オフィスに音楽を流したら、会話は増える?コクヨのあいさつ実験「BGAM」

オフィスに音楽を流したら、会話は増える?コクヨのあいさつ実験「BGAM」

「あいさつをしましょう」と呼びかけるのではなく、自然と声をかけたくなる環境をつくれないか。そんな発想から生まれたのが、コクヨオリジナル楽曲「BGAM(バックグラウンドあいさつミュージック)」です。音楽を使ってコミュニケーションを生み出す試みの背景と、制作の舞台裏を聞きました。

この記事は約7分で読めます

Profile

金澤亜未さん

金澤 亜未

ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革推進総務部

江崎舞さん

江崎 舞

ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革推進総務部

小川剛さん

小川 剛

グローバルワークプレイス事業本部 顧客コミュニケーション企画部

オフィス全体を巻き込んで、コクヨらしいワクワクする企画を!

""

金澤 亜未(ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革推進総務部)

―品川オフィスで実施されたあいさつ運動ですが、どんな経緯で企画が立ち上がったのでしょう?

金澤:社員を対象にあいさつに関する意識調査を行ったところ、コクヨの東京品川オフィスTHE CAMPUSでは、「自分はあいさつをしている」と答えた人が6割いる一方で、「あいさつが返ってこない」と感じる人も多いという結果が出ていました。今回のプロジェクトは、この課題を軸に立ち上がったものです。私自身、今年(2026年)4月にコクヨに入社して、入社当初は、すれ違う社員全員とあいさつをするものだと思っていたのですが、このオフィスは意外とそうでもないんだな……と感じていたところはありました。

""

小川 剛(グローバルワークプレイス事業本部 顧客コミュニケーション企画部)

小川:僕は、あいさつは当たり前だと思っていたので、今の話を聞くとちょっとショックですね。

““

江崎 舞(ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革推進総務部)

江崎:コクヨには、 自社の働く環境をお客さまに公開し、働き方やオフィスづくりを体感してもらう「ライブオフィス」があります。以前のライブオフィスでは、 お客さまへのあいさつを強く意識する文化がありました。ただ、働き方や社員構成も変わる中で、その感覚が自然に引き継がれているとは限りません。一方で、「あいさつをしなさい」と強制するのも違うよね、という話になりました。

―そこから、なぜ楽曲を作ろうという発想に?

金澤:ただ「あいさつをしましょう」と呼びかけるだけではコクヨらしくないと思い、じゃあ、ワクワクする施策ってなんだろう? と考えた時に、PASS THE BATON MARKETでもご一緒している株式会社スマイルズさんに相談しました。最初はポスターやアクリルキーホルダーの制作などをご相談していましたが、現場リサーチを経て、ご提案いただいたのがオリジナル楽曲を作ることでした。

江崎:誰も反対しなかったですよね。みんな「じゃあ、やってみよう」って。

―ボーカルは小川さんが担当されていますが、小川さんに依頼したのはどのような理由からだったのでしょうか?

江崎:楽曲に歌を入れようとなった時に、ボーカルは社員がいいよねという話をしていて、イメージとしては、爽やかな歌声がいいなって。そうなると、私の中では、小川さんしかいない! と思ったんですよね。小川さんはライブオフィスの統括をされている方でもあるので、そういう人が歌を届けてくれると説得力もあるし、面白いことになるのではないかと。そういった流れがあって正式にオファーさせていただきました。

小川:会社に副業申請をして音楽活動をしているので、それを知った上で声をかけてくださったと思うのですが、依頼を頂いた当初はめちゃくちゃ悩みました。理由は二つあって、一つは、僕にとって音楽はすごく大切なもの。この取り組みに参加することで、今まで大切にしてきたものが違うものになってしまうのは避けたいなと。まあ、わかりやすく言うと、どん滑りしたら嫌だなって(苦笑)。もう一つは、部長の立場である自分が「あいさつしようよ」って歌を歌うこと自体どうなのかな、と。それこそ、自分が金澤さんくらいの年齢の時に、超大人なイメージを抱いていた部長がそんな歌を歌っていたら、当時の自分だったらどう思うだろうって。

―そういった葛藤があったにも関わらず、オファーを受けた理由は?

