人的資本経営とは?担当者が知っておきたい基礎知識と、推進・実践の具体的なポイントを解説

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」。なぜ今急速に注目を集めているのでしょうか?従来の「人材管理」との違いや導入のメリット、具体的に企業が取り組むべきステップを分かりやすく解説します。

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目次(読了時間:約5分)
「人的資本経営」という言葉をビジネスの場で耳にする機会が増えてきました。

日本政府の強力な後押しもあり、企業価値向上につながる取り組みとして大きな注目を集めている人的資本経営。しかし、導入や推進の際にさまざまな壁にぶつかり、悩んでいる経営者や担当者も多いのが現状です。

そこでこの記事では、人的資本経営に関する基礎知識や、企業が取り組むメリット、取り組みの進め方と課題の解決方法等を、分かりやすく解説していきます。

1.人的資本経営とは?

人的資本経営とは、企業で働く「人」を、経営の根幹に位置づけられる「無形資産」としてとらえ、継続的な企業価値向上につなげていく考え方です。

日本では、2020年に経済産業省が発表した「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート)」をきっかけに、浸透が進みました。以下、人的資本経営の概要をご紹介します。

人的資本経営の定義

人的資本経営について、経済産業省は以下のように定義しています。

人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html

日本の伝統的な雇用慣行において、 人材は、既に持っているものを使う・消費する「人的資源(Human Resource)」と考えるのが主流でした。しかし、人材を「人的資本(Human Capital)」として捉えると、人材は状況に応じて必要なだけ確保し、投資によって価値創造が可能な「資本」に変化します。

人的資本経営を実現するためには、「資源である人材を管理する」という従来の発想から、「資本である人材(人的資本)に投資し、人材の活用と成長を通じて企業価値の向上につなげる」という発想への転換が必要です。そのためには、個人と組織の関係性や、採用のあり方など、経営のさまざまな側面で変革が必要です。詳しくは、下の図を参考にしてください。

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人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)より引用「図表1 変革の方向性 」

注目されている背景

人的資本経営を政府が後押しし、産業界の注目が集まっている背景にあるのは、日本企業をとりまく経営環境の急速な変化と、国際競争力の低迷です。

経営環境変化の要因としては、生成AIやなどのデジタル技術がもたらす社会と産業構造の大きな変化(第4次産業革命)のほか、少子高齢化による生産年齢人口の減少と人材獲得競争の激化や、コロナ禍を契機とした個人の働き方やキャリア観の変化などが挙げられます。

また、国際競争力低迷の要因には上記のほかに、企業価値における無形資産の重視やESG投資の拡大といった海外投資家の動向に対して、日本企業の対応が遅れをとっていることが挙げられます。

これらの状況に対応するには、企業のビジネスモデルや経営戦略の変革と人材戦略の見直しを同時に進め、経営戦略上必要な人材の確保や育成、イノベーション創出に必要な環境整備などを行う必要があります。こういった変革を社会全体で促進するために、政府が旗振り役となって、関連する法やルールの整備、情報発信などを行っているのです。

人的資本経営に関する政府の動き

では、日本政府は、いつから国が人的資本経営に力を入れ始めたのでしょうか。

2013年頃から経済産業省では継続的に企業経営者、投資家、研究者らとの対話を続け、日本企業の国際競争力向上に向けた提言を行ってきました。その後、2020年1月から開催された「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の最終報告として「人材版伊藤レポート」が発表され、「人的資本経営」という考え方が広まりました。

2021年7月からは「人的資本経営の実現に向けた検討会」が開催され、その成果として2022年5月に実践事例集と併せて「人材版伊藤レポート2.0」を発表。また、同年、「人的資本可視化指針」(2026年に改定)が公表され、2023年3月期からは大手企業約4,000社を対象に、有価証券報告書で人的資本の開示が義務化されるなど、取り組みが進んできています。

