でしたが、そのぶん本当にいい学びを得られました。

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――横長のパッケージも目を引きますね。

岡野:ペンと同じ縦型パッケージにしたほうが陳列効率が高いものの、ブッククリップは市場にとって新しい提案だったため、商品価値を丁寧に伝える必要がありました。縦型ではぱっと見で何のアイテムかわからないため、ほかの携帯文具に埋もれてしまう可能性が高い。そこで、本のページを挟むシーンが想像できる横型のパッケージを提案したんです。

好奇心に満ちたものづくりが、 まなびに対する意識を変える

岡野 颯太(おかの・はやた)

――ブッククリップを開発するうえで、とくに大切にしていた軸は何ですか?

岡野:「ユーザーインサイトを丁寧に汲み取ること」と「自分が学生のときに本当にほしいと思えるものになっていること」の掛け算です。ユーザーの客観とリアルな主観の両方に裏打ちされたものづくりなら、ブレずに開発を進められると感じていました。実際、要所要所で学生さんからのヒアリングを実施し、生の声に基づいたものづくりができたと思います。

――このプロジェクトを通じて、ものづくりに対する考え方や姿勢に変化はありましたか。

岡野:企業のものづくりは想像以上に多くの部署や人が関わっていて、それぞれの専門性のうえに成り立っていることに大きな驚きを感じました。たとえば、僕はデザインやモデリングはできるけれども、金型を扱ったのは今回が初めて。そんな状態から、技術チームにレクチャーやアドバイスを受けながら製作を進めていったんです。先ほどの品質保証部と連携した検査もそう。当時はまだ入社2年目だったこともあり、自分なりに調べてもわからないことは遠慮せずに確認・相談をしていましたが、みなさん優しく教えてくれて本当に感謝です。

――この取り組みを通じて、ユーザーや世の中の人々にどのような「好奇心」をもたらせると思いますか?

岡野:ブッククリップの機構や見た目は、決して目新しいものではありません。でも、こうして少し応用すれば、多くの学生さんが悩んでいた教科書のページをしっかり留めて、勉強をサポートしてくれるクリップになる。ちょっとした工夫で新しい使い心地が生まれ、世界が変わるという感覚そのものが、ユーザーの好奇心をかきたてる種になるのではないでしょうか。実際にアンケートでは「洗練されたフォルムからは想像できない使いやすさ」といった感想も聞かれており、まさに“好奇心”につながっているコメントだなと感じています。

そのほか「いままでなかなかやる気が出なかったけれど、ブッククリップは持ち運びやすくて好きな場所で勉強できるから、学習の機会が増えた」「薄いページと厚いページのどちらも挟めるのが便利」など、まさに狙っていたとおりの体験価値を感じてもらえている声もあり、とてもうれしいです。

――最後に、学生さんをはじめとするユーザーへのメッセージをお願いします。

岡野:いま教科書を筆箱で押さえながら勉強していたり、開いたページをうまく固定できなくてストレスを感じていたりする方に、まずはぜひ使ってみていただきたいなと思います。勉強に対するモチベーションが上がることは、将来の可能性を増やすことにもつながっていくもの。ブッククリップが、そんなきっかけになってくれたらと願っています。