コクヨの技術を世界に伝える透明文具「TRANSPARENT MECHANISM」

コクヨの技術を世界に伝える透明文具「TRANSPARENT MECHANISM」

開発者の言葉を通して、コクヨが大切にする"体験デザイン"を紐解く本企画。「ハリナックス」や「ドットライナー」「ハコアケ」の人気文具を透明にし、内部の機構美を見せる新シリーズ「TRANSPARENT MECHANISM(トランスペアレント メカニズム)」をご紹介します。

単に従来品を透明にしただけではなく、ガラスライクな透明感を目指して、プラスチック樹脂に繊細な工夫を施しているといいます。社内の知見を結集した商品開発について、詳しく聞きました。

この記事は約8分で読めます

Profile

貴志百惠

貴志百惠

コクヨ株式会社 グローバルステーショナリー事業本部 商品開発部 ※企画当時はCXデザイン部

馬目亮

馬目亮

コクヨ株式会社 グローバルステーショナリー事業本部 ブランド戦略部 ※企画当時はCXデザイン部

トレンド研究から生まれた、革新的な商品プロジェクト

””

― 「TRANSPARENT MECHANISM」は、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか。

馬目:私と貴志が以前所属していたCXデザイン部は、商品をお客様にどう見せていくか、パッケージや販促物のビジュアルなどを考える部署でした。同時に、デザインや素材トレンドの研究も行っていて、その研究成果から商品をつくってみようというのが今回の取り組みです。通常、商品開発はお客様のニーズを起点にすることが多いのですが、今回はトレンドや素材研究という、いわばシーズの方から商品化がスタートした、かなり特殊なプロジェクトでした。

― ファッションだけでなく、文具にもトレンドがあるのですね。

馬目:世界的なトレンドセッターの流行発信によって色や素材の潮流が決まっていき、まずはファッションに取り入れられますが、文具もその流れの中にいます。ただ、アパレルから影響を受けてプロダクトがデザインされていくことが多いので、世の中で流行りきって常態化しているものになってしまいがちです。だからこそ先取りすることで、他社よりも一歩先にデザインを取り入れられるのではないかと考えていました。実際、「透明」は、ここ数十年で何度かブームを繰り返している長期的なトレンドで、今回はその波をリサーチを通してとらえていた形です。

― そこから、どのように商品開発へ具体化していったのでしょうか。

貴志:2年ほど前にいた部署では、デザインチームと技術チームが同じグループの傘下にありました。デザインチームはトレンド素材を調べてもなかなか商品化に結びつかず、技術チームも技術情報をインプットしても活かしきれない、という悩みをお互いに抱えていたんです。そこで、デザイン チームが見つけたトレンドを、技術 チームが「どう作れるか」を検証し、知識として社内に蓄積していけば、いずれ商品に落とし込めるのではないか、という取り組みを進めていました。その後、CXデザイン部に異動したタイミングで、店頭陳列や直営店での 知見や、「透明」という素材へのお客様ニーズが合わさり、今回の商品に結びついていきました。

― お客様のニーズは、どのように確認されたのですか。

貴志:直営店「KOKUYODOORS」などで、お客様へヒアリングを行いました。既存の商品は中身が見えない仕様になっているのですが、それと透明にしたプロトタイプを並べて、どちらが魅力的に見えるかを尋ねたところ、特に海外のお客様を中心に「透明の方が魅力的だ」という回答が多く得られたんです。

””

― 海外のお客様に支持されたのは、どうしてだと思いますか。

馬目:日本は文具の文化が独自に発展していて、機能性の高い細やかな道具があることが当たり前になっています。一方、海外の方にとっては、機能性が高く、しかも中の仕組みが見える文具自体がかなり珍しいものなんです。実際に店頭でヒアリングをしていても、「こういう機構が見えるものは海外ではあまり見ない」という声をいただきました。ちょうど会社としても、海外に向けてデザイン的にアイコニックな商品をもっと増やしていきたいという課題を抱えていたタイミングだったので、海外戦略という観点からも、この企画を後押しすることになりました。

― ネーミングにも、その狙いが表れているのでしょうか。

馬目:そうですね。実はこのプロジェクトが社内の企画として通った一番の理由も、このネーミングにあると思っています。単に「トレンドを取り入れて透明にしました」というだけでは、おそらく企画は通らなかった。「機構が見えることはデザインとして美しいし、コクヨの技術の蓄積を世界に伝えるメッセージになる」と言葉にできたことで、企画が前に進んだ実感があります。

“”

