コクヨCIリニューアルから1年。新ロゴ・VIはどう広がり、ブランドを変えたのか
2025年、コクヨはCI(コーポレート・アイデンティティ)を刷新し、新しいロゴ・VI(ビジュアル・アイデンティティ)を発表しました。目指したのは、「CIは完成させるものではなく、育てていくもの」という考え方。あれから約1年。新しいCI・VIは社内外のさまざまな接点へ広がり、コクヨにどんな変化をもたらしているのか。その歩みを振り返ります。
この記事は約8分で読めます
INDEX
Profile
木住野 彰悟さん
アートディレクター・グラフィックデザイナー
グラフィックデザイン事務所6D代表。企業や商品のビジュアルアイデンティティを中心に、ロゴやパッケージデザイン、空間のサインデザインなどを手掛ける。近年は多様な領域でのデザインシステム構築にも取り組んでいる。
主な受賞にD&AD、カンヌ、One Show、アジアデザイン賞、ADC賞、JAGDA賞、パッケージデザイン賞、サインデザイン賞 他国内外多数受賞。
website : https://www.6d-k.com/
佐々木 拓
コクヨ株式会社
経営企画本部 クリエイティブセンター
(YOHAK DESIGN STUDIO)
アートディレクター・デザイナー
金井 あき
コクヨ株式会社
経営企画本部 クリエイティブセンター
(YOHAK DESIGN STUDIO)
アートディレクター・デザイナー
安永 哲郎
コクヨ株式会社
経営企画本部 クリエイティブセンター
(YOHAK DESIGN STUDIO)
クリエイティブディレクター
清水 千穂
コクヨ株式会社
ヒューマン&カルチャー本部 コーポレートコミュニケーション室
「ロゴをください」から、「こんなことをやりたい」へ
CIリニューアルのプロジェクトでは、クリエイティブディレクターとして、ブランド戦略やコンセプト設計などを担当した安永
──まず、木住野さんと今回のCIリニューアルとの関わりから教えてください。リニューアルの初期から関わっていただいていたのですよね。
安永:今回のリブランディングでは、会社のアイデンティティそのものを更新していくからこそ、自分たち自身で考え、形にしていくプロセスを大事にしたいと思っていました。一方で、自分たちだけでその姿を評価することには難しさもあります。
最終的なロゴデザインだけではなく、その過程でブランドをより広く俯瞰しながら、「多様な事業体であるコクヨの本質とは何か」を深く考える視点が必要と考え、以前からコクヨデザインアワードなどを通じて接点があり、広範なブランディングにも取り組まれてきた木住野さんに、外部の視点から伴走していただくことになりました。
CIリニューアルのプロジェクトでは、アートディレクター・デザイナーとしてロゴ・VI設計を担当した佐々木
佐々木:木住野さんにはプロジェクトの初期から、自分たちがつくったものを見ていただき、たくさんのアドバイスをいただいてきました。その中でも一貫しておっしゃっていたのが、「CIはつくって終わりではなく、育てていくもの」ということでした。
──実際に1年が経って、「育ってきた」という実感がありますか?
佐々木:この1年でさまざまな展開をつくりガイドラインも整えてきましたが、まだ変化変更させている段階だと思います。ここから、「どう育てていくか」を考える段階に入っていくと感じています。
CIリニューアルのプロジェクトでは、佐々木とともにアートディレクター・デザイナーとしてロゴ・VI設計を担当した金井
金井:これまでも、THE CAMPUSなど個別の場でコクヨに関するアイデンティティを表現する例はありましたが、会社全体でのアイデンティティは十分に示せてなかったと思います。
新しいCIができたことで、個別ではない大きな屋根になるようなブランドが体現でき、自分たちが目指す姿も鮮明になりました。社員の側からも、「自分たちもブランドを一緒につくっていく」という意識が、少しずつ広がってきているように感じます。
コクヨの東京品川オフィス「THE CAMPUS」のVI
CIリニューアルのプロジェクトでは、理念の浸透やCIの全社展開を担当した清水
清水:この1年で、CI・VIに関する社内からの問い合わせは、記録しているものだけで700件を超えました。最初の頃は「ロゴデータをください」といったシンプルな問い合わせも多かったのですが、最近は「こういうことを実現したい」という相談がかなり具体的になっています。相談をいただいてようやく、私自身も「CIを育てるってこういうことだったのか」と気づかされることばかりです。
CIリニューアルのプロジェクトでは、企業ブランディングで数多くの実績を持つ木住野さんに伴走いただきました
木住野さん:件数が増えているのはいいことですね。ビジュアルコミュニケーションをちゃんとやらなきゃいけない、という意識が、全員に一度インストールされた。新しいOSが入ったようなものですから、問い合わせが増えるのは自然です。
ただ、「成長した」と結論づけるには、まだ早いとも思っています。一般的にVIは、できあがった時点を完成として、その後はいかに守るかという発想になりがちです。でも、企業では日々、予想できないことが起こります。だからこそ、さまざまな状況に対応しながら変化できる、有機的なVIである必要があると思っています。
名刺からグッズ、海外まで。広がる新しいVI
──この1年で新しいロゴやVIはどのようなところへ広がりましたか?
