なぜコクヨは、「世界のサステナブルな企業」に選ばれたのか?TIME誌選出の裏側に迫る
2026年、コクヨは米国TIME誌の「World’s Most Sustainable Companies of 2026」に選出されました。今回の記事でたどるのは、ランキング結果だけでは見えない社内の取り組み。法務、HR、情報システムなどの部門は外部評価をどう読み解き、何を変えてきたのか。選出までの歩みと、外部評価を会社の変化につなげる挑戦を聞きました。
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INDEX
Profile
横手 綾美
CSV本部 サステナビリティ推進室
渡邉 栞
リスクマネジメント本部 法務部
関根 緋音
ヒューマン&カルチャー本部 HR戦略推進部
平田 吉孝
グローバルエンタープライズ本部 情報システム部
「World’s Most Sustainable Companies of 2026」とは?
米国TIME誌と調査会社Statistaが、企業のサステナビリティへの取り組みを評価するランキングです。2026年は世界43か国・5,800社以上を対象に上位750社を選出。コクヨは日本企業の中で47位に入りました。
関連情報:コクヨ、米国TIME誌「World’s Most Sustainable Companies of 2026」に選出
https://www.kokuyo.com/news/release/260625cs1/
コクヨのESG(※)評価向上タスクでは、各部門メンバーが専門知識を持ち寄り、評価項目の分析や方針・制度・情報開示の見直しを進めています。
※環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字。利益や売上だけでは見えない、環境、人権、働き方、情報セキュリティ、経営の健全性などから企業を捉える視点です。
狙っていなかった選出。メンバーの第一声は「驚いた」
横手 綾美(CSV本部 サステナビリティ推進室)
-まず、今回の選出を知ったときは、率直にどう感じました?
横手:TIME誌にこうしたランキングがあることは知っていましたが、選ばれることを狙っていたわけではなかったので、正直驚きました。評価では、環境や社会、ガバナンスに関する取り組みがグローバル基準に合っているかが見られます。ESG評価向上タスクのメンバーがこれまで進めてきた、グローバル基準に合わせた情報開示や、取り組みの“でこぼこ”を整える作業が、外部評価という形につながったのだと実感しました。
平田 吉孝(グローバルエンタープライズ本部 情報システム部)
平田:私もただただ驚きました。自分たちの取り組みが、こういう形で見られているとは思っていなかったんです。一度選んでいただいた以上、ここから評価を落とさないよう、またみんなで頑張らないといけないと感じています。
-うれしい結果である一方、「これで十分」とは考えていないそうですね。
横手:はい。ESG評価機関はたくさんあり、評価項目を見ている中で、コクヨの弱いところも見えてきました。とくに人権対策のアップデートは、まだ道筋をつけ始めた段階です。今回の選出はゴールではなく、現在地を知る一つの機会だと捉えています。
法務も人事もITも。サステナビリティは「事業全部」
-サステナビリティというと、環境や資源循環を思い浮かべる方が多いかもしれません。コクヨが目指す「サステナビリティカンパニー」とは、どんな会社なのでしょうか?
横手:目指しているのは、事業活動をすればするほど、社会や環境が良くなる会社です。事業を続けた結果、森林が減る、働く人が苦しくなる、水が汚れる。そうではなく、森林や水などの環境を守り、人権にも配慮しながら事業を行い、社会により良い変化を生み出していく。それが、私たちの目指すサステナブルカンパニーです。
-「環境の話」だけではないのですね。
横手:サステナビリティは、企業が持続可能な状態にあるかと問うものです。例えば、情報セキュリティが不十分で外部から攻撃を受ければ、事業を続けることが難しくなります。人権侵害や汚職も同じです。環境、人権、Well-being、ガバナンスなど、すべてがつながっています。だから私は、サステナビリティは「事業全部」だと思っています。
ただ、対象が広い分、すべてを同時に追うのは簡単ではありません。コクヨでは、経営上とくに重要な課題を「マテリアリティ」として定め、CO2排出量の削減、循環型社会に向けたものづくり、トレーサブルな木材調達、多様な人が活躍できる社会の実現などの目標を事業活動の中で追っています。
活動はしている。でも、世界基準では伝わっていなかった
-皆さんが参加している「ESG評価向上タスク」は、どのような課題から立ち上がったのでしょうか?
