新本社「KOKUYO HQ」に潜入!
人の行動を変える、体験型オフィスのつくり方
大阪・梅田にオープンしたコクヨ新本社「KOKUYO HQ」。働き方や企業カルチャーを更新する“実験の場”として生まれたオフィスとはどのような場所なのでしょうか。内部を巡りながら、空間に込められた仕掛けと、そこから生まれる体験をレポートします。
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INDEX
Profile
嶋﨑 迅(しまざき・じん)
グローバルワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部
最初の一歩から好奇心をひらく空間へ
今回案内してくれたのは、KOKUYO HQの設計を担当した嶋﨑 迅さん
KOKUYO HQがあるのは、グラングリーン大阪 パークタワー14階。エレベーターを降りると、まず目に飛び込んでくるのが、共用廊下に広がる鮮やかなグラフィックです。
共用廊下の壁に施されたグラフィック。エントランスに向かう時間そのものも、体験の一部にしています
KOKUYO HQのデザインパートナーには、アメリカのインテリア設計事務所「Studio O+A(スタジオ オープラスエー)」(以下、O+A)を迎えています。 O+Aはストーリーテリングに強みを持ち、ともに今回の空間づくりを進めました。
エントランスに至るまでの天井や壁には、抽象化したモチーフで構成されたグラフィックが広がり、クリエイティブな空気感を演出しています。青の範囲を天井まで広げることで、空間に奥行きと立体感を生み出しているのも特徴です。
さらに天井には、120周年のリブランディングで大切にした思想を受け継ぎながら、この空間のために検討された言葉が配置されています。来訪者が最初に目にする場所だからこそ、単なる装飾で終わらせず、「この会社はどんな思いを持っているのか」が自然に伝わる導入空間にしたい。そうした考えは、O+Aとの対話を重ねる中で見えてきたものだといいます。
視線を上げると「CURIOSITY FOR THE LIVES」の文字が目に入ります
共用廊下には、環境配慮型の床材を使用しているとのこと。サステナブルであることは、O+Aとコクヨが大事にする設計思想のひとつでもあり、KOKUYO HQではこのエリアに限らず、空間の随所にその考え方が反映されています。
まっすぐ歩くだけでも、壁や天井の表情が少しずつ変化していく。まさに「これから何が始まるんだろう?」と好奇心が掻き立てられるプロローグ!オフィスに入る前から、すでにワクワクする気持ちが高まっていました。
お客様を迎える「Gateway」は、“関係をほぐす”場所へ
開放的な眺望を楽しめる「Gateway」
廊下を進んだ先に広がるのが、お客様を最初に迎える「Gateway」です。受付やウェイティングエリアとしての機能を備えながら、コクヨの歴史や現在の取り組みに触れられる展示空間としてもつくられています。
印象的なのは、空間に入った瞬間に広がる開放的な眺望です!窓の外には大阪・梅田の街並みが広がり、眼下にはグラングリーン大阪の豊かな緑が広がります。
嶋﨑さんによると、あえてエレベーターホールから長い廊下を通った先に「Gateway」を配置しているのは、来訪者をこの景色とともに迎えるため。これも、KOKUYO HQでの体験の質を高めるための、大切な工夫のひとつだといいます。
このエリアには、展示を入れ替えられる「POP UP Gallery」や、コクヨの歴史を紹介する「Curiosity Wall」も設けられています。
コクヨのサービスやプロダクトを発信・共有する「POP UP Gallery」。来訪者の好奇心を掻き立てます
役割を終えたカタログやノート製造時の紙管をアップサイクルした展示什器。コクヨらしい「紙」の記憶が、空間の中で新たな役割を担っています
コクヨの文具がモチーフになったタイルを発見!
モチーフとなった『すっきりとした単語帳』はコクヨデザインアワード2015のグランプリ作品を製品化したもの
コクヨの歴史を紹介する「Curiosity Wall」
時系列にとらわれず、コクヨが積み重ねてきた多様な取り組みが体感できます
「Curiosity Wall」は、単なる年表に沿った歴史展示などではなく、過去の製品や広告、事業の取り組みを横断的に紹介する構成になっています。
この展示計画の背景にあったのが、O+Aとの対話です。当初は、コクヨとしてこれからの新しい取り組みを発信していくことに意識が向いていたそうです。ですが、対話を重ねる中で、120年の歴史の中に蓄積されてきた製品や取り組みこそが、コクヨらしいクリエイティブの源泉であり、遺伝子でもあることに改めて気づかされたといいます。
そこで「Curiosity Wall」では、過去の歩みをただ残すのではなく、それらに触れた人の好奇心を誘発することを意識して展示を計画。実際に眺めていると、歴史を“学ぶ”というより、コクヨがこれまで世の中に届けてきた好奇心の蓄積を“浴びる”ような感覚がありました。展示をきっかけにさまざまな会話も生まれそうです。「Gateway」は人を迎える場所であると同時に、人と人との関係性を少しやわらかくほぐす場所でもありました。
「Reception Room(応接室)」は見晴らしの良い場所に配置
部屋からは、大阪・梅田の街並みを一望
天井にミラーを設けることで、座ったままでもグラングリーン大阪のパークの緑を反射越しに楽しめる仕掛けに!
