インハウスと個人を往来することで見える、これからのデザイン活動とは?
企業の中で働くことと、個人として問いを持ち続けること。そのあいだを行き来することで、デザイナーにはどのような視点が育まれるのでしょうか。Nomadicの活動から、これからのデザイナーの働き方と創造性を探ります。
この記事は約5分で読めます
INDEX
Profile
Nomadic
コクヨのインハウスデザイナーによるデザインコレクティブとして、2023年に活動を開始。元コクヨのプロダクトデザイナーで、現在はJIN KURAMOTO STUDIOに所属する福島拓真、そしてコクヨのプロダクトデザイナーである品川及、笠松祥平、前田怜右馬の4名は、コクヨのインハウスデザイナーとして出会い、福島が退職した現在も「Nomadic」とし作品制作や展示活動を続けている。
2026年4月、コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で開催されたデザイン展示会「好奇心あふれる展」。会期中には、展示と連動したトークショーも行われ、コクヨのものづくりやデザインにまつわる多様な視点が語られました。
今回レポートするのは、トークショー「インハウスと個人を往来することで見える、社外デザイン活動の意義と現実」です。
企業に所属し、プロダクトを世の中に届ける仕事に向き合いながら、個人としての関心や問いを起点に、まだ用途や価値の定まらないものをつくる。その両方を行き来するなかで、デザイナーにはどのような視点が育まれるのでしょうか。
トークショーでは、デザインコレクティブ「Nomadic」の活動紹介を入口に、創造性のあり方やインハウスデザイナーとして働く意味、社外活動を続けるうえでのリアルな課題が、4名それぞれの言葉で語られました。
目的から始めるだけではない。偶発性から生まれる創造性
トークの前半で、笠松はNomadicの活動を理解するうえで重要なキーワードとして、「エンジニアリング」と「ブリコラージュ」を挙げました。
笠松 祥平(コクヨ プロダクトデザイナー)
ここでいうエンジニアリングとは、まず目的を定め、その実現に向けて要素やプロセス、体制を組み立てていく創造性のこと。一方のブリコラージュは、手元にある素材や環境から「こういうこともできるかもしれない」と発想し、目的が後から立ち上がってくるような創造性です。
メーカーのものづくりでは、品質を保ちながら製品を届けるために、目標を立て、役割を分担し、構造化する力が欠かせません。一方で、笠松は「ブリコラージュ的な創造性を働かせることは、企業の中では難しい場面もある」と話します。だからこそNomadicでは、目的や枠組みを少しずらし、素材や環境との偶然の出会いから発想を広げることを大切にしているといいます。
「どちらかが大事というわけではなく、そのバランスが大事だと思っています。企業にいるからこそ、エンジニアリング的な創造性は普段から使っている。けれど、ブリコラージュ的なものも大事にしたい。そのバランスを、作品を通して考えている感覚です」(笠松)
インハウスと個人活動を対立するものとしてではなく、異なる創造性を行き来するものとして捉える。笠松の言葉からは、Nomadicの活動の根底にある考え方が見えてきました。
4人の作品に表れる「作り方」へのまなざし
Nomadicの作品は、メンバーによって素材も表現も異なります。しかし共通しているのは、完成品そのものだけではなく、「どのように作るのか」「どのように見方をずらすのか」に意識が向いている点です。
品川 及(コクヨ プロダクトデザイナー)
品川が紹介したセラミック作品「Assemble」は、量産のために使われる型を、固定されたものではなく、組み替え可能なブロックのように捉え直した作品です。品川は、「型は本来、同じものを均質に届けるためにあるものです。でも、その型自体をブロックのように組み替えることで、その都度違うセラミックの造形が立ち上がるようにできないかと考えました」と語ります。量産の仕組みに向き合うインハウスデザイナーだからこそ、その仕組みを別の角度から見つめ直そうとする。品川の作品には、そんな視点が表れていました。
笠松は、紙で照明をつくるプロセスを本にまとめる活動を紹介しました。作品を完成形として見せるだけではなく、考え方や制作の過程をひらくものとして捉えたといいます。
福島 拓真(JIN KURAMOTO STUDIO プロダクトデザイナー)