横手:きっかけは、ある重要なESG評価で評価を落としたことでした。ESG評価の重要度は高まっており、お客様が取引先を選ぶ際の指標の一つとされていたり、投資家が投資先を選ぶ際にも重視されています。競合他社の中には高い評価を得ている企業もあり、競争力の低下が懸念される状況でした。
ただ、コクヨが何も取り組んでいなかったわけではありません。活動はしていても、グローバルで求められる基準を一部満たしていなかったり、外から確認できる形で情報を開示できていなかったりしたために、低い評価になっていました。それなら、せっかく取り組んでいることを社会や投資家、お客様にも正しく伝わる形にしようと経営で合意し、タスクが始まりました。
タスクが主に参照しているのは、EcoVadis、FTSE Russell、CDPという三つの外部評価です。名称だけを見ると難しく感じますが、私たちタスクチームでは、このような社外の物差しを使って自社の不足を見つけ、必要な改善を各部門へつなぐ活動に取り組んでいます。
(参考)
・EcoVadis : https://ecovadis.com/ja/
・FTSE Russell : https://www.lseg.com/ja/ftse-russell
・CDP : https://www.cdp.net/ja
関根 緋音(ヒューマン&カルチャー本部 HR戦略推進部)
関根:私はHR領域のハブとして、健康経営や労働安全衛生などの担当者からデータや資料を集め、データブックやEcoVadisの回答に反映してきました。テーマによっては工場への確認も必要で、対象範囲はかなり広かったですね。単に数字を集めるだけではなく、なぜそのデータが必要なのかを担当者に説明し、理解を得ながら進める難しさがありました。
渡邉 栞(リスクマネジメント本部 法務部)
渡邉:法務では、EcoVadisの評価項目を踏まえて腐敗防止に関する規程やポリシーを整えました。ウェブサイトも「腐敗防止に取り組んでいます」とだけ書くのではなく、Ecovadisの設問で問われている「マネーロンダリング」などの具体的な腐敗行為の行為様態について言及するなど、表現を見直しています。
平田:IT領域では、すでに取り組んでいるのに、その事実を裏づける適切な資料を出せていない項目があったので、活動そのものに加えて、評価する側に伝わる形へ整えることに力を入れました。その中には、外部の専門家から助言を受けて、「この資料を出せば伝わったのか」と気づいたこともあります。
横手:サステナビリティに関わる活動は、社内のいろいろな場所に点在しています。そこには各部門の歴史や事情があります。評価項目となっているからやればよい、ではなく、コクヨとして取り組む意義はどこにあるのか、どのように取り組むと良い結果につながるのかを考えることが重要です。多岐にわたる評価項目とコクヨを結び付けていくには専門知識が必要で、まだまだ手探りなところもありますが、ESG評価向上タスクのメンバーで協力しながら進めていけることが心強いです。
方針をそろえ、人権対策のアップデートを始動
-タスクで進めた大きな仕事の一つが、「サステナビリティ関連方針の整備」とのことですが、具体的には何を変えたのでしょうか?
横手:コクヨグループ人権方針やコクヨグループ環境方針などのサステナビリティ関連の16方針を新設・改定し、適用範囲や規定を整理しました。
以前は社内で方針というものの位置づけが不明確であったため、取締役室やリスクマネジメント本部と連携して位置づけの明確化と規定化を行い、適用範囲をコクヨグループのグローバル連結範囲に統一しました。HR本部をはじめとする関連部門と横断的に協力し、全16方針の整備を完了させています。
渡邉:品質方針をグローバルスタンダードに合う内容へ見直したことも、大きな変更だったと思います。新しい品質方針は、多言語のポスターや動画でも展開しています。ただ、方針をつくってホームページに載せれば終わりというわけではありません。社員一人ひとりが方針の意味を理解し、自分の業務でどう実践できるかまで考えられるようにすることは、これからの課題です。
コクヨグループの新しい品質方針を周知するため、社内に掲示されたポスター
-外部評価をきっかけに、人権への取り組みも動き始めたと聞きました。
横手:これまで行われてきたハラスメント対策などと、世界で求められる人権対応には、ギャップがありました。カバーすべき領域や対象となる人の範囲もとても広く、どの部門が主幹なのかもあいまいな状態だったのですが、ESG評価を向上させるという視点でも「対応しなければならない課題だ」とはっきりしたことで、具体的な役割分担の相談が始まりました。
-具体的には、現段階ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
横手:2025年に人権方針を策定し、2026年から人権デューデリジェンスに着手しています。これは、事業に関わる人の権利が損なわれるリスクを調べ、予防や改善につなげる取り組みです。現在は、コクヨグループとサプライヤーへのアンケートを通じて、どこにどのようなリスクがあるのかを把握し、対策を考える最初の段階にいます。
-動き始めたからこそ、新しい課題も見えてきたのでしょうか?
