HOWS DESIGN

Vol.44 INTERVIEW

「ここにいるよ」の一言から。
華音ちゃんとの対話で考えた、ものづくりのこと

掲載日 2026.08.26

ALTはじまり。お家のリビングで漢字ドリルをするかのんちゃん。メガネをかけて薄いパープルのシュシュで髪の毛をお団子にしている彼女はドリルの上に並んだ漢字をじっくり見て学んでいる。ALTおわり。

教室で友達と話し、昼休みには鬼ごっこや一輪車を楽しむ。放課後はピアノやダンス、ソーラン節の練習へ向かう。

そんな学校生活を送る4年生の華音ちゃんにとって、学ぶことや遊ぶことは、友達との時間と自然につながっています。友達と一緒の時間を過ごす一方、教室や校庭、教材や文具など、日々接する環境との関わり方には、友達とは少し異なる華音ちゃんならではの「使い方」「見え方」があります。

生まれつき眼球の大きさが小さい小眼球症と一部が欠損しているコロボーマがあり、現在は緑内障の影響も受けながら生活する華音ちゃんは、地域の小学校の弱視学級に在籍し、一部の授業は通常の学級の友達と一緒に学んでいます。

今回、コクヨのイベントで出会い、実際に製品についても意見をいただいた華音ちゃんに、学校生活や文具との関わりについて話を聞きました。すると、そこからわかってきたのは「視覚障がいのある子どもの生活」というような特別な物語ではありませんでした。

そこにあったのは、一人の子どもが学校生活の中で感じていること、そしてその声から、学びやものづくりを考えるための多くのヒントでした。

*弱視学級とは:見えにくさがある児童・生徒を対象とした特別支援学級

Interviewee

  • 渡邉 華音(かのん)(9歳)

    コロボーマ・小眼球症・緑内障と、生まれつき視覚障害がある。シール交換やスイーツ作りが好き。お出かけや楽しいことが大好きで、お友達とよく遊んでいる。
    将来は、お友達と一緒にショッピングやカラオケに行くことが目標。

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

コクヨのキャンパス スタメン文具が仕分けできるペンケース

商品紹介ページはこちら:

「ここにいるよ」の一言が、参加しやすさをつくる

ALTはじまり。メガネをかけ、白いTシャツを着ているかのんちゃんはインタビューを行っている女性に向けて微笑みながら自分の日々の暮らしについて語っている様子。ALTおわり。

学校生活について話を聞くなかで、華音ちゃんが印象的に語ってくれたのは、授業ではなく休み時間のことでした。

「みんなで公園で遊んでる時に、砂場で遊んでたら急にみんなどっかいっちゃって、みんながどこにいるか分からなくなることがある。」

校庭や教室では、遊びに夢中になった友達たちが、それぞれ自由に動き回ります。友達の姿を目で追うことが難しい華音ちゃんにとっては、「今、みんながどこにいるのか」という情報が途切れてしまうことがあります。

「『どこー?』って聞くと、『ここー!』って返事をしてくれる。それで近くに行っても、そのあと、またみんな別の遊ぶ場所に走って行っちゃう。みんなと一緒に遊びたいけど、どこにいったか見えないからわからなくなっちゃう。」

誰かが意地悪をしているわけではないことを華音ちゃんは知っています。「ブランコ行くよ」「こっちにいるよ」といった何気ない声かけがあるだけで、一緒に遊び続けることができます。担任の先生や弱視学級の先生は、「ここにいるよ」と周囲の様子を言葉で伝えてくれることが多いそうです。

「先生はいつもこっちだよって言ってくれるから、それだけで安心する。」

今までなかった設備や環境を整備することだけがインクルーシブなのではありません。必要な情報が必要な形で伝わることもまた、誰かが参加しやすくなる環境づくりの一つなのだと感じさせられます。