現在は、2022年に設立された人的資本経営コンソーシアムを中心に、好事例の共有や企業間協力に向けた議論などの取り組みが継続的に行われています。

2.企業が人的資本経営に取り組むメリット

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人的資本経営に取り組み、無形資産の可視化を行うことで、企業はグローバル市場において投資家からの正当な評価を得やすくなります。そのほかに、企業が人的資本経営の導入によって得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

優秀な人材の確保と定着

研修などの社員教育や、オフィス環境などの労働環境整備といった人的資本への投資は、より良い従業員体験を生み出し、自己成長の実感や組織へのエンゲージメント向上につながります。

また、無形資産としての人的資本の現状や、投資の内容、社員の声などを対外的に発信することで、「人を大切にする会社」という外部からの評価や、求職者からの信頼、ひいては企業イメージの向上といった効果も期待できます。

結果として、採用市場における競争優位や、社員の離職防止にプラスになることは、大きなメリットといえるでしょう。

労働生産性の向上

人的資本への投資は、従業員の満足度を高め、労働生産を高めます。人的資本への投資額や人的資本経営の質と労働生産性には正の相関関係があることが、これまでさまざまな調査から明らかになっています。具体的なデータについては、関連記事をご覧ください。

関連記事:
人的資本投資の視点から場の価値を考える〈前編〉 「人的資本投資」の現状と課題

持続的な企業価値向上

企業にとって、人的資本経営に取り組む最大のメリットは、価値の源泉となる人的資本の強化による持続的な企業価値の向上です。

人的資本に関する情報開示を行うためには、企業の経営戦略や目指すビジネスモデルに人材戦略を適合させたうえで、人事データの定量化や可視化に取り組む必要があります。それによってより客観的・合理的な人材マネジメントが可能になり、経営資源の適切な活用につなげることができます。

3.人的資本経営の推進と実践のステップ

次に、人的資本経営を推進・実践していくための具体的なステップを見ていきましょう。

経営課題や目指す将来像、人材戦略は企業によってさまざまです。しかし、人的資本経営を進めるために必要な視点や、重要な要素には共通点があります。人材版伊藤レポートでは、それらを「3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)」として、以下のようにまとめています。

3つの視点(Perspective)
・視点① 経営戦略と人材戦略の連動
・視点② As is - To beギャップの定量把握
・視点③ 企業文化への定着

5つの共通要素(Common Factors)
・要素① 動的な人材ポートフォリオ
・要素② 知・経験のD&I
・要素③ リスキル・学びなおし(デジタル、創造性等)
・要素④ 従業員エンゲージメント
・要素⑤ 時間や場所にとらわれない働き方

これらを参考に、人的資本経営の推進・実践の流れを4つのステップに分けて解説します。

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人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)より引用「図表1 0 人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル) 」

ステップ① 経営戦略と人材戦略を連動させる

まずは、人材戦略を経営戦略と一体のものとして変革する必要があります。

CEOをはじめとする経営トップが連携して、企業の理念やパーパスに沿った経営戦略・目標を立てた上で、目標達成に資する人材戦略についての議論を深めていきましょう。

ステップ② 目指す姿と現状とのギャップを把握し、KPIを立てる

人的資本経営を進めるためには、目指す将来像と目標が必要です。経営戦略上必要な人材ポートフォリオと比べて現状がどうなっているのか調査し、目指す状態とのギャップを明らかにしたうえで、定量的なKPIを設定しましょう。

どのような人材をいつまでに何人、どのように確保するのか、そのための方法や投資額も具体的に描いていきます。

ステップ③ ギャップを埋めるための施策や、情報開示を実践する

目指す姿や目標が明らかになったら、人材戦略の策定・実行を行うための体制づくりを行います。人材戦略の策定・実行はCHROがリードし、経営トップとの連携、取締役会の監督・モニタリングのもと進めていきます。

人材戦略には、上に挙げた「5つの共通要素」に加えて、自社の経営戦略に必要な要素を組み込んでいきます。また、戦略を推進・実践する際には、従業員や投資家に対して経営陣からの積極的な情報発信や対話が求められます。

