「好奇心あふれる展」で出会った、
コクヨらしいクリエイティビティの源泉
見て、触れて、聞いて、感じる。そんな体験型デザインイベント「好奇心あふれる展」では、共感共創を大切にしてきたコクヨならではのデザインの考え方や、その背景にあるクリエイティビティの源泉に触れることができました。
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INDEX
プロダクトの奥にある「問い」をたどる展示
2026年4月20日から24日まで、コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」にて、体験型デザインイベント「好奇心あふれる展」が開催されました。本イベントは、コクヨが120年にわたって育んできた“共感共創”の姿勢と、25年目を迎えた「コクヨデザインアワード」の歩みを重ね合わせながら、コクヨの文具・家具・空間・アワード作品を横断的に紹介するものです。今回は、その会場の様子をレポートします。
展示製品例
会場に入ってまず感じたのは、「これは単なる製品展示ではない」ということでした。整然と並んだプロダクトを鑑賞するだけではなく、その背景にある問いや試行錯誤の蓄積をたどりながら、「なぜこの形になったのか」「なぜこの体験が必要だったのか」を来場者自身が考えたくなる。そんな展示体験が設計されていました。
5つの視点から見えてきた、コクヨらしいクリエイティビティ
今回の展示は、コクヨのクリエイティビティを5つの視点から紐解く構成になっていました。
1.人・モノ・コトの「ちょうどいい関係」
2.「わたし」でも「あなた」でもなく、「わたしたち」
3.等身大のことばでとらえる、課題解決
4.「対話」からうまれるものづくり
5.ユニークな化学反応
これらの視点は、別々のテーマとして提示されているのではなく、コクヨのものづくりに共通する姿勢を、異なる角度から照らし出しているように感じました。
会場を歩きながら、コクヨがこれまで開発してきたプロダクトをめぐるうちに、5つの視点が少しずつ重なり合い、コクヨらしいデザインの輪郭が自然と浮かび上がってくるのを感じました。
さらに、この展示の魅力は、プロダクトの背景を“知る”だけでなく、自分の感覚で“確かめられる”ことにもありました。タッチ&トライブースでは、実際に製品に触れながら、説明文だけでは伝わりきらない工夫を体験することができました。
例えば、スティックのり「GLOO」のコーナーでは、四角い塗り面で紙の角まで塗りやすい感覚を実感。ハサミ「サクサ」のコーナーでは、異なる素材を切り比べながら、「利き手を問わない」使いやすさを確かめることができました。
来場者からは、「商品は知っていたが、実際に使うのは初めて。思っていた以上に使いやすくて驚いた」「背景にある考え方まで知ることで、商品の見え方が変わった」といった声も聞かれました。
また、来場者に配布されたオリジナル図録も印象的でした。展示で得た気づきや感じたことを自由に綴じ、自分だけの一冊として持ち帰ることができるこの仕掛けは、展示を“受け取るもの”から“自分の中で編集し直すもの”へと変えてくれました。会場で生まれた好奇心を、その場限りで終わらせず、次の思考へとつなげていく。そんな設計も、このイベントならではの魅力でした。
コクヨデザインアワードが広げてきた、発想と共創の可能性
展示を進んでいくと、コクヨデザインアワードのエリアへとつながっていきました。ここでは、2002年に創設されたプロダクトデザインコンペティション「コクヨデザインアワード」の過去の受賞作品をはじめ、歴代のポスターやトロフィーが展示されていました。社外のクリエイターや学生との共創を通じて、コクヨがどのように発想や表現の幅を広げてきたのか。その歩みをたどることができる構成になっており、120年の歴史を持つ企業でありながら、共感共創の思想のもと、つねに外へ開かれた姿勢を大切にしてきたことが伝わってきました。
