社内のつながりを生み
好奇心が育まれるランチマッチング。
その仕組みとは?
在宅勤務が定着し、出勤しても顔なじみとしか話さない。担当業務の関係者以外とは会話がなく、横のつながりが生まれにくい……。社内コミュニケーションのよくある悩みです。
そんな課題に対して、コクヨの情報システム部門では、社員同士のランチの時間をマッチングするSlackアプリ「ハナシカケル」を構築。コクヨらしい“実験カルチャーマインド”で企画開発を進めました。その思考の道のりと、アプリに込めた工夫に迫ります。
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INDEX
Profile
中野 萌(なかの・もえ)
グローバルIT統制部
永井 弘起(ながい・ひろき)
情報システム部 ファニチャー事業システムユニット
河村 康雄(かわむら・やすお)
グローバルIT統制部
「雑談は良い」で止まらず、その価値を具体化してみた
企画の発案者となった中野さん
――「ハナシカケル」は、情報システム部の社員がみずから事業貢献のアイデアを考える取り組み「デジタル推進タスク」の一環だと聞いています。どんなふうに着想したんですか?
中野:オフィスでのコミュニケーションには、常々課題を感じていました。そんなとき、ランダムな従業員同士のランチを促す「ランチマッチング」という仕組みがあると知り、コクヨでもできるのではと、いっとき同じチームだった永井さんに相談。具体的な企画を練るなかで、周りからもマーケティングの視点や浸透フェーズのアドバイスなどをいただきながら、デジタル推進タスクとして取り組んでいきました。
アプリの開発メンバーは、拠点もさまざま。大阪オフィスで働く河村さんは今日、オンラインで参加した
河村:私が働く大阪拠点はオフィスが固定席で、なかなか部署を超えてのコミュニケーションがしづらくなっていました。同じように課題を感じていたメンバーも少なくなかったと思います。
永井:社内には「新しいことに挑戦したい」「知らない人と交流してみたい」という熱量を持つ人も多い。集団には「2:6:2の法則(2割が積極的な人/6割が中間層/2割が否定的な人)」があるといいますが、コクヨの「2割の積極的な人」たちがランチマッチングを通じて中間層の6割と出会えば、その熱量や好奇心はさらに波及していくはず。そう考えると、このサービスには可能性があると感じたんです。
中野:コクヨが大切にしてきたタテ・ヨコ・ナナメの人間関係づくりにもぴったり。できたばかりの人材育成施設「DISCOVER & SHARE PLACE DIG」を活性化したいという声もあり、そこをランチの場として使ってもらえたりしたら一石二鳥だと考えました。
ただ、取り組みを前に進めていくためには、その価値の言語化も必要です。社員同士が雑談する機会が増えたらいいなと思うけれど、なぜ雑談が大切なのかは、意外と説明しづらくて。「なんとなく良い」を超えた根拠を探すのに、なかなか時間がかかりました。
永井:いろいろ調べるなかで行き着いたのが、社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱する『弱い紐帯の強み』理論でした。同じ部署やチームでよく会う人との『強い紐帯』は、共通認識があるぶん物事を深く探求しやすい。一方で、普段あまり会わない人との『弱い紐帯』は、自分とは異なる情報ネットワークにふれられる。実際、僕自身も全然違う部署の人と話すと「そんな考え方があるんだ」と発見があることも多くて、すごく腑に落ちました。これこそ、ランチマッチングで実現したいこと。 面白い刺激を受けて自分の新しい好奇心に気づけば、コクヨが大事にする「B面」(※)も耕されると思いました。
