Vol.41 CASE
パッと開いて、出し入れスムーズ!
エレコムと共同開発したパソコンバッグが誕生。
掲載日 2026.05.21
Interviewee
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濃野 司 (のうの つかさ) 様
エレコム株式会社 商品開発部
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近藤 哲史(こんどう さとし)
コクヨKハート株式会社
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中尾 公一 (なかお こういち)
コクヨKハート株式会社
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宮川 由紀(みやがわ ゆき)
株式会社カウネット MD本部 MD1部
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荒木 洋平(あらき ようへい)
株式会社カウネット MD本部 商品開発部
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
カウネット×エレコム 耐衝撃パソコンバッグ 出し入れスムーズ前面ポケット
カウネットとエレコムが共同開発した“ZEROSHOCK”シリーズのパソコンバッグ。低反発ウレタンフォームが衝撃を吸収し、大切なノートパソコンをしっかりと守ってくれる。最大の特長は、ラウンド形状の前面ポケット。大きく開くので片手でも出し入れがしやすく、中身の確認も一目でできる優れもの。さらに、指で引っかけることができるリングファスナーを採用し、指先に力を入れずともスムーズに開閉ができる使いやすさを追求しました。
エレコムの人気シリーズをベースに、カウネット初のパソコンバッグの開発がスタート
カウネット×エレコムの最新作は、どんな特徴のある商品ですか?
宮川:今回の商品のベースとなっているのは、エレコムさんの“ZEROSHOCK”シリーズです。パソコンバッグを利用するユーザーの多くは、パソコンを衝撃から守るための「耐衝撃」の機能を求めているので、それを前提にHOWS DESIGNを取り入れた商品を開発することになりました。
オンラインで参加した企画担当の宮川さん
濃野:“ZEROSHOCK”シリーズは、「衝撃に強い」をコンセプトにバッグやポーチなどを展開してきました。今回の製品のベースとなったバッグは、軽量ながら衝撃の吸収性に優れたウレタンフォームという素材を使用しています。
宮川:HOWS DESIGNによる特徴的なポイントとしては、商品名にも盛り込んだ「出し入れスムーズ前面ポケット」。リング状のファスナーに指を引っかけることでスルスルと開閉でき、かつ奥まで手が届きやすく、中身が見やすい設計になっています。
リードユーザーを交えたワークショップは、どのように進んでいったのでしょう?
荒木:まずは、パソコンバッグにまつわる困りごとを知るために、行動観察をテーマとしたワークショップを行いました。エレコムさんの既存のパソコンバッグを実際に使っていただき、リードユーザーの方々が感じた率直な意見を拾っていくのが目的です。
左からカウネット開発担当の荒木さん、エレコム開発担当の濃野さん
近藤:私は両手両足が不自由で、手に関しては力を入れづらく、指の細かな動作が難しい状態です。最初に感じたのは、ファスナーの開けづらさ。用意されていたパソコンバッグは、前面にポケットが2つ並んで付いているものだったのですが、片方を開けようとすると、まずL字型のカーブ部分でグッと力を入れないと進まず、さらにポケットとポケットの隙間に指が引っかかってしまって、スムーズに開けることが難しいと感じました。閉める際も隙間に埋まっているファスナーがつかみづらかったので、もう少し余裕が欲しいな、と。
中尾:同じく、ファスナーの開けづらさは私も感じましたね。それと、私は左手の握力が弱いので、ポケットに物を出し入れする際に、もう少しマチが広い方が使いやすいなと思いました。マチが狭いとポケットをめくり上げないと中身が見えづらいですし、手も奥まで届きづらい。
左からリードユーザーの近藤さん、中尾さん
荒木:パソコンバッグの前面ポケットを使うときって、ポケットの口が開くように片方の手で押さえて、もう片方の手で物を出し入れしますが、手や指の動作に制限がある方にとっては 、その行為自体が難しいということですよね。
中尾:そう。だから本当は片手だけで完結させたいんですよ。左手は単純な動作しかできないので、普段から両手を使って作業することはほとんどないです。
濃野:ファスナーの開けづらさに関しては、実は、私自身も感じていたことなのですが、当社としては元のデザインを優先しているところがありました。でも、今回リードユーザーの皆さんから率直な意見をいただき、インクルーシブデザインの視点ってすごく大事なんだなと改めて気付くことができましたね。
ユーザーの行動観察から見えてきたもの。キーワードは“開けやすさ”と“出し入れのしやすさ”
挙げられた課題に対して、開発チームはどのようなアプローチを?