小川: あいさつを推進するために曲を作ろう、という発想自体がかなりユニークですよね。それを「面白そうだからやってみよう」と実現まで持っていけるところに、コクヨらしさを感じました。それに、作曲を面白い活動をしているプロの方に依頼するとのことだったので、自分にとってもいい経験になるかもしれないなと。ちょっと偉そうに聞こえますが、そういうことなら、と引き受けさせていただくことにしました。

金澤:楽曲の企画・プロデュースはそのまま、株式会社スマイルズさん。作曲はチョコレートプラネットの「FCKY-風呂キャンセル界隈-」を作った金光佑実さん、作詞はスマイルズ取締役の吉田剛成さんに依頼させていただきました。

小川:できれば僕もアイデア出しで参加させてほしいと、無理を言ってお願いして。曲調や言葉の使い方など、僭越ながら意見を出させていただきました。

社員の声も楽曲に!BackGround Aisatsu Musicができるまで

""

BackGround Aisatsu Musicの歌詞

―楽曲制作にあたって、苦労したことはありましたか?

金澤:歌詞の中に「おざます」というワードが出て来るのですが、これは「おはようございます」や「おつかれさまです」を早口で言うイメージの言葉。初めて聞いた人には「おざますって何?」となっちゃうかもしれないので、それをどうやってキャッチーに伝えるかは悩みました。

江崎:これについては、小川さんがアイデアを出してくださいましたよね。

小川:オフィスの中で「おざます」というワードが流れることを想像した時に、パッと聞いても意味がわかりにくいし、わかったとしてもちょっと直球すぎると思ったんですよね。だから、ワードを反響させて、どんどん広がっていくようなイメージを作って、音の演出として「おざます」を届けるのはどうかと提案させていただきました。

金澤:完成した楽曲はYouTubeにもアップしているので聴いていただくとわかるのですが、ゆったりした曲調ですごく耳馴染みがいいです。3分弱の短い曲ですが、ずっとループさせていても違和感がないくらい、オフィスに馴染む仕上がりになっています。

オリジナル楽曲「BGAM」をYouTubeで聴いてみる

““

レコーディングブースに入る金澤、それを見守る小川と江崎

―楽曲の中に、社員のあいさつが散りばめられていますが、このアイデアはどこから生まれたのでしょう?

金澤:楽曲制作の初期段階から、THE CAMPUSで録音した社員のあいさつを楽曲に織り込むというご提案をもらっていました。一方的に曲を流しても、なかなか自分ごととして捉えてもらうのは難しいと思っていたので、だったらTHE CAMPUSにいる社員の皆さんを巻き込んでしまおうと。自分の声や知り合いの声が曲にのって聴こえてきたら、「自分もあいさつしよう」という気持ちを持ってもらいやすいはずなので。

江崎:THE CAMPUSで何か取り組みをする時は、必ず社員参加型にするという前提でこれまでもやってきました。そうすることで、どんどん関係人口を広げていくのが狙いです。

金澤:今回は20~30人の社員の皆さんに協力いただき、「おはよう」「こんにちは」「おつかれさま」など、様々なあいさつを楽曲の中に収録しています。

””

社員の様々なあいさつの声を録音

””

楽曲をより身近に感じてもらえるよう、オフィスで働く社員も制作に参加しました

あいさつ運動に対する社員の反応、そして、他拠点への今後の広がりは?

―実際に曲を流してみて、社内に変化はありましたか?

金澤:2026年6月半ばから8月末まで毎日実施して、1~3階のオフィスフロアと来客スペースで9時から10時、12時から13時の間に曲を流し、7月の途中からはエレベーター内でも流すようになったのですが、エレベーター内で流すようになってから、会話のきっかけが増えたという反応をたくさんいただくようになりました。3機あるエレベーターのうちいずれか1機のみにランダムで流していたので、「あ、今日は当たりのエレベーターだ」といった楽しみ方もしていただけたようです。また、楽曲リリースにちなんだポスターを社内に掲示したり、楽曲のリンクに飛べる特製ステッカーを社内で配布して告知をしました。

””

楽曲リリースにあたり社内に掲示されたポスター

””

社内で配布されたステッカーには、QRコードから「BGAM」を聴ける仕掛けも



―社外からの反応はどうでした?