ステップ④ 効果検証・改善を繰り返し、企業文化への定着をはかる

人材戦略の実行フェーズに入ったら、定期的にKPIの把握と評価、開示を行います。人的資本への投資の効果として得られたリターンについて検証し、施策の改善につなげ、PDCAサイクルを回していきます。

目指すべきゴールは、継続的な取り組みを通じて人的資本経営が企業文化として定着することです。そのためには、目指す企業文化を見据えて人材戦略の策定やKPIの設定を実施することが大切です。

4.人的資本経営推進の「3つの壁」と解決方法

企業が人的資本経営に取り組む際、さまざまな課題にぶつかり、停滞してしまうことがあります。ここでは、典型的な3つの壁とそれらの解決方法、コクヨが提供するソリューションをご紹介します。

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①可視化の壁:自社の現状を客観的に数値化・データ化する方法が分からない

人的資本に関する社内の現状を可視化する際にまずぶつかるのが、従業員エンゲージメントなど、数量で把握しづらい組織の現状をいかに可視化するかということです。

社員インタビューやアンケート、パルスサーベイなどを実施するのが一般的ですが、適切な調査設計・分析ができなければ、現状を正しく把握することはできません。社内での対応が難しい場合は、専門の外部コンサルタントに依頼するのがおすすめです。

コクヨでは、「働き方のデザイン」という視点から、社内の現状についての可視化・分析、働き方変革に向けたコンサルティングなどをご提供しています。

関連サービス:
働き方デザイン

②形骸化の壁:開示対応が目的化し、現場の社員意識やカルチャー変革が伴わない

人的資本経営への取り組みが「情報開示義務への対応」中心になってしまうと、現場の社員の意識は何も変わらず、やがて取り組み自体が形骸化してしまう場合があります。

人的資本経営が目指すのは企業価値の継続的な向上であり、そのためには人的資本経営を企業文化として定着させる必要があります。目指す企業文化をあらかじめ定義して経営戦略や人材戦略に組み込み、社内に対してCEOやCHROから積極的なコミュニケーションを行いましょう。

企業文化の変革や醸成については、こちらのページも参考にしてください。

関連ページ:
企業カルチャーとは?変革や浸透・醸成のヒントを紹介【事例あり】

③環境づくりの壁:個人や組織の活性化につながる環境整備の手法が分からない

個人や組織の活性化に向けて、自律的な働き方やウェルビーイングへの投資を行いたいが、具体的にどのような制度や空間を整備し、どう運用したらいいか分からない。というのもよくある担当者の悩みです。

まずは、経営戦略や人材戦略を通じて目指す企業文化を明確にし、その実現に必要な環境(制度や空間)を定義しましょう。その上で、現場の社員を巻き込み、必要に応じて社外の専門家も起用しながら制度設計や空間整備のプロジェクトを進めていくことをおすすめします。

コクヨでは、経営や社員を巻き込んだプロジェクトのマネジメントや、目指す組織の将来像に合わせた空間構築、環境を最大限に生かすための制度設計など、さまざまなソリューションで、人的資本経営の促進をお手伝いしています。

関連ページ:
ソリューション

5.企業文化への定着は「環境づくり」がカギ

人的資本経営によって企業価値を高めていくためには、情報開示や研修などの制度や仕組みを整備するだけでは不十分です。人的資本経営を通じて個人と組織を活性化させるためには、人的資本経営を企業文化として定着させていくことが欠かせません。

大切なのは、働く場での体験を通じて社員が「この会社には人を大切にする文化がある」を実感できること。そこでカギとなるのは、社員の柔軟な働き方やウェルビーイングにつながる制度や、快適なオフィスといった環境の整備です。

コクヨでは、企業のオフィス空間構築や働き方変革のサポートを行っています。人的資本経営の推進にお悩みの方は、ぜひご相談ください。

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