一人ひとりに合わせるのではなく、学びやすさを整える

授業の中にも、華音ちゃんが学びやすくなるための工夫があります。
黒板に文字を書くときは、先生が内容を読み上げながら授業を進めます。計算ドリルは拡大コピーされ、漢字テストの記入マスも大きく、線を太くしたものを使用しています。

「テストとかをするときは、書く場所が小さいと書きづらいし、枠が太くなってたり大きくないとはみ出しちゃう。」

ALTはじまり。ピアノの譜面を置く台のようなツールに漢字ドリルを置いている。こうすることで、姿勢が良いまま、顔を近づけて漢字をじっくり見ることができるようになっている。かのんちゃんは今「ご飯」の「飯」の漢字を練習中。ALTおわり。

そう話す華音ちゃんにとって、文字の大きさやレイアウトは、学習内容そのものと同じくらい大切な要素です。また、教室近くの階段には以前、手すりがありませんでしたが、お母さんとお父さんがこれまでの華音ちゃんの過ごし方を通して気づいたことを先生に伝えたところ、手すりと点字ブロックが設置されました。

「点字ブロックがあると、階段だって分かるから安心。」

ここで印象的だったのは、特別な誰かのために、特別に設備や環境を整備されたのではなく、「安心して使える環境」が少しずつ整えられているということでした。教室での学びも、校舎での移動も、一つひとつの工夫が積み重なって成り立っています。

「使いやすい」は、使う人との対話から浮かび上がる

華音ちゃんとコクヨとの出会いは、アクセシビリティに関するイベントでした。会場でコクヨのブースを訪れたことをきっかけに、後日コクヨのペンケースについて意見を聞く機会が生まれます。
後日、自宅に届いた複数のペンケースを実際に使いながら、オンラインで開発担当者へ感想を伝えました。

「チャックが小さいと見つけにくいけれど、輪っかになっているチャックだと見つけやすいし、持ちやすい。」
「よく使う三角定規とか、のりもペンケースにいれておきたい。でも、たくさん入らないペンケースだとお道具箱に入れておかないといけなくなっちゃうからすぐに使えない。できるだけ大きいサイズがいい。」
「ペンケースの中にポケットがたくさんあると、中でごちゃごちゃにならなくていい。三角定規はここ、消しゴムはここ、ってわかる。」

ALTはじまり。かのんちゃんが普段使っているコクヨのペンケース。大きく口が開いて、たくさんのポケットがあるのでペンや三角定規などが取り出しやすい。実際に取り出す動作を見せてくれている様子。ALTおわり。

一つひとつは日常的な感想ですが、実際に使う人だからこそ気づける視点でもあります。
毎日、授業ごとに文具を出し入れする。算数では三角定規、国語では鉛筆。そうしてたくさん出し入れする。みんなと過ごす時間もあれば、弱視学級の部屋に移動することもある。そうするとチャックが必要で、持ちやすいほうがいい。
教室では限られた時間で必要なものを取り出したり移動させたりする必要があります。
一方で、華音ちゃんが文具やペンケースに求めるものは、機能性だけではありません。

「色も大事だし、キャラクターも好き。」

毎日学校へ持っていくものだからこそ、自分が気に入ったデザインであることも、使い続けたい理由になります。最終的に華音ちゃんが一番使いやすいと実際にたくさん使ってくださっているペンケースについて聞くと、「小分けにできるポケットがあって、どこに何が入っているのかもわかる。すぐ取り出せるし、のりみたいな太いものも入れられる」と話してくれました。

製品開発のプロセスでは、「何が使いやすいか」を議論することは少なくありません。しかし実際に話を聞いてみると、その答えは製品単体の話だけではありませんでした。学校でどのように学び、友達とどんな時間を過ごし、毎日どんなふうに文具を使っているのか。そうした暮らしの文脈があって初めて、「使いやすさ」の理由がわかってきます。

