HOWS DESIGN

Vol.42 EVENT REPORT

「知らないから会いに行く、壁をなくす」
障がいのある社員とのリアル対話イベントレポート

掲載日 2026.06.10

ALTはじまり。イベントの様子の一部。登壇者が参加者の質問に笑顔で応えている。登壇者の後ろには壁一面に埋め込まれている白い棚があり、天井はやや高めで、全体的に白と木目調の家具で揃えられ、清潔感とナチュラルさのある色味が印象的な空間になっている。ALTおわり。

2026年3月9日、コクヨ品川オフィスにて、社員向けイベント「知らないから、会いに行く。〜壁をなくす、当事者とのリアル・ダイアログ〜」が開催されました。
このイベントは、障がい者インクルージョンに対する理解浸透を目的に、社内の障がい当事者の多くが所属する特例子会社コクヨKハート社員とのより深い対話の機会として実施されたものです。所属部署に在籍したまま業務時間の20%を使って他部署の業務に挑戦できる社内複業制度「20%チャレンジ」に参加した社員が企画立案。障がい当事者2名によるトークセッションと、参加者との対話的な質疑応答、そして発達障がいのあるメンバーが自分のチームに来た際にどのように対応をするかを考えるワークショップが行われました。
本記事では、障がい当事者を「特別な人」としてではなく「1人の人として知る」場となった様子を、企画メンバーの想いとあわせてお届けします

障がいのある社員と一緒に働く世界がこれから当たり前になっていく

オープニングの挨拶として、コクヨKハート株式会社 代表取締役社長 前田 智行(まえだともゆき)さんがコクヨの障がい者雇用の歴史や想いについて語りました。

「コクヨの障がい者雇用は1940年に始まり、今では清掃やCAD、事務など幅広い現場で多くの仲間が活躍しています。
今は約10人に1人が障がいがあると言われる時代です。誰もが自分と向き合い、社会で働こうと一歩踏み出すのが当たり前になりつつあります。私たちの職場や、商品をお届けするお客様の中にも、障がいのある方がいらっしゃるのは当然のことです。
だからこそ、今日こういった機会にみなさんが積極的に参加してくださり、障がい者のみなさんがどういう形で働いているのかということや、その想いを直接関わり合いながら知っていただける機会は本当に大切だと思っています」

ALTはじまり。参加者の前に立ち、黒いジャケットに白いハイネックを着た前田さんが真剣な面持ちでこのイベントについて説明をしているところ。フレームの細いメガネを着用している。ALTおわり。

コクヨKハート株式会社 代表取締役社長 前田 智行さん

次に、20%チャレンジメンバーが主体となって企画・制作した、インクルージョンがテーマの動画を上映。コクヨKハートメンバーの日々の業務風景や、 Kハートメンバーからのメッセージが明るく爽やかな音楽と共に流れます。「何かしら見えない壁みたいなものがお互いに隔たりを作ってしまっている」「配慮される側だけではなく配慮する側にもならないといけない」という言葉が印象的な動画に、参加者たちは真剣に見入っていました。

ALTはじまり。動画上映の様子。コクヨKハートの社員が出演している動画が、会場にあるモニターに投影されている。イベント参加者たちはモニターの方を向いてしっかりと視聴している。ALTおわり。

動画のあと、コクヨHR戦略推進部 小木 美佳さんがイベントの趣旨を説明しました。

「私たちは同じコクヨの仲間として働いていますが、隣に座る人が何に困り、どんな壁を感じているのか、案外知らないのが現実ではないでしょうか。今日のテーマは『知らないから、会いに行く。〜壁をなくす、当事者とのリアル・ダイアログ〜 』です。私たちが壊したいのは物理的な壁ではなく、お互いを知らないことから生まれる『心の距離』という見えない壁です」

このイベントで大切にしたいのは、正解を出すことではなく「対話」をすることだと語った小木さん。障がいや働く環境について何が正しいかは人それぞれであるという前提のもとで「共に働くとはどういうことか」を考えていく場としてイベントが始まりました。

ALTはじまり。小木さんが笑顔でイベントの趣旨について話をしている姿。肩に触れる程度のボブヘアーに淡いグレーの服を着て、会場で立ったままマイクを手に説明している。ALTおわり。

コクヨHR推進部 小木 美佳さん

オープンにすることで、自分の障がいについて正しく理解をしてもらう

イベントのメインプログラムであるトークセッション。ダイジェスト動画にも出演されていたコクヨKハートBPO統括部の田中 唱太さんからは発達障がいの当事者としての「壁」の体験が語られました。