金澤:実は、社外からの反応が思いのほかよくて、「コクヨさんらしいね」と褒めていただいたことも。社外の方の印象にも残っているというのは嬉しかったですね。

―小川さんのほうには、何かリアクションはありましたか?

小川:いろんな人からDMが届いて、「いいね」とか「そんな特技があったなんて知りませんでした」とか、ポジティブな感想をたくさんいただきました。ただ、エレベーターに1人で乗っている時に曲がかかっていると、なんとも言えない気持ちに……。今誰か乗ってきたら気まずいなって内心ドキドキしていましたよ(笑)。ちなみに、この曲は品川オフィス限定で流していたのですが、梅田オフィスのメンバーからもこの曲の梅田版を作ってほしいと言われましたね。

金澤:楽曲をアップしたYouTubeのコメント欄にも、工場版の「GOANZENNI(ご安全に)」を作ってほしいというコメントがありました。

―オフィスでの体験をデータで伝える「EXPERIENCE REPORT(※)」の9月のテーマが、あいさつ運動についてでしたが、アンケート結果はいかがでしたか?

金澤:プロジェクト前後に実施したあいさつに関する意識調査の結果を比べてみると、「誰にでもあいさつをする」と答えた人がプロジェクト後には増えたものの、正直なところ有意義なデータが十分に取れたとは言えない結果でした。ただ、「BGAM」に関連するところで言えば、「あいさつの機会が増えた」と感じた人が多く、「毎日耳にしていた曲が聴けなくなるのは寂しい」といった嬉しい声も。でも、曲を流す場所と時間が限られていたこともあって「曲を聴いたことがない」という方もいたので、今後も続ける場合は、どうやって認知度を上げていくかが課題です。

※コクヨグループの「従業員体験」や「カルチャー醸成」に関する取り組みを、データや事例で紐解く社内メディア

―今後、他の拠点でもあいさつ運動を実施する予定はあるのでしょうか?

金澤:残念ながら、今のところ目途は立っていません。THE CAMPUSに限って言えば、「BGAM」を活かしてもっと効果を出していく施策は引き続き考えたいと個人的には思っています。他拠点で実施するとしたら、例えば大阪のオフィスでも「BGAM」を流して、品川とはどんな反応の違いが出るのか比較してみるのも面白そうです。

江崎:そうですね。もちろん、同じ曲を流すのもいいと思いますが、拠点ごとで空気感も違うので、大阪らしい曲を新たに作るのもありかなって。

小川:僕の場合もそうでしたが、知っている人が歌っているというところに親近感が湧いて、あいさつだけじゃないコミュニケーションが生まれていく場面が多々あったので、その拠点ごとにボーカルを立てるのも面白いと思いますね。

““

―改めて今回のプロジェクトを振り返って、オフィスでのコミュニケーションを活発化する意義などは見えてきましたか?

江崎:THE CAMPUSは、特にグローバルワークプレイス事業にとって大切な提案ツール。私たちのオフィスであると同時に、これからオフィスをつくるお客さまに、コクヨの提供価値をプレゼンする場でもあります。そういう意味で、社員が生き生きと楽しそうに働く様子はオフィスづくりを提案する事業の説得力になります。あいさつという、一番身近なコミュニケーションが広がっていくことは、事業や企業の成長にもつながっていくと感じることができました。

小川:同じオフィスにいても、事業や部署が違えば普段は違う世界で過ごしていますが、今回のプロジェクトのように、ある日突然、違う部署の人たちと共通のテーマで仕事をすることもあるわけです。そんな時に、いかにお互いが気持ちよく関わっていけるかはすごく大事になってきます。そのきっかけとして、あいさつがあるのかなって。そう考えたら、あいさつってすごく大事ですよね。それを促進するための手段として、今回は楽曲を制作したわけですが、きっとそれ以外にもできることはあるはずで。そういった施策が積み重なって、結果的に、会社全体に一体感が出るとか、皆が居心地良く働けるとか、そういうことにつながっていくといいですよね。

金澤:一方的に何かを強制するような施策ではなく、何かをきっかけに皆さんの中で自然とコミュニケーションが広がっていくような空間づくりをこれからも考えていきたいです。今回の楽曲制作も、その大きな一歩になっているといいなと思います。