Vol.43 CASE
「集中していても話しかけやすい」の秘訣は天板の形!電動昇降デスク「アセンド」に台形テーブルがある理由
掲載日 2026.07.31
コクヨの家具では初めて聴覚障がい者の課題にも対応した昇降デスク「アセンド」が発売開始となりました。コクヨで障がい者雇用が始まった1940年当初、聴覚障がい者を多く受け入れた歴史があることから、今でもコクヨでは多くの聴覚障がい者が一緒に働いています。そうした仲間の「話しかけられていると気づかず、急に肩を叩かれてビックリする」というバリアに対し、「アセンド」台形テーブルの「集中できて、人とコミュニケーションも取りやすい」という機能が役に立つんです。どのようなプロセスで「アセンド」が生まれたのか、開発チームに話を聞きました。
Interviewee
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小松原 健太郎 (こまつばら けんたろう)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 商品戦略部
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羽場 梢 (はば こずえ)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 商品戦略部
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櫻井 真生 (さくらい まみ)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 カスタマイズセンター
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江頭 正和 (えがしら まさかず)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり生産本部 三重工場
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佐々木 誉士 (ささき たかし)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター
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花田 卓 (はなだ たく)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 ワークステーション開発部
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
電動昇降デスク Ascend (アセンド)
洗練されたデザインと使い心地で、集中から交流まで、さまざまなワークシーンに寄り添う昇降デスクです。体格や作業内容に合わせて、天板を最適な高さに調整可能。立ち姿勢を取り入れることで、作業効率とリフレッシュを両立し、体に優しい働き方をサポートします。また、個人作業をしながらもコミュニケーションをとりやすいラインアップを揃えています。
「集中できてコミュニケーションも取りやすい」昇降デスクをめざして
――「アセンド」はどんなコンセプトで開発をスタートしたのでしょうか
小松原:電動昇降デスクをもうすこし導入しやすい価格帯でより使いやすいものにすることをめざして開発に着手しました。最初からインクルーシブデザインを取り入れることは前提で、デスクで問題になりやすいコンセントのアクセスのしやすさを検証することは予定していました。
昇降デスクは立ったり座ったり姿勢を変えながら長時間の作業に対応できることから、一般的には集中ワークに使われるイメージがあります。しかし社内で昇降デスクを使っている様子を観察していると、意外と人が寄ってきて話しかけるシーンが多いことがわかりました。そこで、「集中できて、人とコミュニケーションも取りやすい」という相反する価値を両立できる昇降デスクの検討を始めました。
小松原さん
スタンダードテーブルにはモニターの左右にコンセントが設けられている
身長に合わせて高さを調整できるのも昇降デスクの基本的な価値のひとつ
櫻井:実際コクヨでの納入実績でも、4台の昇降デスクを風車状に配置するなど、コミュニケーションが取りやすいレイアウトを取り入れているケースが多く見られました。全員の席を昇降デスクにするというよりもABW(Activity Based Working)のオフィスに選択肢の一つとして取り入れられるケースが多いのです。
江頭:もともと昇降デスクは、高くすると歩いている人と立って作業している人の目線の高さがあうため、コミュニケーションがとりやすくなります。そこにコミュニケーション上のさらなる価値を生み出すためには、天板の形からゼロベースで考える必要があるのではないかと考え、さまざまな形の天板を検討し始めました。
櫻井さん
江頭さん
レイアウト図で様々な組み合わせを検討
佐々木:大量にレイアウト図を作成してパズルのように組み合わせながら、天板形状のスチレンボードをカットして1分の1サイズで再現しました。品川、大阪、三重と分かれた拠点にいるメンバーが大阪に集まってパソコンを置いたりしながら「これは大きすぎる」「これは作業スペースが狭い」など検証しました。最初は台形の手前側の辺を短くしたものも検討してみたのですが、そうすると作業スペースが狭くなります。手元に資料を広げてマウス操作もできる最低限のスペースを確保しつつ、人が立ち寄って話しかけやすい角度や形状を検討しました。
最終的に3つ組み合わせて三角形をつくれるタイプ(資料内の赤く囲まれた部分)だと、コクヨで提案しているグリッドプランのモジュールに収まるので、面積効率上もよいのではないかという結論に落ち着きました。次は台形に切ったボードを3つ組み合わせながら「これだと距離が離れすぎて話しにくい」など、ちょうどよいサイズを模索していきました。
佐々木さん
近づいてくる人の体の向きを変えることで、自然と視界に入りやすくする
――台形型アセンドのコンセプトや仕様が決まっていくなかで、インクルーシブの考え方はどのように反映されたのでしょうか?