福島の作品は、日常の中にある小さな気づきから始まることが多いといいます。例えば、電子レンジで温めたラップがへこむ様子から、その形の美しさに惹かれ、ラップが真空によってガラスに密着する性質を生かした作品へと展開していきました。
目的を先に置くのではなく、目の前で起きた現象にのめり込み、そこから形を探っていく。福島の言葉には、ブリコラージュ的な創造性が色濃く表れていました。
前田 怜右馬(コクヨ プロダクトデザイナー)
前田は、プライベートで制作に取り組んでいる革靴を例に挙げ、歴史や様式が強く結びついた領域への関心を語りました。長い伝統や形式があるからこそ形を変えづらい世界に対して、固定化された領域を少しずらしたい。そこに、前田のものづくりへの姿勢がにじみます。
4人の作品は一見ばらばらに見えます。しかし根底には、自分の頭の中にある完成形を具現化するだけではなく、素材や環境、人との対話を通じて、作り方そのものを考えるという共通した姿勢がありました。
なぜ4人で活動するのか。個人では届かない問いを共有する
トークの中でたびたび話題に上がったのが、「なぜ4人で活動しているのか」という問いです。
品川は、Nomadicの活動を「自分ひとりの作品だけでは届きにくい考え方も、4人がそれぞれ異なる視点から作品を発表し続けることで、少しずつ伝わっていく。また、自分以外の3人から厳しい視点が入ることも、活動の大きな価値」だと語りました。
福島は、4人に共通していたのは「作り方をつくる」という思想だったと話します。素材や環境、時代や人によって、もののあり方は変わっていく。だからこそ、完成形ではなく作り方を考えたい。そうした共通認識があったからこそ、4人で活動することに意味が生まれたのだと話しました。
笠松は、そもそもNomadicの活動は独立を目的にしたものではないと話します。大切なのは、知りたいことや探究したいことに、できるだけ純度高く向き合うこと。独立や仕事化を目的にすると、どうしても市場性の中で考えざるを得なくなる。だからこそ、まずは価値観の合う仲間と問いを追求することを選んだのだと語りました。
前田は、「ものをつくる動機は、ひとりでは見出しにくいものでもある。だからこそ、集団の中で問いを生み出しながら、思想を更新していくスタイルが合っている」といいます。
4人の言葉から見えてきたのは、Nomadicが単なる制作ユニットではなく、互いの問いを育てるための場であるということです。ひとりで孤立するのではなく、4人で考え、作り、話す。その往復が、個々の作品にも、デザイナーとしての姿勢にも影響を与えていました。
コクヨだからこそ実践できている、越境を受け止める働き方
社外活動を行ううえで、メンバーが大切にしているのは「本業のパフォーマンスを落とさないこと」だといいます。個人の活動に取り組むからこそ、会社での仕事にもきちんと向き合う。その姿勢があるからこそ、社外で発表する作品にも説得力が生まれ、そこで得た視点や感覚を会社の仕事へ還元することもできます。
福島は、自身がコクヨからJIN KURAMOTO STUDIOへ転職した後も、このトークに登壇していること自体が、コクヨの風通しの良さを表していると語りました。また笠松は、Nomadicとして活動する際、自分たちがコクヨのデザイナーであることをあえてオープンにすることで、自分たちの立ち位置に対して腹をくくってきたといいます。
会社として個人の動きを受け止める土壌があること。一方で、その環境に甘えるのではなく、本業でも成果を出すという緊張感があること。その両方が、デザイナーとして社内外で活動していく覚悟につながっているように感じました。
さらに、コクヨが掲げる「自律協働型社会」という考え方とも、Nomadicの活動は自然に重なります。一人ひとりが主体的に動きながら、会社という場で協働し、新たな価値を生み出していく。4人はそれを意図的に体現しようとしたわけではないといいますが、結果として、コクヨが大切にしている価値観を別の角度から示す活動になっているようにも見えました。
企業に所属しながら、個人としての問いを持ち続けること。仕事と探究を完全に切り分けるのではなく、行き来しながら互いに育てていくこと。Nomadicの活動には、今のデザイナーが自分の働き方やつくり方を考えるうえでのヒントがありました。
そして企業と個人を行き来する姿勢のなかにこそ、これからのデザイン活動の新しい可能性が広がっているのかもしれません。