荒木:「開けやすさ」と「出し入れのしやすさ」に着目し、例えば、片手でも出し入れがしやすくなるようにポケット部分をガバッと大胆に開ける仕様にしたものや、ファスナーのつまみにくさを考慮してリングファスナーに変更したもの、隙間に指が引っかからないようにファスナーの向きを従来と逆の外側へ向けたものなど、さまざまなサンプルを用意しました。
近藤:3回目のワークショップでは、前面に2つあったポケットが1つに集約されていて、以前より大きく開くようになっていたので、かなり収納しやすくなったと感じました。個人的には色付きのデザインも気に入っていたのですが、採用には至りませんでしたね。
荒木:ファスナーの視認性を高めるという意味ではよかったのですが、パソコンバッグを買う人の立場になって考えたときに、ビジネスシーンで使いやすいデザインのほうが手に取りやすいだろうなと。最終的に一番シンプルな黒色に落ち着きましたね。
近藤さんが気に入っていた色付きのバッグを見せる荒木さん
中尾:私が参加した4回目のワークショップでは、ポケットの形状がさらに変化していましたよね。
荒木:これまでの半分くらいのサイズに縮小して、必要最低限の物を収納できるようにしました。
宮川:ポケットの数やサイズの変更については、カウネットで「パソコンバッグには何を入れていますか?」というユーザーアンケートを実施した結果を反映しています。ポケットが大きいことで中身が見えづらいと感じるリードユーザーがいることや、入れるものは意外と限られているという一般ユーザーからの声を考慮すると、あえて数を減らしてコンパクトにするというアプローチもありなのではと。
濃野:従来の商品には無かったタイプですが、「開けやすさ」と「出し入れのしやすさ」にフォーカスすることでたどり着いた、インクルーシブデザインらしい新しい提案だと思いましたね。
中尾:ポケットを1つにすることで、指が隙間に引っかかるという問題もなくなり、ラウンド型にすることで、カーブ部分も力を入れることなくなめらかにファスナーを動かせるようになりました。
荒木:ポケットの開き具合についてもいろいろと試しましたよね。
近藤:私の場合、普段から車いすを使っているので、パソコンバッグなどを開け閉めするときに自分の膝の上に乗せて作業するのですが、ポケットが開き過ぎると、中に入れていた電源コードやマウスが落ちてしまって。
車いすユーザーの視点から意見を述べる近藤さん
荒木:それなら開き具合をもう少し調整する必要があるよね、と。このように、リードユーザーの方々との対話を重ねてブラッシュアップを繰り返していったのですが、リードユーザーの専用品になってしまうとダメなのがHOWS DESIGNの難しいところ。あくまで「誰にとっても使いやすいもの」を目指すべきだという視点を忘れてはいけないと感じました。
一部の人の専用にとどめない。ものづくりにおいて欠かせない視点とは?
紆余曲折を経て、完成品を手にした感想はいかがですか?
濃野:カウネットさんからさまざまなアイデアをいただきながら当社でも検討を重ねる中で、コスト等の関係上どうしても実現が難しかったものもあるのですが、それでも、この商品にとって本当に必要なものは何だろう?と突き詰めていった結果、今できるベストなものに仕上がったと感じています。
荒木:1つの困りごとに対して解決策を提示してみても、その他の問題が残ったままだったり、極端なものを作ってみれば、また新たな問題が発生したりと、大変なことは多かったのですが、「開けやすさ」「出し入れのしやすさ」という最初のコンセプトがブレることなく、自分たちが届けたかった価値を集約できた商品になっているのではないかと思います。
宮川:企画担当としても、元々のコンセプトに沿ったすごくいいものができたと思っています。これをお客様にどうやって届けるかを考えるのが私たちの役目なので、PR動画の制作などさまざまな手段を模索しているところです。
ワークショップで実際に使われたプロトタイプの数々。前面ポケットの変遷がよく分かる
共にインクルーシブデザインに取り組む会社として、今回の共同開発で得た気付きや学びはありましたか?
荒木:これまでもインクルーシブデザインを取り入れたアイテムはいろいろと手掛けてきましたが、バッグのようなカテゴリーはほとんど経験がなく、今回の開発ではコンセプトを実現する難しさを感じていました。ですが、エレコムさんとの協業だからこそ、途中段階のプロトタイプを本物に近い形でリードユーザーに提案することができ、おかげでより的確なブラッシュアップやアウトプットができたと思っています。普段の開発だと、私が手作りした試作品で進めることもありますからね(笑)
濃野:現在エレコムでも、視覚に特性をお持ちの方でも使いやすいバッグの開発に取り組んでいますが、カウネットさんのように繰り返しユーザーへのヒアリングを行って商品にフィードバックさせていくプロセスは非常に勉強になりました。取り組みに関わった当初は、例えば、視力を失われた方は、そもそもパソコンを必要としないのではないかと思い込んでいましたが、実際は私たちと同じように日常的に利用されています。それを知った上で、じゃあどんなものが必要なのか?と問いを重ねていくことが大切なんだなと。
前面ポケットの改善ポイントを説明する濃野さん
近藤:私たちリードユーザーも、こういった開発に参加することで自分がどんな動作を苦手としているのか再認識するきっかけになります。小さな気付きから新たな商品が生まれることで、さまざまな特性を持つ人たちの生活が少しでも快適になれば嬉しいです。
中尾:我々は水先案内人ですね。私たちが使いやすいと感じるものは、若い人から高齢者まで誰にとっても使いやすいものだと言える指標になるんじゃないかなと思います。
荒木:「誰にとっても」という視点は非常に重要で、今後も忘れずに持っておくべきだと改めて感じますね。インクルーシブデザインのプロセスに限らず、通常の商品開発においてもその視点を持っていれば、どんどんいい商品を生み出していけるのではないかと思います。
濃野:荒木さんがおっしゃるとおり、フラットな視点の大切さはすべてのものづくりに通じるもので、本来はすべての商品がインクルーシブデザインであるべきだと感じています。当社はまだカウネットさんほどインクルーシブデザインのアイテムは多くないですが、一過性のもので終わらせたくないというのは強く意識しているところです。もちろん誰かの役に立つことは大切ですが、しっかり利益につながるものを作って事業として成立させ、継続して販売していくことで、結果的にそれが世の中のためになるような商品開発を今後も続けていきたいと思っています。
取材日:2026.04.28
取材:秋田志穂
執筆:秋田志穂
編集・校正:HOWS DESIGN運営チーム
撮影:青木達也