櫻井:話しかけやすいというコンセプトを実現するアプローチ方法を検討している段階で、以前参加したインクルーシブワークショップでの、聴覚に障がいのある小笠原さんの話を思い出したんです。業務でCADでの作図を担当されているのですが、対向島型の執務デスクで集中して作業している時に、後ろから話しかけられても気づけないので、急に肩を叩かれたりしてビックリすることがある、とおっしゃっていました。確かにそれは自分がされても嫌だな、と。それで、この台形デスクなら小笠原さんの困りごとにも対応できるのではないか?と思うようになりました。
羽場:櫻井さんから共有してもらったインサイトのおかげで、人が近づく時に視界に入りやすくなる台形の執務テーブルは、聴覚障がい者の課題解決にもつながるのではないかという気づきを得ました。パネルを2枚にして、開いている面が斜めに広がっていると、自然と「ここからなら話しかけやすい」と感じますし、その結果向かってくる人の体の向きが斜めになるため、座っている側が気づきやすくなるはずだと考えたのです。
そこでワークショップを実施して、実際に直角のテーブルと比較しながら体感してもらいました。小笠原さんに試してもらったところ、「これだよ!こうやって話しかけてくれたら気づけるよ」とすごく喜んでもらえました。
花田:台形の形から視界に入りやすい他に、昇降デスクなので話者と目線と耳の高さを合わせることができるので、補聴器を着けていても聞き取りやすく、口元の動きも目に入るので話を理解しやすいという意見もありました。
佐々木:コミュニケーションの取りやすさは実現できたので、そこから今度は執務中の集中の質をどう上げていくかのバランスを考えていきましたね。
羽場さん
作業中でも人が近づく気配が感じやすい
オンライン参加の花田さん
目の前のユーザーが心から喜んでくれるものづくりを
――「話しかけられる時に気づきやすい」というほかにもインクルーシブな観点はありますか?
小松原:聴覚障がいのある方は情報収集を視覚に頼る部分が大きいです。集中という観点では、例えば円形テーブルで打ち合わせをする際、視界が開けすぎているせいで情報が過剰に目に入り、気が散って疲れてしまうそうです。なので、集中作業のためにはパネル等である程度視界を遮断する必要があります。これって聴覚障がいのある方に限らず、囲まれている方が集中しやすいですよね。そこで、手元を見ながら作業する時は適度に視覚情報を遮りつつ、目線を上げれば周りの人と会話ができるようにパネルの高さを調整していきました。
適度に籠れる高さのパネルのおかげで3人で座っていても集中できる
羽場:誰だって集中して作業している時に急に声をかけられたり背後から見られていると感じるのは嫌ですし、加齢による聴覚の衰えを感じる人もいるはずです。また車いすユーザーでも高さを調整しやすく、角度があるおかげで近づいて会話しやすいなど、思ったより幅広い方たちにメリットを感じていただけそうでした。
一方で、精神障がいの方など非常に敏感な方は、もっとしっかりと囲まれていないと落ち着けないということもわかりました。「囲いがあったほうがよい」というニーズは一見似たように思えても、その背景はそれぞれ異なります。一つの商品だけではすべての課題が解決できるわけではないということも、試したからこそ得られた気づきでしたね。
――苦労した点は?
江頭:やはり一般的な直線のデスクより角度がついた方が、昇降機能のための構造も複雑になるので、難易度は上がります。私は製造側の人間ですが、開発の当初から参加して意図が理解できていたので、台形天板で昇降を実現する難しさも、納得したうえでほどよくあきらめて苦労できました(笑) やっぱりその先のユーザーの姿が見えると、やりがいを感じることができます。
やりたいことを実現するうえでの要件を理解できていたので、これはマストだけれどこれは捨ててもいいなどの選別も迷わずできました。だから、難しい課題ではありましたがやりやすい取り組みでもありました。
花田:そうですね、台形などの異形天板だと直線天板と異なり1センチ単位で調整が必要になるのですが、企画メンバーと細かくコミュニケーションを取って優先順位を明確にしながら進められたからこそ実現できたと感じています。
櫻井:今回家具では初めて聴覚障がいのリードユーザーの困りごとに対応した商品をつくることができたのですが、以前実施したワークショップでは具体的に形にすることができなかった。それがずっと気にかかっていました。
アセンドは「聴覚障がいのあるリードユーザーのこういう課題解決に」と狙いうちで取り組んだわけではありません。しかし漠然と「聴覚障がい者」でなく「困っている小笠原さん」という一人のユーザーが喜んでもらえる商品を、結果的に世に出すことができたこと、それが他の人の課題も解決できそうなことがとても嬉しいです。
左から江頭さん、羽場さん、大阪からweb会議で参加の花田さん、櫻井さん、小松原さん、佐々木さん
取材日:2026.07.14
インタビュー・執筆:中原絵里子
撮影:ヤマグチイッキ
編集・校正:HOWS DESIGN運営チーム