HOWS DESIGN

Vol.40 INTERVIEW

「インクルーシブデザイン」の認知率はわずか1割強!
アンケート調査から見えてきた課題とやるべきこと

掲載日 2026.05.13

ALTはじまり。3人の人物が屋外に並んで立ってこちらを見ている。真ん中がグリーンのトップスで黒いスカートの女性、左が薄い水色のシャツの男性。右がブルーグレーのシャツの男性。ALTおわり。

コクヨは2025年12月、全国の10代から70代以上の男女を対象に「インクルーシブデザイン生活者意識調査」を実施しました。(https://www.kokuyo.com/news/release/260316cs2/
その結果から見えてきた「インクルーシブデザイン」の現在地と、それを受けたこれからの取り組みを、アンケート調査を実施した太田さんと、インクルーシブデザインを社会につなぐコミュニティ「HOWS DESIGN COMMUNITY」の推進役でもある井田さん、本澤さんが語り合いました。

Interviewee

  • 井田 幸男(いだ ゆきお)

    コクヨ株式会社
    CSV本部サスティナビリティ推進室理事

  • 本澤 真悠子(もとざわ まゆこ)

    株式会社カウネット
    MD3部 部長

  • 太田 晴規(おおた はるき)

    株式会社カウネット
    広報 サステナビリティ推進部 理事

――今回「インクルーシブデザイン意識調査」を実施された目的と、結果からわかったことについて、あらためて教えてください。

太田:今回アンケート調査を実施した目的は、SDGsやDE&Iへの関心が高まり定着しつつあるなかで、生活者はインクルーシブデザインの考え方をどう受け止めているのか、その実態を探ることです。ここでいう「生活者」には、障がいのある方や高齢者、要介護者のご家族といったリードユーザーだけでなく、一般の方々も含まれています。そのため、リードユーザーと一般ユーザーの両方の声を捉えることを特に重視しました。

その結果、 「インクルーシブデザイン」という言葉を内容まで理解されている方はわずか12%。一方、バリアフリーは73%、ユニバーサルデザインは39%という結果で、似ている考え方と比べても想像以上に認知が低いことがわかりました。

井田:これは課題でもあり、チャンスでもあると受け止めています。さまざまな企業が取り組んできているにもかかわらずあまり認知されていないかわりに、決定的なスタンダードを確立した企業もまだないということですから。

ALTはじまり。アンケート結果のグラフ。「インクルーシブデザイン」という言葉を「説明できる・なんとなくわかる」と答えた人は11.9%で、SDGs(59.9%)やバリアフリー(72.8%)に比べると認知は発展途上。しかし、その概念を提示したところ、約7割が「とても良い組みだと思う」「良い取り組みだと思う」とポジティブに評価し、「あまり良いとは思わない」「良い取り組みだとは思わない」と回答した否定派は2.7%。ALTおわり。

アンケート結果はこちらをご覧ください
https://www.kokuyo.com/news/release/260316cs2/

太田:このような状況のなかで、インクルーシブデザインが今後普及してビジネスとして大きくなっていくうえでの課題には、大きく3つあると考えています。

1つ目は、開発プロセスの複雑さです。コスパやタイパが強く求められるビジネス環境において、インクルーシブデザインは通常の商品開発のプロセスより工数がかかり、開発メンバーの負荷が大きくなりがちです。私たちもできる限り負荷を減らせるように開発プロセスの標準化に向けて試行錯誤中ですが、リードユーザーの声を確実に反映しながら、より効率的に進めていくこと、その両立が求められます。

2つ目は、マーケティング上の訴求の難しさです。インクルーシブデザインでは開発プロセスそのものが重要です。その価値を伝えるには商品ができるまでの背景やこだわりを訴求する必要がありますが、まだまだその魅力的な伝え方をつかみきれていません。

3つ目に、ターゲット設定の難しさがあります。インクルーシブデザインでは、「不便さ」の本質を捉える鋭い視点を持つリードユーザーと一緒に開発しますが、その結果「一部の特性を持つ方のためだけの専用品」をつくるのではなく、「みんなが使いやすいもの」に価値を広げる必要があります。
リードユーザーの方だけに最適化するのではなく、そこから得られた気づきを『多くの人の使いやすさ』へと昇華させることで、持続可能なビジネスとして成立させていく必要があるのです。
しかし、開発プロセスを訴求すればするほど一般の方から「自分には関係ないもの」と捉えられる恐れもあります。リードユーザーと一般ユーザー、それぞれのベネフィットをうまく伝え分ける工夫が必要なのです。

