映画を通じて
デザインする好奇心
コクヨの新たな挑戦

映画を通じてデザインする好奇心コクヨの新たな挑戦サムネイル

「好奇心」をテーマに制作されたコクヨの短編映画。
グラフィックデザインを担当した社員2名と広報戦略を担当した社員の計3名に、映画を通じたコミュニケーションの裏側について直撃しました。
これまでになかった新たな挑戦を乗り越え、企業のブランド価値に繋げるコミュニケーションの核心に迫ります。

この記事は8分で読めます

Profile

後藤 由芽

後藤 由芽(ごとう・ゆめ)

グローバルワークプレイス事業本部

2023年入社。主な実績に「KOKUYO WORKPLACE SHOW 2025」のグラフィックデザイン、「DIG」のサインデザイン等。The Curiosity Filmsプロジェクトではグラフィック制作を担当。

高芝 祐衣

高芝 祐衣(たかしば・ゆい)

グローバルワークプレイス事業本部

2024年入社。主な実績に「KOKUYO WORKPLACE SHOW 2025」のグラフィックデザイン、「DIG」のサインデザイン等。The Curiosity Filmsプロジェクトではグラフィック制作を担当。

萩原 航大

萩原 航大(はぎわら・こうだい)

コーポレートコミュニケーション室

2022年にキャリア入社。前職のPR会社での経験を経て現職へ。
「コクヨのヨコク」CMをはじめ、WEBやリーフレットなど各種コンテンツ制作を担当し、社内外のPRに従事。 The Curiosity Filmsプロジェクトでは、広報戦略の設計を担当した。

映画の舞台裏で動いていた、社員たちの挑戦

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(左から)萩原、後藤、高芝

──まず、映画のグラフィックデザインの話が来たときは率直にどう感じましたか?

後藤:とても責任のある仕事が来たなという感じでした。相談を受けた当時は、絵コンテなどのデザインのベースとなる素材は何もなく、「台本からシーンをイメージして、どういうカットを撮ったら良さそうか考えてきてほしい」というところから始まり、まさにゼロからのオーダーだったんです。最初は不安の方が大きかったですね。

高芝:私も後藤さんと同じく驚きと不安の方が大きかったです。

萩原:お二人に初めて相談したときの表情が忘れられません(笑) コクヨが映画を制作することも初めて伝えたタイミングだったので、とにかく驚いてましたね。でも、二つ返事で「やります!」とポジティブに受けていただいたので、これから一緒に映画を盛り上げていくうえで本当に心強かったです。

──そもそも映画という分野で、社内でグラフィック制作をすることとなった経緯を教えてください。

萩原:もちろん外部委託という選択肢もありました。ただ、今回の映画制作を一部のプロジェクトメンバーだけで完結させるのではなく、少しでも社内の関係人口を増やし、この映画を「社員みんなで作りあげたもの」にしたいという強い思いがあり、社内でグラフィックデザインを得意としているお二人社員に声をかけたことが始まりです。それ以外にも、なるべく社員もエキストラとして参加させてもらえるよう調整したりもしました。

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──後藤さんと高芝さんは普段、メーカーのインハウスデザイナーとしてプロダクトやグラフィックデザインを担当されていますが、普段の業務と比べてどのような違いがありましたか?

後藤:映画のグラフィックデザインは全くの未経験で、コクヨに入ってまさかこんな仕事をすることになるとは思いませんでした(笑)私と高芝は普段はオフィス家具のプロモーションのグラフィックデザインやサインの制作などを担当しているのですが、それとは違うことが多く、とにかく監督やプロダクションの方たちと対話を重ねて、大きなボールを一つ一つ分解しながらコツコツと打ち返しましたね。あとは周りの方にとにかく頼りました。

高芝:普段あまり接点のない業界や実績のある方と一緒に仕事ができるとても良いチャンスでもあるので、刺激をもらいながら成長できたと感じています。

後藤:本当に普段の仕事と関わる人たちが全然違って良い刺激になりましたね。あとは、映画は不特定多数の方に触れるため影響範囲が大きいという点に違いを感じます。
普段はオフィス家具部門に所属しているので、家具を起点にしてその周りの人や環境に響くようにデザインしていくのですが、映画となると受け取り手が多く、コントロールが効きにくいなという感覚がすごくありました。文字の大きさを少し変えるだけでも伝わり方が変わるのですごく勉強になりました。

高芝:映画はエンタメ業界であるということも大きな違いだと思います。普段は合理性に基づいたプロダクトデザイン周りのグラフィックに携わっているので、機能性や合理性を求められるのですが、映画の場合は物語や人の感情をつくる事がメインですよね。全く違う世界で情熱を注いでいる人たちがたくさんいるのを感じて、尊さや羨ましさという感情も生まれました。通常業務とは異なる「エンタメ自体が持っているエネルギー」を感じる事が出来て良かったと感じました。

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──萩原さんは広報として、お二人とどのように関わったのでしょうか?

