Vol.39 EVENT REPORT
コクヨとソニーがタッグを組みインクルーシブデザインの新しい可能性を探求。
「CROSSING VIEWS」イベントレポート
掲載日 2026.04.22
2026年3月6~10日にかけ、コクヨ東京品川オフィス・THE CAMPUSにて、コクヨ株式会社と、ソニーグループ株式会社(以下ソニー)のデザイン部門であるクリエイティブセンターが、インクルーシブデザインの新たな可能性探究を目的とした展示イベント「CROSSING VIEWS」(クロッシング・ビューズ)を共同開催しました。
今回のイベントでは、コクヨとソニーグループ(以下、ソニー)、およびそれぞれの特例子会社であるコクヨKハート株式会社(以下、Kハート)とソニー・太陽株式会社(以下、ソニー・太陽)という4社の社員が共同で実施したインクルーシブデザインワークショップをきっかけに生まれたデザインプロトタイプを展示しました。また、コクヨの「HOWS DESIGN」による製品や、ソニーのクリエイティブセンターによる職場環境づくりの取り組みの1つである「ワララボ」についても紹介しました。
この記事では、イベントの模様や展示内容のほか、インクルーシブデザインワークショップによるモノづくりに携わったコクヨとソニーのメンバーへのインタビューをお届けします。
コクヨ×ソニーの
インクルーシブデザインによるプロトタイプを展示
陽射しが春めいてきた3月上旬。THE CAMPUS1階のイベントスペース"BOXX"で、コクヨとソニーの共催による展示イベント「CROSSING VIEWS」が行われました。
事前予約不要・入場無料ということもあり、特に週末は、幅広い年代のお客様が多数来場なさり、展示内容やプロトタイプをご覧くださいました。
コクヨ、Kハート、ソニー、ソニー・太陽という4社のコラボレーションが実現したのは、ソニーの方が「自社とは違う、インクルーシブデザインのアプローチを知りたい」と声をかけて下さったことがきっかけでした。
その後、Kハートとソニー・太陽のリードユーザーを交えたメンバー約20名がプロジェクトチームを組み、4グループに分かれてインクルーシブデザインワークショップを実施しました。グループで一緒に行動しながら「普段の生活でどんな困りごとがあるか」を観察し、対話を重ねてソリューションにつながるアイデアを出し合い、プロトタイプの方向性を絞り込んでいったのです。
今回のプロジェクトに携わったコクヨ、Kハート、ソニー、ソニー・太陽のメンバー。
共創から生まれた
ユニークなデザインプロトタイプ
今回のイベントでは、コクヨとソニーによるインクルーシブデザインワークショップを経て誕生したデザインプロトタイプを展示しました。その中から、この記事では2つのアイテムをご紹介します。
●誰もが自分にとって心地よい場所を探せるアイランド型ソファ「nolla」
今回の共創プロジェクトでは、4社のメンバーが会社混合のチームに分かれてディスカッションを行い、生活の中で感じる不便や困りごとを出し合いながら、プロトタイプの方向性を探っていきました。
ディスカッションが進む中で、あるチームにおいて注目が集まったのが、下肢に障がいのあるリードユーザーメンバーの「ソファの使い方」でした。そのメンバーは、「ソファに座ったら、足を伸ばしてもんだりストレッチしたりすることが多い」と話していたのです。
それを聞いたチームメンバーは、「車いすを使っていない自分たちも、確かに足を伸ばしたいときはあるね」と意見を共有。「誰もが心地よく座ってくつろげるのはどんな形状のソファだろう?」と議論を重ねました。
そして完成したのが、アイランドソファ「nolla」です。入り江のようなくぼみがあるフォルムが特徴で、車いすに座ったまま身体を預けたり、座面で足を伸ばしたりできます。ソファ本体とクッションに耳を近づけると、波の音など自然を思わせるかすかな音が聞こえる仕掛けも施し、リラックス感も演出しています。
展示では、ソファやクッションの形状が目を引いたのか、ソファに実際に座ってくつろぐお客さまもいらっしゃいました。小さなお子様をソファの広い座面部分に寝かせる方もみられ、開発メンバーたちは「こういう使い方もできるんだ」とうれしい驚きを感じたようです。
