「見せる」だけで終わらせない。企画者に聞く「好奇心あふれる展」の体験設計
2026年4月にTHE CAMPUSで開催されたデザイン展示「好奇心あふれる展」は、コクヨのものづくりの歴史やデザインの考え方を紹介するだけでなく、来場者自身の好奇心を生み出す場として企画されました。今回は、企画に携わったコクヨのデザイナーに、展示に込めた思いや体験設計の裏側を聞きました。
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INDEX
Profile
馬目 亮(まのめ・りょう)
グローバルステーショナリー事業本部 マーケティング戦略推進本部 マーケティング部 ブランド戦略グループ
瀧内 彩加(たきうち・あやか)
グローバルステーショナリー事業本部 プロダクト開発本部 クリエイティブ開発第2部 開発第1グループ
大原 衣吹(おおはら・いぶき)
グローバルステーショナリー事業本部 プロダクト開発本部 クリエイティブ開発第2部 開発第2グループ
佐藤 芽生(さとう・めい)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター プロダクトデザイングループ
細井 柾(ほそい・まさき)
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター プロダクトデザイングループ
120年のものづくりと、25年のデザインアワードを重ねて
―まず、「好奇心あふれる展」はどのような背景から企画が立ち上がったのでしょうか。
馬目:大きなきっかけは、コクヨが創業120周年を迎えるタイミングと、コクヨデザインアワードが25年目を迎えるタイミングが重なったことです。
当初は、アワードの歴代作品を紹介する展示として企画が始まりました。ただ、検討を進めるなかで、「アワードだけではなく、コクヨがこれまで向き合ってきたものづくりに対する考え方そのものや、クリエイテビティ全体を見せる展示にした方がよいのではないか」という方向に変わっていきました。
120年の歴史のなかで、コクヨがどのような視点でものづくりを続けてきたのか。そして、アワードを通じて社外のデザイナーやクリエイターとどのように共創してきたのか。その両方を重ねて見せることで、コクヨらしいデザインのあり方を伝えられるのではないかと考えました。
会期中の様子をダイジェストムービーでご紹介
自慢話にしない。来場者の好奇心に火を灯す展示へ
―企画を進めるうえで、チーム内で大切にしていた考え方はありますか。
馬目:メーカーが行う展示は、ともすると「私たちはこんなに頑張ってきました」という一方通行の発信になりがちです。ですが今回は、そういう自慢話のような展示にはしたくありませんでした。
大切にしていたのは、来場者がフラットに楽しめること。そして、展示を見た人が「自分の制作にも活かせそう」「こういう視点があったんだな」という気づきを持ってもらうことです。コクヨの取り組みを知ってもらうだけではなく、来場者自身の次のアクションや好奇心につながる展示を目指しました。
瀧内:商品の表面的な情報だけでなく、開発の裏側やここでしか知れないことを深掘りして見せたいという思いもありました。私たち自身も展示に行くと、「こんな発想があったのか」「自分では思いつけなかった」といった刺激を受けることがあるように、コクヨの商品にも他社にはない視点やアイデアがある。だからこそ、その魅力を来場者の好奇心につなげたいと考えました。
細井:アワードが持つデザインへの姿勢と、コクヨの製品開発におけるデザインへの姿勢は、同じ方向を向いていながら、ニュアンスが少し異なる部分もあります。「その2つに共通するコクヨとしてのデザインへの向き合い方とは何か」を、チーム内で話し合うことが、展示全体の判断軸になったように思います。
5つの視点を「表と裏」で見せる、コクヨらしい体験デザイン
―展示するプロダクトやコンテンツは、どのような基準で選定したのでしょうか。
大原:「エポックメイキングなものを入れよう」という話は最初からありました。発売当時に衝撃を与えたもの、技術的に新しかったもの、デザインの考え方として先駆けとなったもの。文具で言えば「ハリナックス」はその一つです。120年の歴史に触れる展示である以上、時代ごとのものづくりの転換点が伝わる選定を意識しました。
馬目:選定にあたっては、カテゴリーが偏らないこと、タッチ&トライの体験につなげやすいこと、そしてコクヨの5つのクリエイティビティとの関係性が見えやすいことを大切にしました。コクヨの5つのクリエイティビティは、コクヨのものづくり全体に通底するマインドセットです。それぞれの視点をとくに体現している商品を配置することで、展示としてのストーリーに緩急が生まれるようにしました。
タッチ&トライのひとつ、「GLOO」のコーナーでは、四角い塗り面で紙の角まで塗りやすい感覚を体感いただきました
佐藤:コクヨの5つのクリエイテビティは、今回のために新しくつくった考え方ではありません。コクヨのものづくりの中に以前から根づいていた視点を、改めて言葉にしたものです。来場者に伝わりやすい表現になるよう、一つひとつの言葉も丁寧に検討しました。
コクヨの5つのクリエイティビティとは
「好奇心あふれる展」では、コクヨのクリエイティビティを5つの視点で紹介。これらの視点と、デザイナー一人ひとりの好奇心が混ざり合い、たくさんの「働く・学ぶ・暮らす」のワクワクを生み出してきました。