萩原:グラフィック制作に関しては基本的にお二人を中心に、プロジェクトメンバー全体で議論を重ねて詰めていったため、私個人が何か手を動かしたわけではありません。ただ、そのグラフィックを通じて映画を世の中に届ける役割がありました。デザインにおいて素人ではありますが、グラフィックを受け取る多くの一般の方側の視点から、「掲載場所に応じて文字をもっと見やすくしたほうがよいのでは」「これを見てどんな行動を起こしてほしいか」といった意見を伝え、一部のデザイン感度の高い方だけでなく、一般の方や社員にも確実に届き、メッセージとして正しく機能するための伝達力を高めるべく、一緒に議論を重ねました。

「好奇心」をデザインに落とし込む

──今回の「The Curiosity Films」3作品に共通する「好奇心」という抽象的なテーマをデザインに落とし込むにあたり、どう表現しましたか?

後藤:背景色を薄い緑から濃い緑へと変化させるグラデーションを採用しました。
「好奇心って一つじゃない。3本の映画に触れることで、好奇心への理解が深まっていく」というコンセプトを表現しています。

高芝:ベースとなる緑色は、コクヨの新CIカラーパレットから選びました。例えば、ピンクだと「THE CAMPUS」のVIと被る、赤だと「ドキドキ感」が強すぎるなど、既存のイメージや直感的な印象を避け、映画という媒体で「好奇心」を表す色として設定しました。

──各作品のタイトルロゴにも、それぞれ意図が込められているのですね。

高芝:そうですね。例えば、「世界地図」のロゴが少し歪んでいるのは、メルカトル図法をイメージしています。これは、「世界が広がっていく」というコンセプトを表現しています。

後藤:「Hidden Sun」はロゴの下部を少しだけ隠すことで「日が隠れる(Hidden)」様子を表現しました。

──グラフィックを作成する上で特に大変だった点を教えてください。

後藤:制作にあたって関係者がとにかく多く、受け取り手も多いという所で全員の合意を取った上で進めなければならないところが大変でした。監督やプロダクションなどの作り手や、コクヨのブランディング、それを受け取る視聴者の視点など、
様々な視点を加味しながら一つのグラフィックに落とし込まなければならなかったので、何度も何度も試行錯誤を重ねました。

高芝:何度も検証を重ねたことです。例えばロゴデザインのフォント選定一つを取っても、数十種類の候補を並べて検証しました。このプロセスを踏む事によって最終的なクオリティが変わってくることが分かりました。また映画製作には関係者が多いため、内容やデザインの変更が入稿直前で入ることもあり、ギリギリまで緊張感のあるプロジェクトでしたね(笑)

萩原:お二人の言うように関係者が多くて大変な中でも、細かな調整や繰り返しの検証を重ねることで、少しずつ形になっていったのを改めて感じます。直前の変更にも協力して対応できたからこそ、質の高いデザインが完成したと思います。そのおかげで、お二人が作った今回のグラフィックを岩井俊二監督にとても褒めていただきましたしね!

映画を通じた企業コミュニケーション

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プロジェクトを振り返る萩原

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──今回CMではなく、映画というコミュニケーション手法をとったのはなぜでしょうか?

萩原:「好奇心」というテーマを言葉だけでなく、体験として深く伝えたかったからです。映画は映像や音で感情や想像力を揺さぶり、多様な物語に触れることで「もっと知りたい」という小さな衝動を生み出します。こうした体験を通じて、メッセージをより豊かに、心に届く形で伝えたいと考えました。

──一見するとコクヨのブランディングに直接的に繋がりにくい印象も受けますが、どうでしょうか?

萩原:たしかに、一見すると直接的なブランディングにはつながりにくい印象を持たれるかもしれません。実は今回の制作では、「好奇心」というテーマ以外に具体的な条件は設けず、監督には自由に作品を作っていただきました。商品を前面に押し出すような、いわゆるプロモーション色の強いオーダーは一切していません。
そもそも「好奇心」というのは非常に抽象的で、人それぞれ捉え方が異なります。だからこそ、多様な「好奇心」を引き出す作品を監督に作っていただきました。この映画を通じて、まずは「コクヨは好奇心を大切にする会社なんだ」「好奇心って素敵だな」と感じてもらうことを目指しています。今回の映画は、その「好奇心」を引き出し、広く発信するための「装置」としての役割を果たしています。

──劇場公開ではなく、YouTube公開を選んだ戦略的な意図を教えてください。

萩原:当初、劇場公開やNetflixのようなサブスクリプション配信も検討されましたが、最終的にはYouTubeを選択しました。 これは、「なるべく多くの人に届ける」という広報戦略上の目的を最優先した結果です。劇場公開ではどうしても影響範囲が限られますし、配信後のプラットフォームの縛りも発生します。YouTubeという開かれたメディアを使うことで、映画公開後もSNSなどで話題にしてもらい、様々な意見やコメントに触れてもらうこと、企業メッセージへのリアクションを最大限に引き出すことを目指しました。

──映画制作プロジェクトにおいて、何を成功としているのでしょうか?

萩原:今回の取り組みは映画が純粋なアートとして消費されるだけでなく、企業のブランディングにフィードバックされることを目指しています。

私たちが目指すのは、「作品とともにコクヨの挑戦も世の中に伝わる」今回の作品はどれもとても実績があり、著名な監督によって制作いただいているため、作品自体への評価はある意味担保されていますが、広報としての使命は「それを創ったコクヨ」という会社がこんなクリエイティブな挑戦をしているというメッセージを定着させ、コクヨの企業イメージを刷新することです。この取り組みを通じて、企業のブランドイメージを拡張し、長期的な企業価値に繋げていきたいと考えています。