ALTはじまり。テーブルの前に座って手を広げて説明している。ALTおわり。

太田 晴規さん

本澤:その一方で、言葉は知らなくてもインクルーシブデザインの概念を理解すると、69.8%の方が好意的に評価してくれることも今回の調査からわかりました。

これまでカウネットでは、「取り出しやすい」「持ちやすい」といった商品の機能の特長と、開発プロセスや背景はルートをわけて別々に伝えてきました。商品に魅力を感じてくれた方が使いやすいと感じて調べてみて、「実は特性を持つ方と一緒に開発された商品だったんだ」と納得していただけるのが一番理想的な伝わり方だろう、と。コクヨらしい奥ゆかしさではありますが、それは今の時代にあっているのか、特にカウネットはオフィスで使う商品のBtoBビジネスなので、よりその価値の伝え方に難しさを感じます。

しかし、アンケートから「視覚障がいのある方の声を取り入れました」「病気で筋力が弱い方と一緒に開発しました」など具体的なストーリーを添えることで、共感が得られて購買意欲が上がることがわかったので、機能と開発プロセスをダイレクトにつなげて積極的に伝える必要性を改めて実感しました。

ALTはじまり。「取り出しやすい」「視認しやすい」「持ちやすい」などの工夫のための開発秘話を紹介。ALTおわり。

カウネットではサイト内でこのような紹介をしています。

井田:私たちは何を伝える必要があるのかをシャープにしなければならないということでもありますよね。
伝えるべきことには大きく2つのレイヤーがあり、一つ目はインクルーシブデザインの取り組みそのものの社会的価値です。
商品に限らず、これまで建築、土木、情報システムといったさまざまな社会システムを構築する際に対象から排除されてきた人たちとの対話の手法を、デザインという言葉に置き換える、このインクルーシブデザインのプロセスを通して社会参画の場をつくり、声を反映させていくことの価値は、きちんと伝えていく必要があると考えています。

もう一つのレイヤーは、インクルーシブデザインのプロセスを経て開発された商品のベネフィットやプロダクトのよさです。こちらは、本澤さんの言う通りターゲットやベネフィットが複層化していて伝え方が難しく、私たちも試行錯誤している段階です。

太田:インクルーシブデザインの重要性を認識しながらも、それを社会に向けたメッセージとして結実させる力は、まだ発展途上だと思います。先駆者としてコクヨを想起していただくためには、単なる理念だけでなく、具体的な成果と発信が密接にリンクしていなければなりません。現場の『商品開発』とブランドとしての『メッセージ発信』。この両面を丁寧に繋ぎ合わせていくことが、今の私たちの課題です。

――それだけ価値の伝え方が難しく、開発に工数もかかるインクルーシブデザインにコクヨが取り組む理由を聞かせてください。

本澤:「経済合理性だけでは企業は存続できない」という経営トップの強い意志が、背景として大きいと思います。

SDGsタスクなどの担当部門だけが取り組む企業もあるようですが、コクヨではインクルーシブデザインプロセスを経た製品の上市率を2030年までに全体の50%まで引き上げることを目標に、全体で取り組んでいます。

さまざまな部門や役割の社員が持ち回りで取り組んでいくため、開発担当者全員がこのプロセスを経験することになります。一度経験すると、インクルーシブデザインではない商品の開発段階でも、「〇〇さんが使う場合、何か困るところはないだろうか」と一人ひとりの顔を思い浮かべて疑問が頭をよぎるはず。そうした配慮への気づきを得られるようになったことは、現場にとって大きなプラスだと感じています。

ALTはじまり。テーブルの前に座って説明している。ALTおわり。

本澤 真悠子さん

井田:これまでリードユーザーの方と一度も話したことがなかった社員が対話の機会を持つことで、社内のインクルージョンが進んでいく、その結果、これまでになかった気づきや視点を得ることができています。

実はコクヨのインクルーシブデザインの始まりは、2007年に官公庁向けに開発した「Madre(マドレ)」という椅子です。その時感じた苦労はできるだけ取り除こうと、「HOWS DESIGN」に反映させています。

例えば苦労したことの一つに、場所の確保がありました。インクルーシブデザインでは何度もワークショップを行うのですが、開発途中のモックアップを置いて障がいのある方たちが安全に動ける広さや設備のスペースを確保できていなかったんです。インクルーシブデザインのワークショップの場でもあるHOWS PARK(ハウズパーク)を構築する際にはそこを考慮しました。

また、外部からリードユーザーの方をお招きして、そのたびに守秘義務契約を結んだり、予定を合わせたりすることも開発メンバーの負荷が大きかったんです。でも、コクヨには1940年から障がい者雇用に取り組んできた歴史があり、多くの障がいのある社員がいます。そのメンバーと一緒に、社内におけるインクルージョンでの課題解決も含めてイノベーションを起こすことができる、これはコクヨの取り組みのオリジナルの価値だと感じています。
こうした取り組みを通じて得られた知見を広く社会に発信していくことで、インクルーシブデザインに取り組む企業、つまり仲間が増えることにもつながればいいですね。

ALTはじまり。テーブルの前に座って語りかけている。ALTおわり。

井田 幸男さん

――今回の調査結果を受けて、今後取り組んでいきたいことは?