佐々木:反応が特に大きかったのは名刺ですね。1人1人に配られる箱の中にさまざまなバリエーションが入っていて、社員にもお客さまにも興味を持っていただけていると思います。
パターンを活用したVIの展開についても、この1年で徐々に増えてきました。当初から制作していた紙袋も、「このサイズが欲しい」という現場の声を受けて種類が増えました。家具の総合カタログも、事業部側から新しいVIに合わせようとしてくれ、一緒に検証を重ねながら制作しています。海外でも、インドやマレーシアなどで使われる事例が出てきており、私たちが計画したもの以上に、「ここでも使いたい」という声が各所から上がり、実際に展開も増えてきたことで、その広がりを実感しています。
商品は、新商品が出るタイミングで徐々に変わっていくので、まだまだこれからです。それでも、イスの裏側やハサミの刃、運搬時の梱包の表示などは、少しずつ新しいロゴに切り替わってきています。
──キャップやマグカップ、植木鉢など、企業ロゴを使ったグッズも印象的ですね。
金井:そこは大きな変化だと思っています。以前は、企業ロゴの入ったグッズを社員が普段使いすることはあまり多くありませんでした。しかし今は、社員が自らロゴ入りのキャップを購入し、休日にも使ってくれています。企業ブランドと社員の心理的な距離が、目に見えて近くなったと感じています。
「自分の暮らしの中に入れてもいい」と思えるような存在になったことは、すごくうれしいですね。また、国内外のお客さまがお土産として買ってくださることもあり、今まで見えなかった景色が広がっていると感じています。
──木住野さんは、一連の展開をどう見ていますか?
木住野さん:僕は、この幅の広さ自体がコクヨらしいと思いました。プロダクトの後ろに小さくロゴが入るものから、食器のように自由度の高い表現まで幅がある。「縁の下で技術を支えるコクヨ」と「クリエイティブなコクヨ」の両方が見えるのが面白いですね。
管理するだけではない、CIを育てる運用とは
──使う人が増えると、想定していなかった使われ方も出てきますよね。
佐々木:そうですね。VIのエレメントを独自に加工したり、斜めのパターンの色を変えたり。ただ、ルールを無視したいわけではなく、「使いたい」という気持ちから生まれているものが多いんです。
使いたいと思ってくれる場面が増えること自体はとてもうれしいことなので、制限しすぎてしまうのも違う。一方で、ブランドとしての質は守りたい。だからこそ一番いい形でアウトプットが出るようクリエイティブもガイドラインを作るだけで終わらず、並走し続ける必要があります。
──清水さんは普段、そうした社員からの相談を受けていますが、対応の仕方で意識していることはありますか?
清水:ロゴの配置についての相談なら、ガイドラインに沿って「こういう理由なので、こうしてください」と伝えれば終わります。でも、「VIを使ってこんなことを実現したい」という相談の場合は、単純にOK・NGだけを返すことはなるべくしないようにしています。
そのままでは難しくても、「こうしたら実現できるのでは」と一緒に考える。使いたいという相談自体を歓迎していることも丁寧に伝えながら、「仲間を増やす」感覚でコミュニケーションしています。
──いろんな場面で使ってもらいたいと思う一方で、デザイナーとして守りたいことは?