「私は仕事への集中が難しい部分があり、デスクの両側に『パーティション』を立てて集中できる環境を作っています。自分で壁を作っているという意識はあまりなかったのですが、そうして作業に没頭していると、周りの方から『後ろから声をかけづらい』と言われることもあり、集中しすぎてしまうことが、結果的に周囲との『壁』になってしまうこともあるのかなと感じています」

ALTはじまり。前髪を上げておでこを出すようなヘアスタイルで、白い襟付きシャツを着ている登壇者の田中さん。座りながら柔らかい表情でマイクを持って話している。ALTおわり。

コクヨKハート 田中 唱太さん

精神障がい(うつ病)の当事者でもあるコクヨHR戦略推進部の太田 順基(おおたよしき)さんからは「目に見えない病状との向き合い方や、周囲との関わりで生まれる壁」についてのお話がありました。

「うつ病になった当初は、周りの人が『病気だから外に出られないかも』と気をつかって、遊びの誘いなどがかなり減ってしまった時期がありました。逆に体調が優れないときはどうしても人と関わるのが億劫になり、自分から話しかけたり外出したりすることが減って、自ら距離を置いてしまうことがあるんです。なのでお互いに関わりやすくするために、うつ病であることや障害者手帳*を持っていることを周りにもオープンにし、私自身のうつ病の症状について正しく伝えるように心がけています」

ALTはじまり。登壇者の太田さんがマイクを手に話をしている。短く整えられた黒髪に黒いシャツを着てメガネをかけている。太田さんの手前には、田中さんや司会の小木さんの姿も写っている。ALTおわり。

HR戦略推進部 太田 順基さん

特例子会社で実感した「配慮される側であり、配慮する側でもある」ということ

司会の1人で20%チャレンジメンバーの株式会社カウネット 営業本部 野口 しほりさんからは、動画内で田中さんが語った「自分自身も配慮する側にならないといけない」という言葉をテーマに話が進められました。

ALT:ALTはじまり。白いセーターを着て、白で合わせたヘアアクセサリーを使い長い髪を高い位置でひとつに結んでいる野口さん。ディスプレイの横で、座りながらマイクを持って登壇者に質問をしている。ALTおわり。

カウネット野口 しほりさん

田中さんは特例子会社である K ハートに入社したことで、配慮に対する考え方が大きく変わったと振り返ります。

「自分が障がい者として入ったからといって、一方的に配慮してもらうだけの側になるかというとそうではなく、自分もその場所の一員として他のメンバーたちに同じレベルの配慮をしていかないといけないんだなということを実感しました。例えば、メモを取るのに時間がかかる人がいればゆっくり待つとか、メモをとっていても忘れてしまう方には『〇〇時からこの仕事ですけれども大丈夫ですか?』って声をかけるとか、そうした一人ひとりにあわせた配慮を行っています」
太田さんも同様に、前職の特例子会社での経験を通じて「配慮の相互性」について深く学んだと語ります。

「自分もコクヨに入る前は別の特例子会社で障がいがある方々と働いていました。最初はお互いに『配慮してもらう側』という感覚だったと思いますが、入社して2年、3年と経って後輩を指導する立場に変わる中で、『一言一句すべてメモを取らせてください』という方がいたりして、人それぞれに必要な配慮が違うことを実感する機会が多くありました。
そうした経験を通じて、いつの間にか自分も配慮する側としての視点を持つようになり、相手に合わせた関わり方を強く意識して働くようになったんです」

ALTはじまり。会場全体の様子。広々としたスペースの奥には白で統一された棚が並んでいる。その手前にベンチタイプのソファが1列並び、その手前に設置された椅子に登壇者の2人が腰掛けている。さらに手前に、参加者が20名ほど、明るいナチュラルなベージュ色で揃えられたテーブルと椅子のスペースに腰掛けている。参加者の年齢、性別は様々で、話をする田中さんの姿に視線を向けている。ALTおわり。

その後、自身の特性に気づいたきっかけや、障がいと向き合うことになったエピソード、さらにはお2人とも経験のある「睡眠薬の飲み間違いによる遅刻」など、普段なら聞くのをためらってしまうような繊細な話題にも時折ユーモアを交えながら、トークは軽やかに進んでいきました。