働く、学ぶ、整える。「Parkside」に広がる多様な体験
次に案内されたのは、「Parkside」と呼ばれるエリアです。ここにはウェルネスルーム、大人数が集まれるタウンホール、ジムなど、一般的なオフィスのイメージを少し越えるような場所が集まっています。
まず目を引くのは、家族と一緒に過ごすことも想定したウェルネスルームです。嶋﨑さんは、「キッズルームをつくりたいわけではなく、多様なライフスタイルを支える場所として考えている」と話します。例えば、子どもが横で宿題をしている間に仕事をしたり、少しリラックスした環境で1on1をしたり。仕事と生活を完全に切り分けるのではなく、ゆるやかにつなぐための場所として設計されています。
ウェルネスルームの一角。自由な姿勢で過ごせる造作家具が、リラックスしたコミュニケーションを促します
仕事と生活をゆるやかにつなぐ、ウェルネスルームならではの使い方です
靴を脱いで使えるウェルネスルームには、子どもから大人まで自由な姿勢で過ごせる造作家具もあります。座る、もたれる、床に近い位置でくつろぐ。姿勢が固定されないことで、会話のトーンや気持ちまでほどけていく感覚がありました。
続いて訪れたタウンホールは、大型LEDビジョンを備えたイベントスペースです。通常時はワークスペースとして利用でき、イベント時には隣接するパントリーやバーカウンターとつなげて、より大きな場として使うこともできます。
タウンホールは、イベントや勉強会、ワークスペースなど、用途に応じて柔軟に使うことができます
隣接するバーカウンターでは、お酒を片手に社員同士の交流を楽しめる「UMEDA BAR」を定期的に開催。部署や役職を越えたコミュニケーションの場になっています
景色の良い窓際の段床に腰掛けると、いつものデスクとは違うリズムで仕事ができそうです!
さらに驚いたのが、ジムのあるエリアです。ミラーフィット(※)やバランスボール、ヨガマットなどが用意され、仕事の合間に体を動かせます。ただし、ここも運動専用の場所ではありません。ミーティングやミニワークショップにも使えるよう、機能を限定しない設計になっています。
※専用ミラーデバイスとアプリを用いてフィットネスを楽しむことができるサービス
ミーティングやミニワークショップにも活用できるジムのあるエリア
床には、靴のソールの廃材をチップ状にしたサステナブルな素材を使用しています
「ジムでミーティング?」と思いましたが、体を動かしたあとに話すことで、いつもとは違うアイデアが出るかもしれません。働く場所を変えるだけでなく、身体の状態まで変えることで、思考のモードを切り替える。「Parkside」には、そんな働き方の余白を感じました。
エントランスから見える大きな壁面には、コクヨのホームページに使われているスペシャルコンテンツ「Curiosity is Life 好奇心を人生に」のグラフィックを展開。来訪者を迎える印象的なアクセントになっています
社員の玄関口から始まる、自律的に選ぶ「Workplace」
「Parkside」を抜けると、社員が日常的に使う「Workplace」へ。ここで印象的なのが、「Team Entryway」と呼ばれる社員の玄関口です。
出社した社員を迎え入れる「Team Entryway」
壁面には、名刺をモチーフにしたオブジェがずらり!これは、さまざまな個性を持つ社員が集まっていることを表現したもの。嶋﨑さんから「じつは、全部違う柄なんです」と聞いた瞬間、思わず近づいて見入ってしまいました。細部にまで込められたこだわりから、設計者の空間への愛着が伝わってきます。
近くには、社員をサポートするコンシェルジュカウンターもあります。出張者や他拠点の社員が訪れたときにも、まずここに立ち寄れば必要な情報を得られる。単なる入口ではなく、社員が「ここに来れば大丈夫」と思える拠点として設計されています。
社員をサポートするコンシェルジュカウンター。KOKUYO HQで働く人や訪れる社員の拠点となる場所です
他にも、「Workplace」には目的に応じて選べる複数のワークエリアがあります。集中して作業したいとき、チームで集まりたいとき、短時間でアウトプットを出したいとき。固定席に座るのではなく、その日の業務や気分に合わせて場所を選ぶ。KOKUYO HQが目指す「自分で選び、自分で動く」働き方が、空間として具体化されています。