※仕事や肩書きを示す「A面」に対し、趣味や好きなこと、特技など、仕事以外の“自分らしさ”を示すもう一つの側面や顔のこと
「つくっただけで使われない」を防ぐため、企画は綿密に
中野さんとともに企画・開発を手掛けた永井さん
――そこから、どのように企画を具体化していったのでしょうか。
中野:まず、ランチのいいところは、終わりの時間が決まっていて抜けやすく、時間を有効活用できることです。さまざまな社内イベントは夜開催が多く、いわゆる陽キャな人たちが集まる印象も強い(笑)。また、家庭の都合などで夜の参加にはハードルを感じる人でも、ランチなら気軽にトライできます。
永井:マーケ視点のアドバイスを踏まえて、ユーザーフレンドリーを第一に考え、ペルソナやカスタマージャーニーも丁寧に構築しました。業務上「使わないと仕事が進まないシステム」と違って、今回のように「あったらいいよね」というシステムを実際に使ってもらうのは、実はなかなか難しくて。せっかくつくったのに誰にも使われず終わる、なんてケースもよく聞きます。 だからこそ企画をしっかり練って、「それ面白い」「使ってみたい」と思ってもらえるかどうかを、とにかく大事にしていました。
中野:アプリの名前「ハナシカケル」は「話す」「駆ける」「仕掛ける」といった言葉を掛け合わせたもの。たくさん話し、出会いに駆けて、新たな仕掛けを生み出すきっかけにしてほしいという思いを込めています。サービスを身近に感じてもらえるように、パソコンやスマホの空きスペースに貼れる細長いステッカーなんかもつくりました。
Slackでチャンネルに参加するだけ。受動的な操作が気楽
ハナシカケルの画面
――ハナシカケルの機能や、それを開発した流れを具体的に教えてください。
永井:重視したのは、簡単な操作でランチにたどりつくことです。ハナシカケルのSlackチャンネルに参加して、自分のプロフィールさえ設定しておけば、あとは自動で日付とメンバーがマッチングされ、そのままやりとりを始められます。「新しいツールを覚えてもらう」というハードルすら失くしたくて、みんなが仕事で使っているSlackをそのままインターフェースにしたんです。
――マッチングはどのように行われるのでしょうか。
永井:誰か一人が「ごはんを食べたい」と言うと、おすすめのメンバーが自動で3人選ばれる仕組みです。「できるだけ共通点が多い人」「少ない人」といったマッチ度は、自分で選択可能。ただ、デフォルトでは「部署が違うけれど何かしら共通点がある」くらいの人とマッチしやすい設定にしていて。全然共通点がないと会話が続きにくい気がして、そのくらいの距離感がちょうどいいかなと思いました。勤務地も指定できるため、出張先で近い拠点のメンバーと会うことも可能です。
中野:じつは最初の2週間ほどは、事前テストとして私たちが手動でマッチングしていました。システムを作り込む前に、そもそも「知らない社員同士がランチをすること」がサービスとして成り立つのかを実験したかったんですよね。だから、人選や日程も、私たちが候補者のGoogleカレンダーとにらめっこして決めました(笑)。トライアルしてもらった方々が喜んでいて、このサービスには意味があると感じられてから、システムやアルゴリズムの詳細を構築。この進め方は、コクヨの実験カルチャーマインドのあらわれでもあると思います。
――事前テストとユーザーヒアリングを通じて、サービスが変わった部分はありますか?
