コクヨのものづくりの
真髄が見えた
オルガテック東京2026

コクヨのものづくりの真髄が見えたオルガテック東京2026

オフィス家具の国際見本市である「オルガテック東京」。
コクヨは今年、3つの展示商品と
来場者自身が“発見”するブースを通じて、
コクヨのものづくりの思想を伝えることに
チャレンジしました。
プロジェクトを率いたメンバーに、
その裏側を聞きます。

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Profile

谷 尭浩(たに・たかひろ)

谷 尭浩(たに・たかひろ)

コクヨ株式会社
グローバルワークプレイス事業本部 コミュニケーション企画部

黒尾 智也(くろお・ともや)

黒尾 智也(くろお・ともや)

コクヨ株式会社
グローバルワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 デザインセンター

安心安全のブランドが、いつしか“埋没”の危機感に変わっていた

プロジェクトリーダーを担当した谷さん

オルガテック東京2026のコクヨ出展において、プロジェクトリーダーを担当した谷さん

――数年で来場者が3倍になり、国内でも注目度が高まっている「オルガテック東京」。改めて、コクヨが出展している目的を聞かせてください。

谷:オルガテック東京は業界が一丸となって、働く人を支えるためのさまざまなアイデアを披露するイベントです。また、購買決定者の来場も多く、お客様と直接コミュニケーションが取れる貴重な場。そのなかでコクヨは、オフィス・インテリア業界全体を盛り上げ、リーダーシップを発揮し続ける役割を担ってきました。

毎年「おもしろいな、コクヨ」と思ってもらえる存在であり続けるのはもちろんですが、今年はさらに、私たちが創業からずっと大切にしてきた想いを、改めてお伝えできればと考えていました。

――ずっと大切にしてきた想い、とは?

谷:コクヨは「安心安全な総合事務機器メーカー」というイメージを持っていただいており、それは本当にありがたいことです。ですが、私たちは単に安心安全の製品を作っているわけではありません。それを使う人がどう感じるか、そしてどのように行動が変わるかという、プロダクトのその先の体験をずっとデザインしてきたんです。

1905年の創業以来、約120年にわたって絶え間なく続けてきた“体験デザイン”。これを今回のオルガテック東京で改めて整理し、私たち自身からもっと積極的に発信していくべきだと気が付いた。結果的に、それが皆さまにとっての驚きとなり、新たなコクヨ像へと繋がっていけばと考えていました。

デザインを担当した黒尾さん

オルガテック東京2026のコクヨ出展において、デザインを担当した黒尾さん

――そうした意識のもと、今年のコンセプト「Find your experience.」は、どのように生まれたのでしょうか。

黒尾:「体験デザイン」を核に据えたものの、人間が動けばすべてが体験になってしまうから、定義が難しい。いってしまえば椅子に座ること自体が、最初から最後まで体験なんですよね。だからプロジェクトを進める間じゅう、僕らが提供したい「体験デザインとはなにか」を、改めて考え続けることになりました。それで行き着いたのが「体験とは私たちから押し付けるものでなく、お客さま自身が好奇心や能動性をもって見つけていくものだ」という真理です。私たちはあくまで、それを一緒に探す伴走者でしかありません。

ところが、これまでのコクヨ家具のプロモーションといえば、詳細な機能説明がポイントになっていました。もちろん、商品が持てる特長を余すことなく伝えていくのは大切なこと。でも、せっかくユーザーリサーチと対話の膨大な積み重ねのうえでものづくりをしてきたのだから、今回は機能を伝えるのは最後でいい。コクヨのプロダクトを使うと、機能や操作性よりも先に、好奇心や笑顔、心地よさがくる――そんなイメージをお客さまと共有したいと考え、そのスタンスを言葉にあらわしたのが「Find your experience.」です。

「体験」を伝える3つの椅子

オルガテック東京2026のコクヨブースで紹介された、3脚の椅子

オルガテック東京2026のコクヨブースで紹介された、3脚の椅子

――今回の展示で扱ったのは「ingCloud」「Duora2」にくわえ、開発中の新型フラッグシップチェア「PROJECT:C15」(以下、「C15」※開発中の仮称)という3脚の椅子でした。どうしてこの3つをセレクトしたのですか?

黒尾:まず、椅子を選んだのは、私たちの体験デザインを一番ストレートに伝えやすいプロダクトだったからです。「ingCloud」はSEやクリエイターが長時間座りすぎている社会問題に着目し、圧倒的な体圧分散を実現した機種。昨年は発売前の出展でしたが「ようやく自分のための椅子が出た」といった喜びの声を本当にたくさんいただき、今回はこれを目当てに来場してくださる方も多かったですね。

――では、定番シリーズ「Duora2」はいかがでしょうか?

谷:簡単な操作で体格に合わせて調整できる「Duora2」は、発売から10年以上が経つ商品です。それでも今回、改めてその魅力に驚く方がたくさんいらっしゃいました。なかには「ずっと使っているのに、この良さを知らなかった」というお客様もいて。コンセプトのとおり、来場者自身が実機に見てふれて、心地よさを発見できる体験が提供できていたと思います。そのためには、これまでのように機能を説明するだけでは片手落ちだったのでしょう。

プロトタイプを世界初公開した「C15」

プロトタイプを世界初公開した「C15」

――3つ目の「C15」は、世界初公開のプロトタイプだったと聞きました。

黒尾:はい。世界最大の調整範囲を持つ椅子で、4年前から研究を続けてきた機種です。C15の開発のはじまりは「ワークチェアーは、いったい誰のためにつくられているんだろう」という、ささやかな疑問から。こうしたささやかな気づきを重大なこととしてとらえ、自分たちの貢献できることまで考えていけるのが、コクヨのいいところです。