社長室や会長室などが集まる「Kiln(キルン)」。全社員に開かれたエリアとして、経営層と社員の自然な交流を促します。毛足に厚みのあるカーペットや吸音素材を含む天井仕上げなど、音環境にも配慮されています
「DreamLab」と呼ばれるエリア。チームの目的や活動内容に合わせて自在にレイアウトでき、実験的でクリエイティブな協業を促進します
空間と空間の切り替わりに設けられた「ポータル」。コクヨのCI(※)カラーから選んだビビッドな色を取り入れることで、コクヨらしさを自然と感じながら気持ちを切り替え、次のシーンへ進めるよう設計されています
※コーポレート・アイデンティティ
集中、交流、食。これからの働き方を広げる仕掛け
社員の集中とリラックスを支える「Treehouse」。ライブオフィスのにぎわいから少し離れ、思考に没頭できるエリアです
見学の後半では、さらに個性的なエリアへ。まずは「Treehouse」です。ここは、お客様の見学可能なエリアから離れた、社員のための集中・リラックスエリア。電話やWeb会議を控え、静かに思考に没頭するための場所として設計されています。
個人の集中業務に特化したブース
視線や音などの外部刺激から距離を置き、感情の整理や脳の疲労回復を行う「MindRoom」
「Treehouse」にあるライブラリーには、好奇心を刺激する書籍や、コクヨの歴史に関する展示もありました。興味深いのは、歴史展示が社外向けだけでなく、社員のインプットのためにも置かれていることです。会社の歩みを知ることが、社員自身の好奇心や会社への愛着を育てる。オフィスの中に、自社のことを学び直す場所があることの大切さを感じました。
社員自らが選んだ、好奇心を刺激する書籍が並ぶライブラリー。社員がコクヨの歴史や多様な知に触れ、インプットできる場所です
そして最後に訪れるのが、「Marketplace」です。一見すると開放的なカフェのようですが、単なる飲食スペースではないとのこと。イベント、ワーク、交流、そして食を通じたコミュニケーションが重なり合う、KOKUYO HQの中でもとくににぎわいを感じる場所です。
カフェ、イベント、ワークスペースの機能をあわせ持つ「Marketplace」。社内外の交流が自然に生まれる、KOKUYO HQのにぎわいの中心です
なかでも目を引くのが、鉄板を備えた「OKONOMI」のエリア!お好み焼きなどを一緒につくり、食べることができる場所とのことで、オフィスの中に鉄板がある光景はかなりのインパクトがあります…!嶋﨑さんによると、これも「食を通じたコミュニケーションを生むための仕掛け」なのだそう。
メディア向け内覧会では、実際に鉄板で焼いたお好み焼きが振る舞われたのだとか!
焼き上がりをみんなで囲めば、立場を越えたコミュニケーションのきっかけになりそうです
さらに、「Marketplace」には、使用済み割り箸をリサイクルしたテーブルや、高知県四万十町「結の森(※)」で収集した枝葉を取り入れたカフェカウンターなどがあります。「Marketplace」は、さまざまな体験が重なりながら、コクヨらしい循環の考え方にも触れられる場所でした。
※コクヨグループが高知県四万十町で取り組む森林保全活動
「結の森」の自然素材でデザインしたカフェカウンター
オフィスにいながら自然とのつながりを感じることで、循環型社会への意識を育みます
体験を通じて、行動が変わるオフィスへ
今回の潜入で強く感じたのは、KOKUYO HQが単に“きれいでおしゃれなオフィス”で終わっていないことです。
廊下のグラフィック、展示什器の素材、名刺をモチーフにしたオブジェ、ジムや鉄板のある空間。どれもユニークな仕掛けですが、その奥には共通して「人の気持ちを動かし、行動を変える」という思想がありました。
オフィスは、ただ働くためだけの場所ではありません。誰かと話したくなる。少し体を動かしてみたくなる。今日はどこで働こうかと、自分で選びたくなる。そうした小さな気持ちと行動の変化の積み重ねが、企業カルチャーを少しずつ変えていくのかもしれません。
KOKUYO HQは、完成された答えを示す場所ではなく、使われながら変化していく実験の場です。訪れるたびに新しい発見があり、働く人や訪れる人の行動を少しずつ変えていく。そんな可能性を感じるオフィスでした。