1.人・モノ・コトの「ちょうどいい関係」
2.「わたし」でも「あなた」でもなく、「わたしたち」
3.等身大のことばでとらえる、課題解決
4.「対話」からうまれるものづくり
5.ユニークな化学反応
―展示内容のなかで、とくにこだわった点を教えてください。
馬目:「表と裏」という見せ方にこだわりました。完成形だけでなく、その裏側にある苦労や発想の種を知ることで、ものの見え方は深まります。「こんなことに苦労したんだ」「そういう着眼点から生まれたんだ」と知ることが、誰かに共有したくなったり、自分のインスピレーションにつながったりする。そういう体験をつくりたいと思いました。
瀧内:準備でとくに難しかったのは、120年の歴史の中で生まれた商品の開発意図をどう汲み取り、限られた展示スペースの中で伝えるかということでした。自分たちが入社する前に生まれた商品も多かったので、当時の開発担当者に話を聞きながら、「この商品の一番大切なポイントは何か」をすり合わせていきました。ただ歴史を並べるのではなく、一つひとつの商品の背景や思想が伝わるようにすることを意識しました。
イベントの作業風景
触れて、記録して、持ち帰る。図録とタッチ&トライに込めた意図
―今回、来場者に配布されたオリジナル図録も印象的でした。どのような意図があったのでしょうか。
大原:最初に「コクヨの展示だから、バインダーを母体にしよう」というアイデアが出て、それがすごく自然にはまりました。さらに、タッチ&トライで体験したものを図録に挟み込めるようにすることで、来場者一人ひとりが自分なりにカスタマイズできる形にしました。展示を見て終わりではなく、自分だけの一冊として持ち帰れるものにしたかったんです。
細井:図録は単なるおまけではなく、展示で見たものや体験した感覚をアーカイブとして残すものにしたいと考えていました。タッチ&トライで手を動かした記憶ごと持ち帰れるようにすることで、展示と図録の関係性も深まったと思います。
馬目:最初にメーカーっぽい展示にしたくないと言っていたように、情報だけを一方的に発信する状態にしたくなかったんですよね。展示を見た人が、触れたり、体感したり、持ち帰ったりできる。そうすることで、展示と来場者の関係が一方通行ではなく、双方向になります。図録やタッチ&トライは、そのための大切な仕掛けでした。
“自分にもつくれるかも”という気づきを持ち帰ってほしい
―来場者に対して、どのような好奇心を刺激したいと考えていましたか。
馬目:コクヨが大切にしている着眼点を知ることで、「こういう考え方をしている人たちがいるんだな。自分だったら何ができるかな」と感じてもらえたらうれしいです。展示に来た人が、何か一つでも持ち帰れるものがある場にしたいと考えていました。
大原:企業の開発者やデザイナーの話というと、「すごい人たちが、すごいことを考えている」と受け取られがちです。ですが実際には、商品の出発点は日常の中のちょっとした違和感や使いにくさであることが多いんです。デザイナーだから特別に気づけるのではなく、誰もが普段の生活の中で感じていることが、ものづくりの種になる。そこを感じ取ってもらえたらと思って取り組んでいました。
細井:デザインやものづくりは、意外とハードルが低いものだと思っています。大切なのは、特別なセンスがあるかどうかではなく、自分の感じた違和感や「これ、いいかも」という気持ちに気づけるかどうか。今回の展示でアイデアの起源や開発者のこだわりを伝えることで、「自分もこう思ったことがある」「自分も少し考えてみようかな」と感じてもらえたならうれしいですね。
佐藤:実際に、トークショーを聞いてくれた大学の後輩が、「すごく面白かった」「考えることが増えた」と話してくれたんです。その反応を見て、ものづくりの裏側や考え方がちゃんと伝わったのだと感じました。展示を通して、誰かの視点が少し変わる瞬間を見られたことは、すごく印象に残っています。
会期中に行われたトークショーの様子
―プロジェクトを通して得た学びや、今後に活かしたいことを教えてください。
馬目:これまで文具や家具、それぞれの事業でイベントを実施することはありましたが、事業を横断し、「デザイン」を切り口にコクヨ全体の価値を発信する取り組みはほとんど前例がなく、チャレンジングな試みでした。
今回、職種や経験が異なるメンバーが集まったことで、一人では持ち得なかった多様な視点が生まれたと感じています。異なる視点を持つ人たちの力が、どのように掛け合わさっていくのか。そのプロセス自体が、今回のプロジェクトで得た大きな学びでした。
こうした“異なった視点”が交わることで生まれる化学反応は、イベントづくりに限らず、今後どんな仕事においても提案がおもしろくなっていくポイントだと思います。また機会があれば、コクヨの内部に閉じた取り組みにとどまらず、社外の多様な人たちとも掛け合わさりながら、不思議でユニークな体験を届けていきたいですね。
細井:今回の展示で伝えたように、ものづくりとは、日常の小さな違和感や気づきから始まるものだと思っています。今後自分がプロダクトをつくるときにも、その感覚を忘れずにいたいです。展示会のように表立って説明する機会は少ないかもしれませんが、使う人が「自分ごと」として受け取れるような視点を、プロダクトの形に落とし込んでいきたいと思います。