配慮とわがままの境目は「よく話し合うこと」で見極めるに尽きる

ALTはじまり。登壇者の田中さんと太田さんが、お互いマイクを持って目線を交わしながら笑顔で話をしている様子。ALTおわり。

その中で一人の参加者から「障がいや病気のある方と共に働く上で、職場の人や会社はどう関わることが大切だと思いますか?」という質問が挙がりました。
「『症状だけを持った人』ではなく 『その人自身』を知ろうとしてほしいという気持ちは当然あります。症状に紐づいた特別扱いよりも、まずは一人の人間として接してもらうことが、自然に働ける環境につながると思っています。そもそも、特性や障がいに関するすべての症状に細かく配慮してもらうのは難しいと思っています。事前に伝えてあることには対応できても、その日の急な不調すべてをカバーするのは現実的ではありません。 ただ、日常的に特定の症状がない人にでも通用する『全体的な配慮』は考えられると思います。例えば、みんなの前で大声を上げて叱責しないとか、失敗を過剰に責め立てないとか。そういった誰にでも必要な配慮がまず土台にあって、その上で、事前に話を通している範囲での症状に対する個別対応がある。そのような形が理想的かなと思います」と田中さん。

太田さんも 「『うつ病の太田さん』ではなく、『うつ病という特性も持つ太田さん』として関わってもらえると距離が縮まりやすいと感じます。病気の部分だけに注目して丁寧にされすぎると、かえって子ども扱いされているような違和感を覚えることもあります。
一番難しいのは『配慮とわがままの境目』だと思います。どこからが配慮で、どこからがわがままなのか。正直、本人にも会社にもよく分からない部分があって、 結局は最後はよく話し合うことに尽きると思うんです。その人の性格や得意なことを含めた『人となり』を知った上で、これは配慮、これは注意すべきこと、と分けていく。 障がいがあると遠慮して注意されないこともありますが、仕事は仕事なのでダメなことは『普通』に注意してほしいです。例えば遅刻の連絡をするといった社会人として当たり前のマナーは、障がいがあろうとなかろうとちゃんと注意すべきことだと思います。」と語ります。

ALTはじまり。参加者が、登壇者である田中さんと太田さんに向かって質問をしている様子。参加者たちはテーブル上にパソコンやノートを開き、メモをとっている。ALTおわり。

障がい者雇用の現場では、当事者は「配慮される側」という一方向的な視点で語られることが多くあります。しかし田中さんと太田さんの言葉から浮かび上がってきたのは、「特定の特性や症状への配慮」を特別視するのではなく、誰もが働きやすくなる「当たり前の心づかい」を土台に据え、個別の困りごとは対話を通じて解決していくことの大切さ。そして、障がいの有無に関わらず一人の仕事人として「人となり」を理解しあい、特別視をせずに意見を交わす対等な関係性の重要性でした。

誰にとっても嬉しい配慮がインクルーシブな働き方の本質

イベントの後半は「発達障がいのあるメンバーAさんが自分のチームに異動してきたら」という設定で、共に働くためにできる工夫や配慮はどうあるべきかについて考えるワークショップが行われました。

ALTはじまり。ワークショップの様子。グループごとのテーブルに分かれ、付箋を使いながらグループメンバーで議論をしている様子。真剣ながらも柔らかな表情が見える。ALTおわり。

多くのグループで共通していたのは、「配慮の押し付け」を避けるための丁寧な対話が必要と考えていた点です。参加者からは「これが配慮だと決めつけて押し付けるのではなく、本人と話し合いながら『何が得意で何が不得意か』を一緒に探っていくことが大切だと思った」という声が。本人の特性をチームで共有し、何が苦手で何が得意かを一緒に探りながら業務を切り出す重要性が語られました。具体的には、高い集中力を活かせる「資料の最終チェック」や「データ収集」を得意領域として担ってもらう一方で、マルチタスクを避け、タスクの優先順位を可視化するといったアイデアが出ました。

ALTはじまり。ピンクと青のポストイットに配慮のアイデアや視点を書いて並べているところ。打ち合わせ時間の固定化や、休憩時間を先に予定して設けておくなどのコメントが書かれている。ALTおわり。

印象的だったのは「Aさんへの配慮は、誰にとっても嬉しい配慮である」という発見です。指示を言葉で明確にする、空気を読むことを強いないといった工夫は、障がいの有無に関わらずチーム全体の働きやすさに直結します。ある参加者は「『これって自分も配慮されたら嬉しいよね』というアイデアも多くて、障がいがあるからというわけではなく、普段から誰に対してもやるべきことなんだと気づかされた」と振り返りました。