座面の一部はくぼんでいるため、車いすを乗り入れて背もたれに身体を預けることができます。
●愛のあるアイテム群「aicon」
「1人の困りごとが優しさにつながる、循環を生み出すための愛のあるデザイン」をコンセプトにしたアイテム群「aicon」。そのうち、かばんのストラップなどに着けるアイテム「Hello tag」は、腕に障がいのあるリードユーザーを含むチームでのディスカッションがもとになっています。そのリードユーザーによると、その人の障がいは外見からわかりにくいため、以前コンビニエンスストアでの買い物中に支払いの動作に時間がかかり、後ろに並ぶ客から「遅い!」と怒鳴られてしまったそうです。
パッと見てわかりにくい障がいや疾患などを伝える手段としては、東京都福祉局が作成し全国に普及した「ヘルプマーク」などがあります。しかしリードユーザーの体験談からヘルプマークではカバーしきれないシーンに気づき、必要なシーンや伝えたい強度について議論を進め、必要なときだけそっと伝えるアイテムを誕生させました。
「Hello tag」は、障がいを含む自分の個性や特性を周りの人にさりげなく伝えることを意図したアイテムです。
イベントでは、「Hello tag」のブルーのパーツとチャームを自分で組み合わせて、持ち帰っていただけるスタイルで展示しました。どんなメッセージを身に着けたいかを話しながら、欲しいものを楽しそうに選ぶお客様が目立ちました。
使いやすさや感触を実際に試せるよう展示物に自由に触れる展示方式としました。
ソニーとコクヨそれぞれが実践する
ダイバーシティ実現に向けた取り組み内容も展示
さらに、ソニーとコクヨがそれぞれ独自に実践している取り組みを紹介する展示も、お客様にご覧いただきました。
●ソニーのクリエイティブセンターが取り組む「ワララボ (Work & Lifestyle Lab)」
ソニーのクリエイティブセンターでは、若手メンバーが中心になって、働きやすい職場づくりを目指す自主活動を行っています。その一つ「ワララボ (Work & Lifestyle Lab)」は、1人ひとりがダイバーシティに関する知見を深め、キャリアを見つめ直すための活動で、産休・育休や副業、セカンドキャリアなどについて情報発信を行っています。
今回の展示はワララボの活動手法を用いて、「CROSSING VIEWS」に携わったコクヨとソニーのメンバーが実践している働き方について悩みや工夫ポイントを紹介しました。
ソニーグループでは「ワララボ」を中心とした働きやすい職場づくりを目指す自主活動の内容を展示しました。
●コクヨのインクルーシブデザイン「HOWS DESIGN」
コクヨでは、インクルーシブデザイン「HOWS DESIGN」の取り組み内容を紹介するとともに、ワークショップを通じて生まれた文具などの製品を展示しました。
2社のモノづくりカルチャーが融合して
新しいインクルーシブデザインプロトタイプが誕生!
アイランド型ソファ「nolla」の開発にエンジニアとして携わったコクヨ株式会社の香取岳さんと、「aicon」開発のチームリーダーを務めたソニーグループ株式会社のデザイナーである井上香菜子さんに、今回のプロジェクトについてお話を聞きました。
今回のプロジェクトに参加したコクヨ株式会社の香取さん(左)と、ソニーグループ株式会社の井上さん。
Interviewee
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香取 岳(かとり がく)
コクヨ株式会社
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり生産本部 -
井上 香菜子(いのうえ かなこ)様
ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター
コクヨとソニーという2社の横断のチームでインクルーシブデザインワークショップを実施してみて、新たな学びや発見はありましたか?