太田:今回の調査で、インクルーシブデザインの認知の低さと、背景ストーリーを伝えることの可能性を再確認したので、今後は他企業とも連携しながら、社会へ丁寧に伝えていきたいと考えています。そうした私たちの活動によって認知度がどう変化し、受容度は高まるのか、購買行動にどう結びつくのかといったデータを蓄積し、取り組みの効果測定や改善につなげていきたいですね。今回の調査結果も、社内の説得材料にするなど使える機会があればどんどん活用いただきたいです。

また今回の調査から、日常生活で「もっと配慮があれば」と感じる経験をしている人が多いこと、特に生活動線やフィジカルな商品への改善期待が高いこともわかりました。これは文具やオフィス用品、オフィス家具などを扱うコクヨにとって大きな機会でもあると捉えています。

ALTはじまり。アンケート結果のグラフ。日常生活で「もっと配慮があれば」と感じた経験が「よくある110%」「たまにある44.6%」。コア当事者では「よくある15%」「たまにある47.7%」。一般層では「よくある6.3%」「たまにある41%」。ALTおわり。

アンケート結果はこちらをご覧ください
https://www.kokuyo.com/news/release/260316cs2/

ALTはじまり。アンケート結果のグラフ。配慮を期待する分野が年齢層により異なる。30~40代:「商品・サービスの使いやすさ向上」(24.6%)や「商品パッケージの見やすさ・開けやすさ」(20.8%)といった生活実務に直結する改善に加え、「価格の配慮」(23.4%)が上位に入る。70代以上:「店舗・施設のバリアフリー化」(40.4%)や「交通・移動手段の改善」(39.8%)が突出している。ALTおわり。

アンケート結果はこちらをご覧ください
https://www.kokuyo.com/news/release/260316cs2/

本澤:お二人が言われるように、インクルーシブデザインの裾野を広げていくためにも、企業同士がもっと協力していけたらと思っています。

例えばワークショップを合同で開催することで、これまでお願いしていたリードユーザーの方の特性に偏りがあった場合は、違う特性のを持つ方との協業によって普段と違う視点でものを見られるようになったり、場所がなくて開催できないといった課題を解消できるはずです。

また、リードユーザーの方から、「商品開発に携われて実際に形になったのを見られて嬉しい」という反応や、「ワークショップで意見を聞かれる経験を通じて、日常生活でも意識することや気づきが増えた」という声をもらったことがあります。インクルーシブデザインのプロセスが、そんな風にリードユーザーの方々にもプラスになる機会としても広がっていけばいいなと思っています。

井田:現在はどちらかというと身体的なバリアに対する仮説のもと、文具・オフィス用品・オフィス家具といった「モノ」起点でアプローチしていますが、今後は「コト」起点で、生活全体の中にどんな困りがあるのか、私たちはそれをどう解決できるのかを考える取り組みにも挑戦していきたいですね。

例えばあるリードユーザーの方に、自宅での生活や通勤途中の動線や様子をすべて開示していただくというワークショップを実施しました。そこから見えてきたことの一つに、コミュニケーションの課題がありました。
私たちはどうしても「コミュニケーションを取ることはよいことだ」という前提で考えがちですが、ワークショップを通じてわかったのは「自分のペースで情報を受け取りたい、過度な干渉は避けたい」「直接対話するのではなく、時間を置いて自分の意見を伝えられる仕組みがほしい」方もいることです。こうした声をどんな商品やサービスにつなげていくことができるのか、家具や文具、通販といった「モノ」起点の一つ上、「働き方・学び方・暮らし方」といった「コト」起点に視点を上げることが期待されているのだと実感しています。

コクヨの中でも、すでに空間設計やBPOサービスにインクルーシブデザインの考え方を取り入れてビジネスをつくる動きができています。どんな解決や配慮が求められているのかという社会の要請をつかみ、「モノ」と「コト」起点でアプローチしていく。そんな風に社会の要請と私たちのビジネスがうまくシンクロナイズドさせていけたらと思っています

取材日:2026.04.01
取材:中原絵里子
執筆:中原絵里子
編集・校正:HOWS DESIGN運営チーム
撮影:ヤマグチイッキ

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