中野:最初は、自分からチャンネルへの参加ボタンを押してもらっていたのですが、じつは参加自体にも少しハードルがあるとわかり、事務局側から招待するパターンを設計しました。これならユーザーは完全に受け身でOK。招待してもらったチャンネルに入っているだけで、ランチの声がかかります。
――そのほか、開発面や導入に際して工夫したことはありますか。
永井:技術要素を増やしたくなかったので、あえてSlackとAWSだけで完結する、シンプルな構成にしているんです。というのも、僕ら自身がふだん忙しい本業の合間にこれを作っていたので……「自分たちが後で困らない設計にしよう」と強く思っていたんですね。運用の手間がかかりすぎると、開発メンバーの本業を圧迫しちゃうから、そこは最初から意識していました。
河村:導入や浸透のフェーズでは、会社にハナシカケル使用時のランチ費用補助を交渉したこともありました。ただ、こうした取り組みに予算をつけてもらうのはなかなかハードルが高く……。労働組合のコミュニケーション活性化プロジェクトとコラボし、さまざまなイベントを合同開催するなど、草の根的な広報を進めるにとどまっています。
中野:多くの方にハナシカケルの存在はアピールしますが、Slackチャンネルに無理やり招待しないことは意識していますね。ランチという自由な時間に、少しでもいやな思いをさせたくないと思っています。
使ってみた社員たちの声
情シスの業務は他部署の理解が欠かせないため、社内に顔見知りを増やしたかった。知らない人同士でマッチングされるからこそ、ランチでは自分の担当業務をどう話せば伝わりやすいか考えるため、仕事を見つめなおすいい機会にもなる。100名ほどいた同期のなかから偶然マッチングした相手とは、いまや焼肉仲間に。メンバーや日程と一緒に、集合場所まで決めてくれるとより助かる。(情報システム部・N)
能動的に見えて受動的でいられる仕組みがとても使いやすい! すれ違ったときに挨拶できるような知り合いが増え、会社で過ごすモチベーションにもつながっている。趣味のフルートで出演する演奏会を宣伝したら、実際に足を運んでくれた方もいた。(Uniteエンジニアリングユニット・S)
参加者はもともと社内で出会いを求める人ばかりだから、初対面でも積極的にコミュニケーションが取れて、会話が弾む。業務で直接かかわらないにしても、共通の課題がありそうなメンバーと交流できるのがいい。お互いに違うコミュニティでの周辺調査ができるようになるなど、今後につながる“ナナメの関係”だと感じる。(GWP生産調達部・C)
広報なのに他部署の動向がつかみきれず、外国人社員も少なくて、コミュニケーション不足を感じていた。所属チーム以外のメンバーと自然に知り合うきっかけを求めて、ハナシカケルを活用。業務の視野も広がったが、プライベートでも一緒に遊ぶほどの関係もできた。公私ともにいい影響を感じている。(ヒューマン カルチャー本部・F)
関わる人々の好奇心を刺激する取り組みに
――改めてユーザーからの感想や意見も耳にして、いかがですか?
永井:正直、企画してる最中は「本当にこれ、使われるのかな」って不安になることも多かったんです。でも、それまで交流のなかった人から「ハナシカケルで話した永井さんですよね」って声をかけられることがあって。そういう小さな瞬間が、地味に励みになっています。 コクヨにはこうした取り組みに積極的に協力してくれる人が多く、後押しの雰囲気も感じられました。これって、コクヨが長年オフィスづくりや風土づくりに向き合ってきた積み重ねがあるからなんでしょうね。その空気を、僕自身も働いていて感じます。
河村:「社内で新しい人に出会いたい」というユーザーのニーズに貢献できたことが、シンプルにうれしいですね。大阪拠点でも、人に会うたび「ハナシカケルが楽しかった」「こんな出会いがあった」と言ってもらえるので、つながりやそこからの好奇心を生むきっかけがつくれたと実感しています。
中野:集合場所については、あえてこちらでは決めないことにしているんですよね……マッチングしたメンバーとは、直接会う前からコミュニケーションをしてほしいなと思っているので。ただ、ユーザーアンケートは定期的に行っているため、今後もこうした声を拾いながら、小さな見直し・改善を随時重ねていきたいと思っています。
――このプロジェクトは、ご自身にも影響がありましたか?
永井:企画段階では「どんな交流に意義があるか」「雑談の価値とは」みたいなことをたくさん調べました。でも、普通はそれを実証実験なんてできない。デジタル推進タスクという枠組みを使って社内で試せたのは、正直すごく贅沢な経験だったなと思います。普通だったら絶対できないことなので。
中野:ハナシカケルをつくったことで、私は人の役に立てる仕組みづくりが好きだし、向いていると改めて感じました。じつはすでに、社内の落とし物通知サービスをつくったんです。ランチ相手を手動でマッチングするのも、忘れ物を手動で管理するのも、限界があります。そういうことにうまくシステムを活かして、より本質的なことに時間を使ってほしい。自分がつくって楽しいものや好きな作業に気づけたことで、改めてものづくりへの好奇心が刺激されました。