ワークチェアーは決して安いものではないのに、自分に合わずブランケットやクッションなどで調整している人が大勢います。また、海外では昇降デスクも一般的になってきたなかで、椅子の調整機能はずっと取り残されたまま。そこに新しい体験の可能性があるはずだと考え、「世界最大の調整幅」を合言葉に技術研究を重ねてきました。

上下昇降デスクに追従する新姿勢“ちょい座り”の評判もよく、ハイスツールのような見晴らしの良さを持ちながら、体圧分散はワークチェアーと同等。座ったお客様からの「なにこれ、気持ちいい!」という反応に、私たちも「これこそ体験デザインだ」と笑顔になってしまいました。機能をどう思うかより先に感動が来る。展示の狙いと、お客様の反応がぴたりと合致したように感じています。

来場者の振る舞いそのものが、空間の一部に

何百枚もの極薄の布が揺れる、コクヨのブース

何百枚もの極薄の布が揺れる、コクヨのブース

――ブースの設計や演出で、とくにこだわった点を教えてください。

黒尾:ブース設計は、とにかく商品や空間のすべてが「Find your experience.」に返ってくるようデザインしています。たとえば、来場者がブースのなかを動き回ることで、ディスプレイされた極薄の布が揺れ、空間が人に応え続ける。トンネル状にくり抜かれた動線が、見る角度によって視界を大きく変化させ、「次はどうなっているんだろう」という探求心を増幅する。10秒ごとに移ろい続ける照明は、時代の移り変わりの速さや不確実性を表現しており、訪れる瞬間ごとに景色を変えてくれる……。そんなふうに、来場者の振る舞いも含めて空間の一部になるようなブースをつくりました。

谷:制作において特徴的だったのは、オール・インハウスにこだわったことです。空間からグラフィックデザイン、ディスプレイ、コピーなど、展示にまつわるすべての制作物を社内のクリエイティブチームと工場で完結できたのは、大きな自信になりました。ブースの表現上もっとも重要だった極薄の布は一枚一枚形状が違うのですが、それもすべて私たちの家具工場で制作しているんですよ。

黒尾:その道のプロにお願いしたほうが、クオリティや効率は上がるかもしれません。でも、自分たちが手を動かすことで生まれるものもある。ブースでは、実際にその製品をデザインしたデザイナーやエンジニアが、自分の口で説明することにもこだわりました「どの場所からも熱量とホスピタリティを感じた」というフィードバックをいただけたのは、各メンバーが徹底して自分事にできたからだと思っています。……ちょっと大変すぎましたけどね(笑)

すべての原動力は「好奇心」。それを信じられるかどうか

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――展示を通して、どのようなコクヨのものづくりのマインドを伝えたいと考えていましたか。

黒尾:ひとつは、とにかく人を見て、対話して、一緒につくっていく「共感共創」。失敗を恐れず膨大な実験を重ねる姿勢も、とても大切にされてきました。そして、もうひとつはやっぱり「体験デザイン」ですね。物を売ることは大事だし、ついそこに一生懸命になりがちですが、コクヨではそのプロダクトで社会をどう変えたいか、人をどう支えていきたいかを、全エンジニアが考えています。技術者がこれを考えている会社って、なかなかない。体験を実現するために必要な技術を探していくマインドは、コクヨの大きな強みです。そして、伝えたいことは結局シンプルで、創業から120年ぶれていません。

谷:変わらないマインドが受け継がれていることを、イベントを通じて何度も実感しましたね。受付を通ったお客さまが、わくわくしながらブースに足を踏み入れる瞬間。メンバーが商品を説明している姿。椅子の座り心地に、驚きと喜びが生まれていく様子。熱のこもったすべてが、すばらしい空間を構成する一部でした。あれほどの好奇心にあふれた場にはなかなか出会えないと、思わず何枚も写真を撮ってしまいましたね。

黒尾:好奇心という土台がなければ、共感共創も実験も体験デザインも成り立たない。すべての原動力は、社員自身の好奇心なんです。最初は自分たちだけの好奇心だったのに、それを盲目的に楽しんでいたら、お客様もいっしょに楽しんでくれた——それを、ブースのいろんな場所で実感できました。

たとえばエントランスに設置した、商品の内部を分解した展示コーナー。あれはエンジニアの好奇心の塊が、そのまま展示されているようなものです。「どんな反応になるかな」と思いながらやってみたら、すごく楽しんでもらえました。あの空間には、確かに好奇心が満ちていたと感じています。

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――最後に、来年のオルガテックや、その他の大型展示会への構想はありますか。

谷:次は10月にドイツ、11月にインドでのイベント出展が決まっています。ここからの運営は次のメンバーに託しますが、類似のコンセプトを3都市で展開していく予定です。ブランド認知というのは、国内と海外でまったく様相が違う。海外では「コクヨって何?」というところからのスタートになるので、イベントはいわば名刺代わりです。このメッセージとコンテンツを海外に届けたら、どんなフィードバックがあるのか、楽しみにしています。

黒尾:椅子というものは、5000年くらい前から存在しているそうです。ミラノサローネなどの展示を見るたび「椅子ってこれ以上いるのかな」と思うこともあります(笑)。それでも今回、C15を体験したお客様の表情を見たとき、私たちにはまだまだやれることがあると、強く実感しました。コクヨの好奇心や、お客様を見つめる力を発揮できる場所は、まだまだ残っている。これからも真摯にものづくりと向き合いながら、コクヨ独自の価値を世界に広げていきたいと感じています。

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