「ただ透明にする」のではなく、ガラスのような質感を目指して

― 開発を進めるうえで、最もこだわったポイントはどこですか。

貴志:高い透明度と、ガラスのような質感に見えるかどうかです。文具にはすでにクリアなボディの製品がありますが、それらとの差別化を図るためにも、単なる「透明」ではなく「ガラスライク」な見え方を目指しました。これが商品としての一番のこだわりであり、同時に技術的な難易度が最も高かった部分でもあります。

""

ガラスのような透明感

― 「ガラスのように見せる」というのは、具体的にどのような工夫なのでしょうか。

馬目:たとえば、ガラスは厚みのある部分が少し青みや緑みを帯びて見えることがありますよね。それを再現するために、本体の厚みがある箇所にわずかに色を入れています。透明な樹脂をそのまま使うだけでは、なかなかガラスらしさは出ません。微妙な色づけと透明度のバランスを追求することで、「ただ透明なだけ」ではない上質な印象を目指しました。

""

ノスタルジックかつモダンな色合い

― 動くパーツに色をつけているのも印象的です。

貴志:はい。「ハリナックス」で紙を綴じる瞬間に動くパーツなど、可動部にはアクセントカラーを入れています。透明なボディの中でその部分だけに色がついていることで、動く楽しさや、どこが機能しているのかが直感的に伝わるようにしました。

“”

― 普段見えない部分が見えるようになることで、ユーザーにどんな体験を届けたいと考えていましたか。

貴志:デジタル化が進み、自分が普段使っている道具がどういう仕組みで動いているのか、考える機会自体が少なくなっていると思います。スライドして紙を切る、紙を綴じる、そうした仕組みを透明化によって「発見」してもらうことで、道具を使うワクワク感や好奇心を感じてもらえたら嬉しいです。

馬目:実際に見本市などで動いているところをお見せすると、つい見入ってしまうという反応をいただくことが多く、その面白さは間違いなくあると感じています。

― パッケージや陳列にもこだわりがあったそうですね。

馬目:はい。今回はすべてのパッケージの横幅をそろえることにこだわりました。お店の陳列用什器はサイズが決まっているので、その規格を踏まえて、4種類が並んで収まるサイズに設計しています。また、紙パッケージを採用したのは、環境配慮の観点に加えて、海外では商品がむき出しで陳列されることへの規制が厳しい地域もあるためです。中身が見えてサイズもバラバラな方がクイックでラクなのですが、わざわざやっています。

そして、中身を覆う以上、写真の力で魅力を伝える必要があります。そのため、雑誌社の協力を得て商品写真を撮影しました。これも初のチャレンジでしたが、そういったことで売り方のノウハウを積み上げていきたいという取り組みでもありました。僕たちがCXデザイン部にいた意義でもあります。

“”

透明にするための技術には、想定外のトラブルも

“”

― 「透明にする」というのはシンプルな変更に思えますが、技術的にはどうだったのでしょうか。

貴志:見た目以上に大変でした。元の商品では、噛み合わせの良さや異音が起きにくいことを基準に素材が選ばれていたのですが、透明度の高い樹脂に変えると、その特性が変わってしまうことがあります。素材を変えるだけで、別のトラブルが発生してしまうんです。さらに、元々の商品では気にならなかった内部のパーツの質感や表面のわずかな濁りまで気になるようになり、磨きの工程からつくり直す必要が出てきました。

― 具体的にはどのような不具合があったのでしょうか。

馬目:たとえば「ドットライナー」では、樹脂を変えたことで本体の厚みが変わり、もともと簡単に取り外せるはずのパーツが固くなってしまうという問題が起きました。また、パーツによって透明度の中にもわずかな黄みや青みのブレが出てしまうこともあり、こちらは正直、完全には解決しきれていない部分ではあります。色も噛み合わせも、想定していた以上に多くの調整が必要でした。

― 「ハコアケ」は特に苦労されたとか。

貴志:はい。「ハコアケ」は元々表面がざらざらとした加工だったのですが、そのまま透明化すると、すりガラスのように白く濁って見えてしまうことがわかりました。そこで金型を変えて磨きをかけ直しています。さらに、成形時にできるピン跡 が、もともと本体の真ん中に大きく残る仕様だったのですが、透明になるとそれが目立ってしまう。技術担当の方が、目立ちにくい端の位置に、形状も丸から長方形に変えて配置し直してくれました。これは金型から作り直す必要があった大きな変更点です。

""