佐々木:使い方によっては、ブランド全体の見え方にも影響します。例えば、VIを部分的に付け足すのではなく、ビジュアルがきちんと生きる形で使ってほしいと思っています。
木住野さん:ブランドをつくるとは、全員を引っ張り上げる横のつながりをつくることだと思います。一つがよければ、ほかの商品もよく見える。逆に一つの質が下がると、ブランド全体が下がって見える。ブランドをつくったからこその利点と難しさは、表裏一体なんです。
ブランドの一貫性を支えるのは、社員一人ひとりの判断
──「自由」と「ブランドとしての一貫性」は、どう両立していけばいいのでしょうか?
木住野さん:すべてを明確なルールにするのは難しいので、最終的には「これはこのブランドとしてどうなんだろう」と、自分で考えられる人を増やしていく必要があります。そうした文化は、1、2年でできるものではありません。コクヨも今は、その過渡期だと思います。
安永:一方で、今のコクヨが「ルールが厳格に決まっているからそれに従う」という空気になっていないのが面白いなと思います。「こういうことにも使えますか」と、社員のほうから踏み込んできている。
要因として、アートディレクションの佐々木と金井が、従来の企業ロゴではあまり想定されてこなかった領域まで踏み込んでチャレンジしていることもあると思うんです。それがルール違反ではなく、「ルールの拡張」に見えているのかなと。
木住野さん:ブランドも、いつも同じ表情をしている必要はないと思います。ただ、はみ出されても困るし、萎縮されても困る。極端に言えば、良ければコクヨというブランドの中にいればいいんです。その「中」をすべてルールとして決めきる必要はありません。「このブランドにふさわしいか」を考えながら、新しい表現へ変化できることが大切です。
──CIリニューアルによって、皆さんや社員の意識・行動にも変化は生まれていますか?
安永:「ブランドは社会との約束」という社内発信を続けていますが、実際にリブランディングを通じて、会社が世の中にどう伝わるべきか、どう捉えられているかを以前より強く意識するようになりました。それが、自分たちの考え方や行動の変化にもつながっていると感じます。社員の側から、「このロゴの使い方は意図と違いませんか」と教えてくれるケースも出てきました。
金井:新しいロゴやVIへの愛情表現ですよね。どんな使われ方をしているのかを気にかけてくれているのはうれしいですし、そこから私たちも気づくことがあります。
佐々木:そうした意識の変化は、日々の相談にも表れていると思います。実際、CI・VIについての相談でも、突き詰めると「そもそも、この企画の立て付けでいいのか」という話になることがあります。
木住野さん:まさにそうです。「このロゴをどう入れるか」ではなく、「そもそも、これは必要なのか」と考える。社内全体がそういうクリエイティブな視点を持てることが大事で、VIはその起点にもなり得ると思います。
質を守る1年から、新しい挑戦を生み出す2年目へ
──最後に、これからCIをどう育てていきたいか聞かせてください。
安永:大切なのは、コクヨブランドに対する「共通感覚」をどうつくるかだと思います。「コクヨらしい」という言葉だけではなく、もっと根本にある「これはいい」「これは違う」という感覚、いわば直感に近いセンスのようなものまで共有できるようになるのが理想です。
その感覚が整っていけばいれば、一つひとつルールで縛らなくても、判断を任せ合い、ブランドを育て合うことができます。そうすれば、これまでの常識なら考えられなかったフィールドにも踏み込めるはず。管理するだけではなく、「攻めるブランド」にしていきたいですね。
佐々木:この1年は、ブランドの質をどう守るかを考えてきました。700件を超える問い合わせが来て、中身が具体的になってきたのも、社員がCI・VIを意識し、丁寧に扱おうとしてくれている表れだと感じています。
質を守る方法が少しずつ見えてきたからこそ、これからは新しいアイデンティティを活用した新しい企画やコミュニケーションをもっとつくっていきたい。インハウスにデザイナーがいる強みも、そこに生かせると思います。
木住野さん:VIは、できた瞬間が完成ではありません。何かにぶつかるたびに、「次はどうする?」と考えていく。その積み重ねが成長だと思います。
昔は、企業がコミュニケーションをする接点も、発信する人も限られていましたが、今は一人ひとりがいろいろな場所で発信できる時代です。だからこそ、使い方を細かく決める以上に、社員一人ひとりがコミュニケーションの質を自分で考えられる仕組みがあることが大切です。