「好き」があるから、将来の夢がある

インタビューの最後に、将来の夢について尋ねました。

「パティシエになりたい。」

理由を聞くと、「おいしいケーキを作って、みんなに『おいしい』って言ってもらいたいから」と教えてくれました。好きなお店のケーキを食べたときのうれしさが、今度は自分が誰かへ届けたいものになっています。
また、普段TikTokやInstagramではダンスや歌の動画も発信しています。

「『上手だね』とか『すごいね』ってコメントをもらえるとうれしい。」

その一方で、「パーキンスって何?」「点字はいつから使っているの?」といった、彼女の障がいや利用しているツールへの質問を受けることも少なくないそうです。華音ちゃんにとって発信は、自分の日常を特別に見せるためではなく、自分が好きなことを楽しみながら、自然と周囲との対話が生まれる場にもなっています。

ALTはじまり。かのんちゃんがインタビュアーに向かって、自分の夢を語っている様子。どこか笑顔が増えてきている気がする。ALTおわり。

一人のユーザーの体験が、ものづくりの視点を広げる

今回のインタビューで印象に残ったのは、「どんな文具が使いやすいですか」という問いだけでは明らかになってこない話が、たくさんあったことです。

朝は宇宙の本を読み、昼休みには友達と鬼ごっこをして、放課後はダンスやソーラン節を練習する。友達とはテレビ電話で話し、お気に入りのキャラクターがついた文具を選び、将来はパティシエになりたいと話す。
そんな日常を聞いていくなかで、「チャックが持ちやすい」「どこに何を入れたか分かりやすい」という製品への感想も、暮らしの延長線上にあることがわかってきました。

インクルーシブデザインでは、「当事者と共につくる」という言葉がよく使われます。
しかし、その本質は、ただ障がい者が障がいについて語り、障がい者の目線で意見を言うことや、それを非障がい者が理解することではないと思います。

今回も、そうでした。もし最初から「障がいのあるユーザーの困りごとを聞こう」という姿勢だけで向き合っていたら、捉えていたのは「見えにくい日々を送る人にとってのペンケースの課題」だけだったかもしれません。

華音ちゃんが話してくれた時間の多くは、実は障がいの話ではありませんでした。一人の生活を知り、その人が何を楽しみ、どんな場面で立ち止まり、どのような工夫を重ねながら毎日を過ごしているのか。その文脈に触れることで、「使いやすさ」の意味そのものも少しずつ立ち上がっていきます。

華音ちゃんが話してくれた「ブランコ行くよ、と声をかけてもらえるとうれしい」という言葉も、その一つでした。必要だったのは、大きく環境を変えることではなく、今起きていることが自然に伝わること。その小さな気づきは、学びの場だけでなく、ものづくりにも通じる視点ではないでしょうか。
このペンケースは、手の力が弱い方とワークショップを行って開発したものであり、華音ちゃんはそこに参加した「リードユーザー」というわけではありません。しかし、日々の暮らしや学びのなかで積み重ねてきた工夫を通して、このペンケースの「使いやすさ」を自身のSNSで発信してくれました。その言葉は、開発する側だけでは気づけなかった視点を教えてくれるものでした。
HOWS DESIGNでは、こうした一人ひとりの気づきを「みんなの使いやすさ」へとつなげていくことを目指しています。その「みんな」とは、決して一つの障がいや属性だけを指すものではありません。異なる障がいのある人も含め、多様な人たちへと視点を広げながら、使いやすさを育てていくことでもあります。
華音ちゃんが教えてくれた気づきを、一人だけの経験として終わらせず、より多くの人へとつないでいくこと。それもまた、インクルーシブデザインの大切な役割なのではないでしょうか。

ALTはじまり。かのんちゃんがいつも使っているペンケースが机の上に置かれている。薄いグリーンで、外から三角定規がポケットに入っていることがわかる。ALTおわり。

取材日:2026.07.08
インタビュー:田中 美咲
執筆:田中 美咲
撮影:山中 散歩
編集・校正:山中 散歩・HOWS DESIGN運営チーム

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