自治体と共創。
子どもの主体性を
育む「動く教室」
コクヨの挑戦「ヨコク」を描く社員たち。
今回は、教育現場の空間づくりに情熱を注ぐプロジェクトメンバーのヨコク「学校の景色を、子どもの『やってみたい!』で満たします!?」に込めた想いに迫ります。
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INDEX
Profile
齋田 清隆(さいた・きよたか)
グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部
Profile
小川 真季(おがわ・まき)
グローバルワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部
戸田市教育委員会・戸田市立美女木(びじょぎ)小学校と協働し、PBL(Project Based Learning=課題解決型学習)を支える教室づくりに取り組みました
「一斉授業」から「探求・協働学習」へ
インタビューに答える齋田
―まず、今回のキーワードであるPBL(Project Based Learning)について教えてください。
齋田:PBLは、子どもたちがテーマに基づき、課題を定め、情報収集・議論・試行・発表までを“プロジェクト”として進める学び方です。黒板に向かう一方向の授業とは異なり、問いを立て、仲間と関わり、振り返るプロセスを重視します。文科省が掲げる「生きる力」の育成に直結するため、小学校でも導入が広がっています。
-なぜ今、それが必要とされているのでしょうか?
齋田:大量生産・大量消費の時代が終わり、正解が一つではない課題に向き合う場面が増えてきた時代。ビジネスの世界ではすでに当たり前ですが、学校でも「課題発見→解決」という力が求められるようになりました。戸田市はその流れをいち早く捉え、「戸田市型PBL」を教育政策に位置付けた先進自治体です。だからこそ今回の取り組みが生まれました。
-戸田市立美女木小学校と協働するに至った経緯は?
齋田:学校の空間は、この数十年ほとんど形が変わっていません。課題意識は共有されているものの、業界全体が動くには“効果が見える事例”が必要だと感じていました。そこで、先進自治体でモデルケースを作り、結果で示すのが近道だと考えたんです。教育長の方が登壇されていたセミナーでご挨拶し、市を訪問。「一緒にやらせてください」とこちらから提案したのが出発点でした。
空間もICTもフレキシブルに
インタビューに答える小川
-導入したソリューションを教えてください。
小川:可動式のテーブル、イス、間仕切りを採用することで、レイアウトを素早く切り替え、議論、制作、発表などPBLの多様な活動へ滑らかに移行できるようにしました。富士電機ITソリューションさんとも連携し、モニターなどICT機器もコードレスで移動可能に。配線に縛られず、画面を囲んで議論したり、壁際に退けて制作に集中したりと、授業の流れを止めない設えにしています。
齋田:PBLはテーマや活動が授業の単元ごとに大きく変わるため、1つの教室で多様な学びに対応できることが重要です。そこで自社家具商品「Any way」をベースに、空間を用途に合わせてその場で変形できる仕立てにしました。
-では、具体的にはどのようにPBL起点の空間をつくり上げていったのでしょうか?
齋田:教育委員会、現場の先生方とワークショップを重ね、「PBLの学びを支えるには、どんな活動場面が必要か」を徹底的に言語化しました。発表、調べ学習、制作、話し合いなど、列挙された“やりたいこと”を一つの教室で成り立たせる共通解を探っていきました。先生によっては授業のスタイルも違うので、そこを丁寧に束ねるプロセスには時間をかけました。
-これまでコクヨが手掛けてきた学校案件と比べて、もっとも異なる点はどこにありますか?
齋田:“納めて終わり”ではない点です。家具を納品後も、運用をしながら検証と改善を続けています。オフィスであればライブオフィスで長期検証ができますが、学校では難しかった。それを実際の授業の中で評価し、次につなげるところまで踏み込めたのが大きいですね。
見えてきた成果、「学習意欲が上がる」が8割
PBL授業を支える教室環境で学習する児童の様子
-運用を通して見えてきた成果を教えてください。
齋田:半年運用後、約300人の児童にアンケートを行った結果、約8割が「この教室で授業をするほうがやる気が出る・学習意欲が上がる」と回答しました。先生方の観察でも、自発的に授業に向かう姿勢が増えたという声が多く、数字と所感の両面で空間の効果を確認できました。
小川:先生方との定例会議でも、「靴を脱いで床座で学習」「ビーズクッションでくつろぎながら読書」など、従来の教室だと起こりにくい行動や自由な姿勢での学習が増えたと伺っています。子どもたちが自分に合った集中の仕方を主体的に選べているのかなと手応えを感じています。
-プロジェクトの今後の展望を聞かせください
齋田:GIGAスクールという構想で1人1台端末が広がった結果、固定型のPC教室が使われなくなっている自治体もあります。今回のような「動く教室」をPC教室の転用モデルとして検証し、エビデンスを整えて他自治体へ展開したいと考えています。
多様な学び方が当たり前の社会へ
―このプロジェクトを通じて、子どもたちのどんな「好奇心」を刺激したいですか?
齋田:環境が変わると人は変わります。いつもと違う場所や学び方の姿勢が、新しい気付きや「試してみたい」という気持ちが生まれるきっかけになっていると感じます。
小川:「知りたい」や「やってみたい」を自分で追いかける心を育てたいです。スマホで答えにすぐ辿り着ける時代だからこそ、「どう調べるか」「どう辿り着くか」を自分で考える力が大事だと思います。「探す・集める・試す」を後押しする道具と空間で、その背中を押せたらいいですね。
―最後に、このプロジェクトを通じて実現したい社会を教えてください!
小川:「授業中は座って静かに」だけが正解ではない社会です。立っているほうが集中できる子もいれば、動きながら考えたい子もいる。多様な学び方が当たり前になれば、これまで「だめだ」と言われてきた子も認められる社会になると思うんです。私はその変化を空間の力で後押ししたい。学ぶ場所や協働する場所の定義も、もっと広がっていくといいなと思っています。
齋田:学校の空間は50年近く変わっていませんが、社会と仕事のあり方は大きく変わりました。学校は20年後に社会で活躍する子どもたちを育てる場です。だからこそ、今のオフィスや働き方に近い環境にアップデートすべきだと考えています。今回の検証でPBL空間の価値を可視化し、これからも教室における“当たり前”を更新していきたいと思っています。