樹脂リングに施されたアクセントカラー

― パッケージの説明書きにも新しい取り組みがあるとか。

馬目・貴志 :そうです。お話しした通り、グローバル展開を見込んでいたので、説明書きを多言語対応するのですが、そうすると文字量がどんどん増えてしまう。それを避けるために、文字を可能な限り減らし、イラストだけで使い方が伝わるようにしました。こうした「あえて手厚く説明しない」やり方は社内でもほとんど前例がなく、特に品質保証部の方には戸惑いがあったと思います。ただ、実際に仕上がりを見てもらったところ「この見せ方を他の商品にも転用したい」と、品質保証部側からお声がけいただくほどでした。

""

― プロジェクトを進めながら、社内の理解を得た感じでしょうか。

貴志:最初は、私たちCXデザイン部から「これを実装してほしい」とお願いする形でした。技術や開発の担当者からすると、戸惑いもあったと思います。ただ、プロセスが進むにつれて、技術側から「こうすればもっと透明度が高まるのではないか」「もっと美しく見せられるのではないか」という提案をいただく機会が増えていきました。最初は一方通行だったやりとりが、双方からの提案に変わっていったことで、メンバー全員のモチベーションが高い状態でものづくりを進められたと感じています。

道具の仕組みを見せることで、使う人の好奇心を刺激したい

""

― このプロジェクトは、貴志さんにとってどんな存在になりましたか。

貴志:私がちょうど入社3年目になったタイミングで始まったプロジェクトなのですが、それまでなかった社内のつながりが一気に広がったことが一番の収穫だったと感じています。開発、技術、プロモーション、それぞれの立場の人がみんな「良いものを作りたい」「ユーザーに届けたい」という同じ熱量を持っていることを、ものづくりを通じて実感できた期間でした。

― 馬目さんはいかがですか。

馬目:私も近い感覚があります。もともとバラバラに存在していたものが、うまくつながって一つの形になった案件だなと感じています。貴志がトレンド研究をしていたこと、私が商品企画の経験を持っていたこと、当時の上司が海外戦略を担当していたこと。それぞれ単体では商品にならなかったかもしれないパーツが、たまたま同じタイミングで重なって、うまくまとまっていった。きっと社内には、こうした形になりきれていない知見やアイデアがまだたくさんあるはずで、それらがうまく結びつけば、また新しい商品が生まれるかもしれない。そのことに気づけたのは、この案件をやってよかったことの一つです。

― 「ものづくり」への向き合い方として、新しく挑戦したことも多かったですね。

馬目:パッケージのつくり方もそうですし、商品を並べる什器を化粧品向けのものを作っているメーカーに依頼したり、3D動画の制作も初めてのことでした。商品をより魅力的に見せるための取り組みに、いろいろと挑戦できた案件でした。通常の商品開発のルーチンに乗っていない案件だったからこそ、思い切って挑戦できた部分だと思います。それを後押ししてくれる上司がいたことも、商品を世に出せた大きな要因だったと感じています。

「TRANSPARENT MECHANISM ハリナックス 3D動画」

― 今の文具市場を踏まえて、今後の「ものづくり」についてはどう考えていますか。

馬目:今の時代、安さや便利さという観点では、100円ショップなどと差をつけるのがどんどん難しくなっていると感じます。だからこそ、便利・機能というだけではない軸、デザインや見せ方、コミュニケーションといった部分で、お客様に「良い」と思っていただける戦い方を考えていく必要があると思っています。今回のプロジェクトは、その一歩を進められたと感じていますし、今後も続けていきたいです。

貴志:私も、新しい素材や新しいトレンドを起点に、企画からプロモーションまでさまざまな立場の人が一つのチームになってものづくりに挑戦していくという今回のような進め方を、これからのシリーズや別の商品でも続けていけたらと思っています。

― 最後に、ユーザーへのメッセージをお願いします。

貴志:すでに「ハリナックス」や「ドットライナー」をお使いの方にも、ぜひ手に取って見比べていただきたいです。既存品の中にも透明なタイプはありますが、今回のシリーズはそれよりも高い透明度と、樹脂の色味の違いにもこだわっています。見比べることで感じられる違いも含めて、新しくお使いいただく方にも、すでにファンでいてくださる方にも楽しんでいただけたらと思います。

馬目:今回は単に透明度が高いだけでなく、ガラスのような質感を目指してつくっています。厚みのある部分にわずかな色を入れることで、ガラスのような見え方を再現しているので、ぜひ手に取って、どんなところがそう見えるのか観察してみていただけたら嬉しいです。普段何気なく使っている道具の中に、こんな仕組みが隠れていたんだという発見が、皆さんの好奇心につながってくれたらと思います。

""