特別視するのではなく、一人ひとりの強みを伸ばし、苦手を補い合える環境づくりこそが「共に働く」ことの本質である、という気づきが会場全体でシェアされました。

ALTはじまり。ワークショップでの気づきやアイデアを、参加者が会場全体に発表している様子。着席したまま、マイクを手に発表している。ALTおわり。

身近にある「10人に1人」の違い。多様性を当たり前のものとして捉える未来へ

最後はCSV本部 サステナビリティ推進室 理事 井田 幸男(いだ ゆきお)さんからのメッセージで締めくくられました。

「今日は障がいという視点で学びましたが、これは広く捉えれば『多様性』そのものです。障害者手帳をお持ちの方が10人に1人というお話がありましたが、実はLGBTQの方も、日本の名字トップ5(佐藤・鈴木・高橋・田中・渡辺)の方々も、そして私のような左利きの人も、みんな人口の約10%弱。つまり、『10人に1人』という違いは、世の中に普通にあることなんです。
こうした違いを当たり前のこととして理解しながら共に働く、これは障がいに限らず私たちがこれから取り組んでいくべき大切なテーマだと思っています」

ALTはじまり。彩度の低い水色のシャツを着て、今日のイベントの参加者にメッセージを送る井田さんの姿。会場の清潔感のある柔らかな光や観葉植物と一緒に、活き活きとした表情で話している。ALTおわり。

サステナビリティ推進室井田 幸男さん

「これからのコクヨは、特例子会社だけでなく皆さんの部署にも当たり前に障害者手帳を持つ仲間がいる状態を作っていきたいと考えています。近いうちに『新しい働き方に挑戦したい部門』を募集するかもしれません。そのときはぜひ、この新しい一歩を一緒に手伝ってほしいです。今回は品川と梅田で開催しましたが、多くの職場でも挑戦をしていきたいと思ってます。 」

ALTはじまり。会議室の前方で3人が登壇している。左からジャケットを着用の田中さん、白いシャツの前田さん、チャコールグレーのシャツの太田さん。聴講する社員の後姿も。ALTおわり。

梅田会場の様子 田中さん、太田さんに加えて、Kハート前田 広樹さんも参加

「知らない」を「知っている」に変え、心の境界線を溶かしていく

ALTはじまり。こちらに目線を向け笑顔で写真撮影に応じる企画メンバーの小木さんと野口さん。イベント中は司会も担当していた2人は、屋外にある白い円テーブルを囲み、白い椅子に腰掛けている。ALTおわり。

イベントが終わって、企画メンバーの小木さん(コクヨHR戦略推進部)と野口さん(カウネット営業本部)にお話を聞きました。「まずは当事者を一人の人として知ってほしい」という自分たちの想いは参加者に届いた、という手応えがあったようです。

小木さんは「イベントを通じて、自分の中にあったコクヨとKハートを分ける心理的な『線』が消えていくのを感じた」と語り、この「線が消える感覚」こそが、みなさんと共有したかった体験であると振り返ります。また野口さんは「『これって自分も配慮されたら嬉しいよね』という気づきが参加者から自然と上がったのが印象的でした」と、障がいを特別視せずに自分自身の働きやすさにも通じる「みんな一緒」という感覚が共有できたことを成果として挙げました 。

当初、このイベントは合理的配慮や特性を学ぶ「研修型」のコンテンツとしての実施も検討されていました。しかし、当事者へのヒアリングを重ねる中で「知識として学ぶよりも、まずは目の前にいる一人の仲間を知ることが、インクルージョンの第一歩だ」と気づき、知識よりもまずは関わりを生み出すための対話型の企画へと大きく舵を切りました。
一方で、実施を通して見えてきた課題もあります。今回は1時間という限られた枠内で実施しましたが「議論や対話を深掘りするには時間が足りない」という声も寄せられました 。
今回のイベントはインクルージョンの「入口」であり、さらに踏み込んで学べるプログラムやマネジメント層への研修などに発展していくことが目標だと語る2人。野口さんからは、「インクルージョンの浸透には、制度的な後押しや、全社を巻き込むような仕掛けも必要かもしれない」という意見も挙げられました。

誰もが自分らしく挑戦できる環境づくりのきっかけとして

小さな交流を積み重ねることで「特定の人や症状への配慮」が「みんなが働きやすくなる当たり前の心づかい」へと昇華し、誰もが自分らしく挑戦できるインクルーシブな環境を創り上げていく……今回のイベントをきっかけにそんな新しい働き方への挑戦はさらに前進していきます。

*コクヨでは「障がい」の表記に統一していますが、「障害者手帳」は制度上の正式名称を使用しています。

取材日:2026.03.09
インタビュー:逍遥学派
執筆:逍遥学派
撮影:逍遥学派
編集・校正:中西 須瑞化、HOWS DESIGNチーム

シェアする

  • X
  • facebook

    取り組み一覧へ

    もどる