横手:そうですね。コクヨのサプライチェーンには多くのサプライヤーがいます。どこまでを対象とし、何をすれば本当に人権を守れるのか。まだ手触りを持てていない部分もあり、何を目指すのかを定めること自体が難しいと感じています。
関根:人権は抽象度が高いテーマで、HR内に専任の担当者がいるわけでもありません。誰か一人が決めるのではなく、サステナビリティ推進室の皆さんも含め関係するメンバーで、確認しながら進めている段階です。
「自由演技」は得意。これからは会社の土台も強くする!
-今回の取り組みから見えた、コクヨの強みと課題を教えてください。
渡邉:コクヨは、社会のために良いと思うことへ自発的に取り組む「自由演技」は得意です。一方で、グローバル基準に沿って規程や体制を整える「規定演技」は、少し苦手なのかなと思います。
外部評価は、投資判断や取引先の選定にも使われます。ただ、点数を取ることだけが目的ではありません。競争力を保ちながら事業を続けるために、体制や枠組みを整え、なぜ必要なのかを社員に伝えていく必要があります。私はこれを「攻めのサステナビリティ」として社内に説明しています。
平田:コクヨは、やるべきことにはきちんと取り組む会社だと思います。ただ、必要なことをすべて網羅できていなかったのかもしれません。外部評価という物差しが入ると、「やるべきことの分母」が見えてきます。できていなかったことに気づき、取り組むかどうかを判断する。今回の取り組みは、その重要性に気づくきっかけになったと思います。
-外部評価のためだけの活動にしないためには、何がポイントだと思いますか?
関根:現場が取り組む目的と、外部評価で求められることが、同じ方向を向くのが理想だと考えています。例えば、定期的に行っている従業員アンケート「Wevox」は、働く状況を把握して、必要なフォローができる体制をつくるために実施しています。その活動が結果として、「働く環境を整えている会社」という外部評価にもつながる。評価のために新しい作業を増やすのではなく、活動本来の目的と結びついていることが大切だと思います。
-最後に、サステナビリティを専門部署だけの仕事にしないために、何が重要だと思いますか?
横手:サステナビリティは、事業全部に関わるものです。今の仕事にも、「この視点を加えたら、もっとサステナブルになる」「もう一歩先まで考えたら、社会課題の解決につながる」という余地があるはずです。それを一人ひとりがイメージできるようにすることが大切だと思っています。
コクヨは、マテリアリティ目標の一つに「現業を社会課題解決へつなげていく社員100%」を掲げています。今回のTIME誌の選出は、サステナビリティ推進室だけの成果ではありません。昨年みんなで方針をつくったこと、各部門がグローバル基準に合わせて活動や情報開示を整えたこと―――その積み重ねがあったからこそだと思っています。
あなたの仕事は、どこでつながっている?
営業、開発、製造、経理、人事、IT―――どんな仕事にも、「もう一歩先まで考えたら社会や環境にどうつながるか」という視点を足せる余地があります。
ぜひ今日の自分の仕事を、
・この仕事は、社外の誰に、どんな影響を与えているのか
・もう一歩先まで考えたら、何が変わるのか
・環境や人権への配慮を、どこかに足せないか
という問いで振り返ってみてください。少しだけ違う角度から眺めてみると、何か見えてくるかもしれません。