ここで興味深かったのは、過去の受賞作品を紹介するエリアでありながら、展示全体に“これから”を感じさせる空気が漂っていたことです。作品はいずれも高い完成度を備えていながら、その発想の先にどのような製品や体験が生まれていくのかを想像させてくれるものでした。完成された魅力と、未来へ広がっていく可能性。その両方が感じられる点が、このエリアのおもしろさだったように思います。
トークショーが照らしたデザインの“過程”
会期中に行われたトークショーも、展示体験をより豊かなものにしていました。
20年ぶりのCI刷新の舞台裏を語る「新コクヨロゴはどう生まれたか?」、落選から製品化、グッドデザイン金賞受賞へ至るまでの歩みを振り返る「スマートなダブルクリップ」のセッション、Takramとコクヨによる高級ハサミ「HASA」の開発プロセス、そして「ing」から「ingCloud」へとつながる開発の軌跡など、多様なテーマが用意されました。
いずれのセッションにも共通していたのは、完成品の美しさや成果だけではなく、そこに至るまでの葛藤や対話、試行錯誤に光を当てていたことです。デザインは、ひらめきだけで生まれるものではありません。違和感を見つめ、仮説を立て、対話を重ね、少しずつ形にしていく。トークショーでは、そんな“過程”のリアリティが語られ、展示で見たプロダクトや作品への理解をさらに深めてくれました。
新コクヨロゴの共創プロセスに迫ったトークショーでは、企業ブランディングで数多くの実績を持つ6Dの木住野彰悟さんと、コクヨデザイナーの佐々木・金井が登壇しました。
※コクヨのインハウスデザイナーによるデザインコレクティブ「Nomadic」に焦点を当てたトークショーは、後日「コクヨマガジン」で詳しくレポートします。
来場者の中に生まれた、次の好奇心
会場を訪れた人たちは、「好奇心あふれる展」でどんな好奇心をかき立てられたのでしょうか。来場者へのインタビューやアンケートを通して、印象に残った体験や気づきを聞いてみました。
印象的だったのが、利き手を問わないハサミ「サクサ」への反応です。左利きの子どもを持つ母親からは、「実際に試してみたらとても切りやすかった」「こういうものが欲しかった」といった感想も。展示の場で実際に体験できたからこそ、日常の困りごとに寄り添うデザインの価値が、よりリアルに伝わっていたようです。
また、コクヨデザインアワードの展示を見て、「大多数に向けたデザインだけが正解ではない」と感じた学生の声も印象的でした。誰か一人の困りごとや実感に丁寧に向き合うことが、結果としてほかの誰かにも届くものにつながる。そんなデザインのあり方に気づかされたと、その学生は話してくれました。
こうした声から見えてきたのは、多くの来場者が展示を“見て終わる”のではなく、その体験を自分の日常へと持ち帰っていたことです。「こんな商品があるんだ」という発見にとどまらず、「身近な不便にもっと目を向けてみたい」「自分でも何か考えてみたい」——そんな新しい好奇心が、それぞれの中に芽生えていたことが伝わってきました。実際に、「これからはお店で文房具を見るときも、立ち止まって見たくなった」といった声も寄せられました。
展示で出会ったプロダクトや言葉、体験の一つひとつが、日常を見るまなざしを少し変えていく。「好奇心あふれる展」は、来場者の中にそんな余韻を残すイベントでもありました。
好奇心の連鎖が、これからのデザインを拓いていく
「好奇心あふれる展」を通して感じたのは、コクヨが長く大切にしてきた“共感共創”の姿勢とは、単にユーザーの声を集めることでも、技術力を一方的に示すことでもない、ということです。人の小さな気づきに共感し、その体験を多くの人とともに形にしていくこと。120年かけて培われてきたその姿勢は、過去のものではなく、今もなお更新され続けていることが、展示全体から伝わってきました。
そしてもうひとつ、この展示が教えてくれたのは、「クリエイティビティ」とは特別な才能をもつ人だけのものではなく、身近な違和感や感情に目を向けることから生まれるものだということです。日常の中の小さな「何でだろう?」が、「知りたい!」「やってみたい!」という好奇心へと変わり、その好奇心が人と人をつなぎ、新たな対話や体験を生み出していく。「好奇心あふれる展」は、そんな好奇心の連鎖を、コクヨがこれからも広げ続けていくのだと感じられたイベントでした。