香取:インクルーシブデザインに対する考え方の方向性は2社で共通していたのですが、モノづくりのアプローチはコクヨとソニーで大きく違うことがわかり、アイデアを形にしていく段階では発見の連続でした。
コクヨのモノづくりの根底には、「作っては試す」という実験カルチャーがあります。ですからプロトタイプの段階では、「試作品は改善点をあぶり出すためのもの」といった感覚でつくることもあります。
しかしソニーのメンバーからは、初期段階から「この部分の収まり方が綺麗にいくか、ちょっと不安ですね」といった意見があり、「最初からここまで完成度にこだわったモノづくりをするんだ」と驚きました。
井上:もともと今回参加したソニーのメンバーはインクルーシブデザインの経験が豊富なわけではありませんでした。
そのため、アイデアを形にしていくプロセスの中でも、ソニーのモノづくりにおいて重視するクオリティやユニークさを最初から追求しようとしていました。
でもコクヨのメンバーは、「今回プロトタイプをつくる目的は、あくまでもリードユーザーの困りごとを解決すること。それが結果的に革新性につながるはずです」と方向性を決める発言をしてくれて、ソニーのメンバーも「確かにそうだ」と気づいたのです。
香取:とはいえ、ソニーのメンバーのこだわりによってクオリティが担保された面も多々ありました。
井上:アプローチの違いが、制作プロセスに関しても、完成したプロトタイプに関しても、よい融合につながりましたね。
■今回のインクルーシブデザインワークショップを実施するにあたって、意識したことはありますか?
井上:ワークショップでほかのチームメンバーの発表を聞く中で、ある発表者が「リードユーザーのメンバー1人を『どんな困りごとがありますか?』と質問攻めにするのは、フェアじゃない気がする」と話していたのです。
その言葉が強く記憶に残っていたので、リーダーとしてチームで議論を深めるときも、リードユーザーだけでなくチームメンバー全員に「みんなだったらどう思う?」「似たケースはあるかな?」と意見を聞くよう意識しました。そこで生まれた、様々な困りごとを伝えたいシーンや、伝え方の違いが、「aicon」というアイテム群の方向性を決めることになったと感じています。
香取:インクルーシブデザインの起点には「リードユーザーの困りごと」にあるかもしれないけれど、そこをメンバー全員が自分事として考えるのがインクルーシブデザインワークショップの特徴だな、と改めて思いましたね。
ただそのあり方も、モノづくりのプロセスの中で変化してよいのではないでしょうか。初期段階ではリードユーザーを中心に据えて対話を重ねてもいいけれど、最終的には「各メンバー自身が困っていること」という観点から要素を出し合って、メンバー全員が同じ目線で関わっていけるような進め方を、僕たちのチームでも心がけていました。
今後、どんな形でインクルーシブデザインに関わっていきたいですか?
井上:ワークショップで生まれたアイデアを「aicon」という形にするまでには悩みの連続だったので、展示を見て下さったお客様から「使ってみたい」とご好評いただき、本当にうれしく感じています。
今回はプロトタイプの展示でしたが、いつかはインクルーシブなプロセスで生まれたプロダクトを幅広い人々に届けたいです。
香取:展示で一般のお客様にプロトタイプを使っていただいたことによる気づきもあったので、これからのモノづくりに活かしていきたいです。
また、インクルーシブデザインに携わっていくにあたって、工学の知識を備えたエンジニアをもっと仲間に引き込みたいですね。今回のプロジェクトに参加したのはデザイナーが多く、エンジニアは私だけだったのですが、エンジニアが増えればアイデアをもっと形にしやすくなると思います。
井上:本当にそう思います! いろいろアイデアは出ても、実践段階でつまずくことはとても多いですから。今回展示した買い物バッグの制作過程でも、デザイナーだけでは「バッグの中にどれだけのものを入れたら肩から滑り落ちてしまうか」等の具体的なイメージが難しく、試作に時間がかかったシーンも多々ありました。社内に、インクルーシブデザインを一緒に進められる仲間が増えるとうれしいです。
取材日:2026.03.07
インタビュー・執筆:横堀夏代
撮影:ソニーグループ クリエイティブセンター
編集・校正:HOWS DESIGNチーム